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サイサリス ガトー [部分編集] 絶対戦力 ACE A-14 緑 2-3-0 IR (自軍ターン):《[3]》カード2枚を引く。その後、手札2枚を選んで自軍本国の上か下に移す。 (自軍ターン/敵軍ターン):《[3]/[4]》このカードは、ターン終了時まで地形適性「宇宙」「地球」を得る。 (自動D):このカードと交戦中となった、ACEを含む全ての敵軍ユニットは、ダメージ判定ステップ終了時に破壊される。 [3][0][4] 「絶対戦力」に収録されたACEの緑版。 第三テキストは、ターンX《BB3》の様な時間差除去だが、ACEも対象に取れる。またこれにロールコストを必要としないため、見た目以上に性能を発揮し易い。 第三テキストは、基本的に「サイズ不問で相討ちする」能力であると言える。実際に出撃せずとも、ブロッカーに立っているだけでも大きなプレッシャーとなるだろう。 反面、他のACEと比べて戦闘力、特に格闘力の低さという点で明らかに見劣りする。 アタッカーとして使用した場合、第三テキストが回避能力として機能しないでも無いが、土壇場においては相討ち覚悟で普通にブロックされてしまうので信頼性が高いとは言えない。 有事の判断で無理矢理交戦させたり、ソロモン海域で高機動を失わせたりと、第三テキストの起動を目的とした運用を心がけたい。 特に後者は、イラストにサイサリスが描かれている為、ファンとしても嬉しい取り合わせと言えるだろう。 またブリッツクリークやジンクス《23rd》といったカードと組み合わせる事で、第一テキストが通常以上に活躍する場面も十分考えられるだろう。 上述カードを採用する様な緑のデッキと相性が良いと言える。 第三テキストには「毎に」の記述が無い為、1ターンに1回のみ起動する。→特定のタイミングで起動する効果このカードが攻撃に出撃したエリアにガンダムF91(ハリソン機)が飛び込んだ場合、その時点で第三テキストは起動してしまう。その後、2枚目のガンダムF91(ハリソン機)が飛び込んできたり、普通にブロッカーが出撃してきたとしても、効果で破壊できるのは1枚目のガンダムF91(ハリソン機)のみ。 破壊するタイミングが「ダメージ判定ステップ終了時」であるが、このタイミングはフリータイミングでは無いため、「廃棄にカットインで生還をプレイして破壊を無効にする」などといったプレイングは不可能となる。仮に破壊するタイミングが「帰還ステップ開始時」であれば、破壊された後フリータイミングに入るため、生還《4th》などが使用可能となる。 「絶対戦力」のACE一覧 フルバーニアン&コウ サイサリス ガトー ゴトラタン&カテジナ α・アジール&クェス ガンダムX&ガロード デスティニーガンダム&シン
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983 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/08/30(月) 13 08 03 ID ??? ルーって何乗ってるんだろうな Zは持ち主健在だし 984 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/08/30(月) 13 08 48 ID ??? ZガンダムがF91みたいに一部機能をオミットして少数量産されたとか 985 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/08/30(月) 13 32 02 ID ??? ググってみたらZガンダムって2号機とか3号機とかあるんだな。 その一つでいいんじゃない? アムロ兄さんにはメガゼータがあるし。 987 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/08/30(月) 13 55 58 ID ??? ガンダム→G-3ガンダム →リックディアス→シュツルム・ディアス→ディジェ →Zプラス→ホワイトゼータ→メガゼータ→リ・ガズィ →νガンダム→Hi-νガンダム →月面基地に封印 D.O.M.E.「このスレ的にはこんな感じだろうか。一部矛盾もあるが」 カミーユ「意外にZ関係によく乗ってるんだね」 ジュドー「テレビじゃ一回も乗ってないのにね。後付けって凄いなー」 アムロ「おい、最後のは何だ」
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ティアンム編ではソロモンで交戦する強敵。貴重な戦力が次々に失われていく様は正に『ソロモンの悪夢』 - アムロのガンダム (2018-09-29 08 50 26)
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【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part6-2 547 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/08/01(日) 00 44 55 ID wU4zbHzw0 [2/8] 砂塵が舞い、容赦なく太陽が照りつける荒涼とした大地。 今、その荒れ果てた黄土色の大地にめり込むようにして、片腕を吹き飛ばされた1機のMSが横倒しに崩れ落ちた。 腰部の辺りに千切れた動力パイプがだらりと垂れ下がりしばらくスパークしていたが、やがてそれも途絶えた。 ぼんやりと霞んだ視界。鼻の奥をツンと刺すアドレナリンのキナ臭い匂い。 口の中に広がる鉄の味。 確か以前にもこんな事があった気がする。いつだったっけな。 「おいっ!応答しろニッキ!!無事か!?」 『ル・ローア少尉、状況を報告して下さい!』 「ニッキのザクが直撃を食らった!ゲラート隊長に一旦後退すると伝えてくれ!」 『りょ・・・了解!』 「レンチェフ!!」 「了解だ!援護するから先に行け!!」 そうだあれは確か、ハイスクール時代、ガールフレンドのアリスをめぐって同級生の・・・ ・・・同級生の・・・誰だったっけな・・・・ リブル・・・そうだリブルだ。 リブルと本気で殴りあった時だ。 奴のパンチをもろにアゴに食らった時の感じに似ている。 いや、あの時のガールフレンドはジェニーだったかな・・・ 何だか首が痛くて思考がまとまらない。 「ぐっ・・・げほっげほっ・・・」 横倒しになったコックピットの中で小さく身を捩ったニッキ・ロベルト少尉は、身体に食い込むシートベルトの痛みに顔をゆがめ、小さく咳き込んだ。 「ニッキ!生きていたか!」 「・・・・・・ル・ローア少尉・・・」 安堵したル・ローアの声が耳朶に響き、ニッキはようやく片目をはっきりと開ける事が出来た。 衝撃でどこかにぶつけた際に割れたヘルメットバイザーの破片でコメカミを切ったのだろう。 顔面に流れ落ちた血液が入り込んで固まり、右の瞼は開かない。 「・・・やっちまったか・・・」 痛恨の面持ちでニッキが自嘲する。ザク乗りにとってこれはある意味予想されていたアクシデントだった。 初期型のザクⅡを地上用に改装したMS-06J【陸戦型ザクⅡ】の中には、重力下において≪ある角度から≫想定された以上の衝撃を受けると、パイロットの首に掛かるGを打ち消す為に一瞬だけシートベルトがたわみ、その際にヘルメットの一部がサイドパネルの一部分に当たってしまうという構造的な欠陥を抱えているものがあった。 ≪ある角度から≫という注釈が付く為に、衝撃を受けたケース全てに当てはまる訳ではないが、しばしば戦闘中にザクに搭乗するパイロットの被っているヘルメットバイザーが破損する事故が起きるのは、これが主な原因であった。 パイロット達はこの現象を忌み嫌っていたが設計段階で生じたコックピットレイアウト自体の問題である為、これらの機種における問題点の改善は根本的に不可能であった。 結局パイロット達には、事故を回避するには機体に重大な衝撃を受けるな、つまり、ヘマをするな・・・と揶揄を込めて厳命されるに留まった。 パイロット達が安心して身を預けられるコックピットは、後の機種、例えば06FZ等の完成を待たねばならなかったのである。 548 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/08/01(日) 00 46 16 ID wU4zbHzw0 [3/8] 「ぐあっ・・・」 ヘルメットを脱ごうとしたニッキは激痛でうめき声を上げた。 だらりと垂れ下がった右手が肩から上にあがらない。恐らくこちらは、骨折か脱臼をしているに違いない。 辛うじて動く体で必死にもがくニッキだったが全てのモニターがブラックアウトしている為にコックピット内は薄暗く、ほとんど何も見えない。 僅かに生き残った計器の明かりだけが自分は今、ザクの操縦席にいるのだという事を教えてくれているに過ぎないのだ。 「先行していたお前は、潜んでいた伏兵に至近距離からロケットランチャーの集中攻撃を浴びたんだ」 「ロケット・・・そうか・・・畜生・・・・・・ザクが歩兵にやられるなんて・・・」 「連邦も必死なんだ、命があっただけマシだと思え。動けるか?」 「・・・さっきからやってますが・・・すみません・・・」 「判った。もうしばらく後退したらハッチを開けてやるから、少しだけ辛抱していろ」 普段は彼に辛らつなル・ローアの声が今はやけに優しい。 「こちらル・ローア、ニッキは負傷している模様。 機体の損傷も激しく作戦続行不能。現在、ザクを牽引しつつポイントFに後退中」 『了解。どうか慎重に後退して下さい・・・!』 ニッキのいる暗いコックピットの中に、ル・ローアとセイラ・マスの通信のやりとりだけが響き、やがて機体がガリガリと振動し始めた。 ル・ローアのMS-07A【先行量産型グフ】が動けなくなったニッキのザクを引き摺って移動しているのだろう。 次第に意識がはっきりして来るのと同時に、ニッキの瞳には悔恨の涙が溢れ出した。 注意力が散漫になっていた。 もっとしっかり周囲を警戒していればこんな事にはならなかったのだ。 疲労と慢性的な睡眠不足など、理由にもならない。 「青い木馬隊」では通信士を勤めているセイラや整備班長のミガキはもちろん、14歳のメカニック少女ですら不眠不休で働いているのだ。 自分だけ文句など、言える筈が無い。 それなのに自分は彼等が精魂を込めて整備してくれた貴重なMSを、こうしてスクラップにしてしまったのだ。 そして今後はこのザク1機分の負担が、仲間たちに余分にのし掛かる事になる。 悔やんでも、悔やみきれない。 「泣くな!鬱陶しい!!」 微かに通信から聞こえるニッキのすすり泣きを一喝したル・ローアだが、彼も体調の悪さを精神力で補っている状態だった。 彼だけでは無い。それほど青い木馬隊の誰もが疲れ切っていたのである。 549 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/08/01(日) 00 47 27 ID wU4zbHzw0 [4/8] 「オデッサ作戦」それは、ジオンの大規模採掘基地があるオデッサ周辺地域の奪回と、バルカン半島から東欧にかけて広く展開するジオン軍の一掃を目的とする連邦軍の一大反攻作戦である。 ジオン軍の執拗な妨害にあいながらも物量に勝る連邦軍は、遂に先発部隊の配置を全て完了し、後はレビル将軍が座乗するビッグ・トレー級陸上戦艦【バターン】を擁する本隊の到着を待つばかりとなっていた。 旧地域でいうウクライナの中央、ドニエラル川のほとりにある鉱山基地キエフ。 厳密に言えば実際のオデッサから遠く離れているこの地は「オデッサ作戦」の最前線である。 そのキエフ鉱山基地第123高地に配置されたランバ・ラル中佐率いる「青い木馬隊」は、正式なオデッサ作戦発動前なのにもかかわらず四六時中、敵の攻撃に晒される事となった。 いまだ本隊が到着していないが、連邦軍は布陣が完了している先発部隊だけで順次、キエフに対し小規模な突撃を開始したからである。 物量に勝る連邦軍は、夜昼を分かたず各隊持ち回りで「押さば引け、引かば押せ」の揺さぶりを掛け、ジオン側を消耗させたと見るや迅速に退却するという波状攻撃を仕掛けた。 連邦の先発部隊にはMSが配備されておらず、61式戦車が中心である。 しかしそのぶん逃げ足は速く、おっとり刀で飛び出してきたザクをあざ笑う様に引くのが常の戦法だった。 かと言って戦力の絶対数が少ないジオンのMSが迂闊に単独で突出すると、待ってましたとばかりに広く布陣している連邦軍から十字砲火を受けてしまう。 先程のニッキのザクを例に取るまでも無く、連日の出撃で疲労困憊のジオン兵に罠も掛け放題である。 もちろんこれはあくまでも本隊到着までのつなぎであり、ジオン軍を牽制する目的以外の何ものでもない、豊富な物資を惜しげも無く投入できる連邦ならではの攻撃方法といえた。 制空権が辛うじてジオンにある以上、派手な爆撃などはできないが、兵員数差に物を言わせた完全交代制を確立し休養十分で戦いに望める連邦兵に対し、常にストレスに苛まれ、休む事なく戦闘を強いられるジオン兵。 これはジオン側にとって戦力をじわじわと削り取られる悪夢の戦法であり、戦いの趨勢は明らかであった。 しかしそれでもジオンは善戦している。 青い木馬隊指揮官ランバ・ラルと黒い三連星、ラルを補佐するゲラート・シュマイザー、ダグラス・ローデンの率いる部隊が獅子奮迅の働きを見せていたからである。 だがそれも限界に近いとル・ローアは感じていた。 つい昨日、拡大する敵の線戦を抑える為にフェンリル隊のスワガーとマニング、そしてサンドラはダグラス率いるMS特務遊撃隊に一時的に組み込まれ、青い木馬隊の守りを離れたばかりだった。 こんな状態が続けば、今後第二第三のニッキとなるのは自分かも知れないのだ。 ジオンには何か、大きな転換点が必要だった。それには・・・ 「いけねえ!奴ら増援を投入してきやがったぜ!!MSがいやがる!!」 レンチェフの大声でスピーカーの音が割れている。 ル・ローアがモニターに目を転ずると、61式を背後に下がらせた3機の連邦製MSがマシンガンを手にこちらに進んで来ているのが見えた。 オレンジがかった赤色のボディカラーには見覚えがある。たしか奴の持っているマシンガンは、ザクの装甲を紙の様に撃ち抜くはずだ。 「・・・敵はこちらが消耗するチャンスを狙っていたんだ。弾はあるか?」 「奴らを牽制する為に撃ち尽くしちまったよ。あと一斉射で終わりだな」 ル・ローアの問いに不敵な笑いを浮かべてレンチェフは答える。 彼の操縦するMS-07B【グフ】は装弾数が元々少ない上に連日の出撃で機体のコンディションも万全とは言いがたい。 そして白兵戦が主眼に置かれたグフは銃器の類を装備した敵MS複数を相手にするには分が悪い。 どれもこれもマイナスな状況だが、ま、なるようになるさとレンチェフはひとりごちた。 「・・・・ル・ローア少尉・・・俺の事は・・・」 「お前は黙ってろ!!」 またもやル・ローアがニッキを怒鳴りつけた。 動けないザクの中から聞えるニッキの声はか細く、息も絶え絶えである。 ル・ローアは静かに奥歯を噛み締めた。 狼の紋章を胸に抱く戦士は、決して仲間を見捨てたりはしない。 自分達は何としてでも目の前の敵を撃退し、重傷の仲間を無事に連れ帰らねばならないのだ。 550 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/08/01(日) 00 48 32 ID wU4zbHzw0 [5/8] 「すまんなレンチェフ、付き合ってもらうぞ」 「おう、やるしかねえぜ。ここが抜かれたら俺達のヤサの守りがガラ空きになっちまうからな」 「そういう事だ」 普段はあまりソリの合う2人では無かったが、互いの実力は認める間柄だ。 連携するに不備はない。 「セイラ聞えるか、ル・ローアだ。ゲラート隊長に繋いでくれ」 『了解、回線まわします』 緊迫した状況を察したセイラは無駄な問答や余計な手順を一切省き、涼やかな声でゲラートへ直接回線を繋ぐ。 ル・ローアは、状況の機微を瞬時に読むこの美貌のオペレーターを結構気に入っていた。 これは、素性やルックスだけでは決してその人間を認めない超堅物の彼にしては、非常に珍しい事だった。 『ゲラートだ』 「隊長、新たに現れた3機の敵MSを捕捉。交戦に入ります」 『・・・了解。至急増援を送る、それまで持ち堪えろ。これは命令だ、レンチェフも判ったな』 「了解!」「了解でありマース!」 ゲラートの命令に対しル・ローアは生真面目に、レンチェフはややおどけた復命を返す。 ル・ローアのコメカミに青筋が浮いた。 セイラとは大違いだ。この期に及んでコイツのこういう所が気に食わんのだとル・ローアは舌打ちしたい気分になった。 「・・・隊長はああ言ってくれたが戦力の余分は無い筈だ」 「判ってるよ。他の部隊は現在ほかの地点の防御に駆り出されているからな」 ル・ローアもレンチェフも、ゲラートの言葉はこちらに対する精一杯の手向けである事くらい承知している。 「稼働率は?」 「70%って所かな」 「ふ・・・俺のMS-07Aも似た様なものだ」 以前、レンチェフは当時隊にいたバーニィのヅダを援護する為に敵MS2体と大立ち回りを演じたが、機体コンディションがガタ落ちの今回はそうもいかないだろう。 「・・・もしアムロなら、奴ら相手にどう戦うかな?」 「んあ?何だ、やぶから棒に」 ニッキのザクを岩陰に引っ張り込みながらル・ローアがそう呟くと、レンチェフは虚を突かれたみたいな顔で返事を返した。 彼の脳裏にはバーニィと共に配属されて来た時の、あどけない顔をした赤毛の少年が思い出されている。 そう言えば、アムロが操るヅダ改の大活躍をまくし立てたシャルロッテの熱弁は・・・ちょっとした見物だった。 しかし多少の誇張はあったかも知れないが、アムロがヅダ改1機で8機もの敵MSを撃破したのは紛れも無い事実なのである。 たかだか3機のMSに対して決死の覚悟を決めなければならない凡人の自分達とは何という違いだろう。 「ニュータイプだっけか?そんな妙ちくりんな奴の考えなんざ知るか。 想像したくもねえ。不愉快だ!」 「ふふふ、確かに自分の手の届かない所にいる奴の事なんか、考えたくも無いもんだよな」 「ナニか言ったか!?」 噛み付くような勢いでレンチェフが怒鳴ると、ル・ローアはそれとは対照的な冷笑で応えた。 「聞こえなかったか?ならばもう一度言ってやろう」 「うるっせえ!黙れバーカ!!」 プライドの高いレンチェフはそう応えるしかなかったのだろう、内心では自分も同じだとル・ローアは苦笑した。 アムロは年齢も戦歴もMS搭乗時間も、全てにおいてル・ローア達には遠く及ばない。 にもかかわらず、パイロットとしての腕前は遥かに2人を凌駕している。 面白くない、全くもって面白くないが、そこには努力の類では埋められ無い何かが厳然として存在するのを認めざるを得ないのだ。 もはや自分達があの赤毛の少年に勝るものといえば唯一、経験の差ぐらいのものだろう。 それが判るだけに、二人共悔しくて堪らないのだ。 気に入らない連中を片っ端から上も下も関係なくぶっ飛ばして来たレンチェフだったが、相手が15歳の少年ではそれすらできない。 面白くない事、おびただしい。 ・・・しかし口では何と言おうと、仲間意識が強く部下想いの彼等は、結局何だかんだとアムロやバーニィ等の新兵の世話を焼いてしまうに決まっているのだったが。 551 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/08/01(日) 00 49 45 ID wU4zbHzw0 [6/8] 「そんな事よりだ、姫さん、いるかい?」 『はい、レンチェフ少尉』 レンチェフの突然の指名にも、セイラは慌てず冷静に対応する。 彼の目論見を察し、ル・ローアは顔を曇らせた。 「いつもの奴。頼むわ」 『・・・・・・』 ミノフスキー粒子が濃い為にモニターに顔は映らないが音声は明瞭に聞こえる。 セイラは数瞬だけ黙り込んだ後、万感の思いを込めて口を開いた。 『皆さんなら出来ます、どうかお気をつけて・・・!』 「お」 「・・・へへ、あんがとよ。 やっぱし隊長よりも姫さんにそう言われた方が、不思議とやれそうな気がするぜ」 ・・・同感だ。 戦闘前に不謹慎だぞとレンチェフを嗜めようとしたル・ローアの顔が綻ぶ。 レンチェフはもちろん、言わずもがなだ。 3機の敵MSはもうすぐ、射程圏内に入る。 「さあて。そろそろ行こうかい」 「うむ・・・む?待て、今敵の後方で何か光ったぞ」 その時、2人のグフの集音マイクが遅れて届いた微かな爆発音を拾った。 カメラをズームしたレンチェフが息を呑む。 552 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/08/01(日) 00 50 57 ID wU4zbHzw0 [7/8] 「お、おい!ザクの群れだ!!敵の背後から現れたザクの群れが、61式をさんざんに蹴散らしてやがるぜ!」 「何だと、まさか・・・!」 ル・ローアも目を見張った。大混乱に陥った敵を蹂躙するどの機体も、通常のザクとは明らかに動きが違う。 良く見るとMSはザクだけではない。中にはグフやドムすら凌駕する機動を見せているものもある様だ。 「見ろ!先頭のザクの色を!!」 「おお!!」 華麗なステップで二連装150ミリ砲をかわし、返す刀で61式を撃破したザクの全身は赤くペイントされ、頭部にはブレードアンテナが装備されている。 それは、彼等が待ちに待っていた男が帰還した事を意味していた。 「あれは、赤い彗星・・・!」 「来たか!!む?」 快哉を叫びそうになったル・ローアの顔が引き締まった。 自軍の混乱に戸惑いを見せていた3機の敵MSが、一斉にこちらに向かって走り出したのである。 迂闊にこちらに背を向け、挟撃される愚を避けたのだ。 まずはこちらのMSを叩き、後顧の憂いを断ってから味方の援護に向かうつもりなのだろう。 戦術としては極めて正しいが、ル・ローア達にすればまずい事態が継続してしまった事になる。 しかし事態の急激な変転は続いていた――― 『10時方向、低空より高速で進入して来る機影あり!あっ・・・これは・・・!』 「おわ!?」 セイラの警告を聞くまでも無く、大混乱に陥っている敵陣の頭上を切り裂く様に1機のファットアンクルが飛び越えて来、同時に3機のMSが前部のハッチから吐き出されたのである。 先頭で飛び出した白いMSは、空中で更に加速をくわえ、まさに白い矢となり、こちらに向かって走り来ていたMS一体の首を後ろから追い抜きざまに切り飛ばした。 白いMSはスラスターを緩めず片足で着地しそのままジャンプすると空中で二度三度と軌跡を変え、反転するや、2体のグフの前に背中を見せてふわりと着地したのである。 白いMSが右の逆手で構えていたビームダガーを腰のホルスターに戻すと同時に、首の無くなった敵MSはつんのめる様に地面に倒れ伏した。 恐らく内部のパイロットは何が起こったのか理解できてはいない事だろう。 全てが別次元の戦いであった。 白いMSには僅かに遅れたものの、見る間に追い付いた2機のザクは仲間がやられて動転している残り2体の敵MSに襲い掛かった。 その間もこちらに背中を向けている白いMSは油断無く、いつでも2機のフォローに入れる体勢を取っているのがル・ローアには判る。 しかし白いMSの助けを受ける事も無く、2機のザクは相手をそれぞれバズーカとヒートホークで屠って見せた。 呆気にとられているル・ローアとレンチェフのグフに、白いMSが振り返る。 「ル・ローア少尉!レンチェフ少尉!お久し振りです、アムロ・レイ准尉、ただいま戻りました!」 コックピットハッチを開けて敬礼していたのは、紛れもないあの、赤毛の少年であった。 583 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/08/18(水) 10 36 08 ID wSWchi/M0 [2/5] チューンUPされた赤いザク改を颯爽と駆るシャアを筆頭に、それぞれのイフリートで縦横無尽に暴れまわるシーマとライデン、新型ザクの圧倒的な感触を楽しむ様に敵を撃つクランプ、コズン、アンディ。 シャアの率いるMS部隊は駐屯していた連邦軍の分隊を早々に壊滅させた後、直ちに隣接して布陣している別の敵部隊を強襲すべく進撃を開始した。 シャアの目論見どおり、現在オデッサに篭もっている兵員と機動兵器が本作戦に投入されるジオンのほぼ全ての戦力だと認識していた連邦軍にとって、新たなMS部隊の強襲は寝耳に水の出来事となった。 敵陣営は混乱し、まともな迎撃態勢を執れずにいる。シャアとすればこのチャンスに乗じてできるだけ「青い木馬」隊周辺の敵戦力を殺ぎ取っておきたい所である。 手持ちの武器で可能な限り敵を叩く。腕の見せ所だぞとシャアは笑い、頼もしき彼の部下達もそれに対して不敵な笑顔で答えた。 進撃前にシャアは、アムロの小隊はこのまま4機の輸送機と共にル・ローア達と同行し、先に「青い木馬隊」本隊と合流するよう別命を下していた。 VTOLで離着陸できる4機の輸送機のうち、アムロの小隊を載せ戦場に駆けつけたファットアンクル以外の3機は現在、安全な場所で待機している。 それ等の輸送機はシャア達が敵部隊を殲滅し、進路がクリアとなってからこちらに呼び寄せる手筈となっている。 今頃はちょうど連絡が届き、輸送機はこちらに向かっている筈だ。 それらの中で待機し、皆の無事を案じていたミハルやハマーンも胸を撫で下ろしている事だろう。 ちなみに4機ある輸送機のうち、3機はMS運搬用だが残りの1機にはさまざまな補給物資が満載されている。 ロドス島集積基地にはMSこそ無かったものの、これらの輸送機をはじめ資材・食材などの豊富な物資がストックされており、シャアは今回それらほぼ全てを徴用した形となった。 補給が滞りがちなジオン兵にとって、これらは何よりの活力となる事だろう。 動かなくなったザクのハッチが外から強制開放され、ル・ローアとレンチェフの二人掛かりでコックピットからニッキが助け出されるのを、地面に降り立ったアムロとバーニィは不安げに見つめている。 「ニッキ少尉!」 「しっかりして下さいニッキ少尉!!」 「・・・よ、ようアムロ、バーニィも・・・元気そうじゃないか、お前ら・・・」 地面に横たえられたニッキ・ロベルトは自分をのぞき込む二人を見て、満身創痍ながらもそう言って笑った。 レンチェフの手でヘルメットを慎重に外されたニッキの血だらけの顔を、アムロはポケットから引っ張り出した滅菌布で丁寧に拭う。 その間に素早くニッキの身体を検査したル・ローアは小さく安堵のため息をついた。 「ど、どうなんですル・ローア少尉、ニッキ少尉の具合は・・・!?」 「チアノーゼ無し、拍動、血圧共に正常。内蔵にダメージは無さそうだ。 右肩脱臼と軽いムチウチ、あとは顔面の切り傷だけだな。大した事はない」 心配顔のバーニィに対し、ル・ローアは事も無げに言い放った。 「だ、脱臼でしょう?・・・重傷じゃないですか!」 思わず抗議の声を上げたアムロを、ニヤニヤ笑いのレンチェフが遮る。 「重傷?違うぜアムロ。脱臼なんてモンはなぁ・・・!」 「あ、ちょ・・・!待って下さいレンチェフ少尉!アムロ!少尉を止めろ!!早く!!」 戸惑い顔のアムロを押し退け、自分を薄ら笑いを浮かべて見下ろしているレンチェフを恐怖の眼差しで見上げるニッキ。 やがてレンチェフのゴツイ腕でガッシリと肩を掴まれ、強引に上半身を起こされたニッキの切ない悲鳴に続いてグキッという鈍い音が真昼の荒野に響き渡った。 「ピーピーうるせえよ。ホレ、入ったぜ」 「~~~~~~~~~~・・・・・・」 レンチェフにそう言われても、涙目でガックリと頭を垂れているニッキは言葉も出せない。 荒療治の瞬間は目を逸らしてしまったアムロだったが、だらりと垂れ下がっていたニッキの腕が、一瞬のうちに通常の位置に戻されているのを見て目を丸くした。 少々荒っぽくは見えたが、それは迅速で的確な施術であったのだ。 MS備え付けの救急キットからハサミを取り出したレンチェフはニッキの軍服を素早く切り裂き、治療を施した肩に医療用テープを何重にも巻き付け、むき出しになっ た上半身に腕を固定する様に更にテープを巻き付けた。 その段取りは異様に手慣れていて、迷いというものが無い。衛生兵も真っ青というやつだ。 584 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/08/18(水) 10 37 23 ID wSWchi/M0 [3/5] 「この腕は2週間は動かすな。今日から3日間はシャワーも禁止だ」 「わかりました・・・ぁあ有り難うございます・・・」 何時にないほど真面目な顔のレンチェフにそう言われたニッキは、蚊の鳴くような声で大人しく従うしかない。 「ん?何だアムロ」 憧憬の眼差しで自分を見ているアムロに気付いたレンチェフは怪訝な表情を浮かべる。 「・・・いえ、その。尊敬、してました」 「よせやい。こんなのは誰でも経験さえ積みゃできる」 顔を歪め掌を追い払う様に振ったレンチェフだったが、アムロに賞賛されてまんざらでもなさそうだなとル・ローアは苦笑した。 「ニッキ、役立たずとなったお前はオデッサに後送だ」 「ル・ローア少尉・・・」 一転、厳しい顔でこちらに向き直ったル・ローアにそう告げられたニッキは絶句する。 「ついでに精密検査をキッチリしてもらえ。念の為だ。 間抜けなお前の抜けた穴は、このアムロが十分に埋めてくれるだろうから心配するな」 「・・・・・・」 「そんな・・・!」 再度抗議の声を上げかけたアムロを抑え、ふたたび俯いたニッキは唇を噛みしめた。 すべてが言われた通りであり、異論を差し挟む余地はない。 無駄を嫌うル・ローアは、事実しか口にしないのだ。 「悔しいか?ならば一日でも早く身体を治して隊に復帰しろ」 「・・・了解です」 ニッキには判っている。 ル・ローアは全てにおいてこういう言い方しかしないが、これが彼流の不器用な優しさなのだ。 「はああ・・・」 まだまだだとニッキは深呼吸しながら小さく首を振った。 普段は誰も口にしないがレンチェフとル・ローアは一兵卒から叩き上げの少尉であり、シャルロッテや自分は士官学校出の新米少尉だ。 階級は同じでも現場での、いや人間としての実力はいろんな意味で雲泥の差だというのを嫌でも実感させられるのはこんな時だ。 うかうかしてはいられないなとニッキはアムロとバーニィを見た。 アムロは言うまでもないが、バーニィもなかなかどうして磨けば光る原石だとニッキは睨んでいる。 意地でも自分より年少のこの二人には負けられない。 身体はダメージを食らってしまったが、その分燃え立つ闘志を再確認する事ができた。 そう考えると身体が熱くなり、なんだか怪我の回復が早まって行く気がする。 生きている限り汚名返上のチャンスはあると、ニッキは気持ちをすっぱり切り替える事にした。 もともとポジティブなのが自分の最大の長所だと自負している。 俺はまだやれる、やってやるぞと密かに心に誓ったニッキだった。 585 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/08/18(水) 10 38 37 ID wSWchi/M0 [4/5] 『准尉。後方から友軍のMS接近。どうやらランバ・ラル中佐のMS-07Bのようです』 「ラル中佐が!」 その時、一行の中で唯一ザクに搭乗し、周囲を策敵警戒していたニムバスから通信が入った。 アムロとバーニィの顔がパッと輝く。 フェンリル隊の3人も随喜の目線を交わし合っている。 ゲラートは自分たちの危機に、木馬隊最後の砦たるラルに出撃を要請してくれたのだ。 援軍を送ると言った彼の言葉は嘘ではなかったのである。 そして、部隊指揮官でありながら、単機で駆け付けてくれたランバ・ラルに改めて感謝と尊敬の念を覚える。 流石に彼らの敬愛するゲラート・シュマイザー少佐が心酔している漢なだけの事はある。 「アムロ!バーニィ!良く戻った!良く戻ったな!!」 ワイヤータラップでグフのコックピットから降下しながらランバ・ラルは恰幅の良い体躯を揺らして破願した。 地面に飛び降りる間ももどかしそうに、強い力で若い2人を掻き抱く。 「男子三日あわざれば活目して見よと言う。 ワシには判るぞ。おまえ達、男の顔になったな」 逞しい腕に肩を叩かれ、2人の少年兵は感極まった。 しかし涙は見せない。ラルにそう言われてしまったからには意地でも涙は、見せられない。 だからアムロは、違う言葉を口にした。 「ラル中佐、少し痩せられたのではありませんか」 「こいつめ!十年早いわ!」 呵々と愉快そうに笑ったラルに突然一歩下がって敬礼したアムロに、バーニィも倣って敬礼する。 「アムロ・レイ准尉、バーナード・ワイズマン伍長そして」 アムロがそう言って後方のザク改を見上げると、コックピットハッチを開けて、中のパイロットが敬礼しているのが見えた。 『高い場所から失礼致します!』 外部スピーカー越しにそう言ったパイロットに向けてラルは地上から答礼を返す。 「・・・ニムバス・シュターゼン中尉の3名、シャア・アズナブル大佐の命により本日只今の時刻をもって【青い木馬隊】に合流致します!」 「アムロ准尉はシャア大佐に認められ、今や、この小隊の隊長なのでありますラル中佐!」 「な、なんと・・・!」 アムロの口上を補足したバーニィの言葉に、今度はラルが感極まった。 「・・・・・・」 「・・・」 「・・・」 こみ上げて来るさまざまな感情を胸に、敬礼の手を挙げたまま、無言の3人。 顔面がクシャクシャになりそうになるのを必死で堪えているラルの肩が震えている。 何度か口を開こうとするも、下手をすると嗚咽が漏れてしまいそうで迂闊に声を出す事ができないラルを、フェンリル隊の3人は微笑んで眺めている。 なるほど、これがこの漢の下に集った兵士が皆命知らずになる道理なのかとル・ローアは密かに感心もしている。 やがてラルは少しだけ俯き、敬礼していた掌を両目の縁に当て、軽くつまむ様な仕草を見せると一度だけ咳払いをし、再び顔を上げた。 「良く来てくれた。我々は諸君を歓迎するぞ。ようこそ【青い木馬隊】へ!」 そこには少々両目が赤い事を除けば、威風堂々としたいつものラルの顔があった。 613 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/09/05(日) 00 04 41 ID h6jtlQ4o0 [2/4] 本来のジルコニウム採掘作業を行う際、各掘削地に機材や人員を派遣する中継地としての役割を担う関係上、鉱山基地キエフ第123高地には中規模な駐屯施設が敷設されている。 現在この場所を根城として「青い木馬隊」を筆頭に、大小を合わせると30を超えるジオンの部隊が集っていた。 しかしこの地に併設されていた地下格納庫に「青い木馬」たるペガサス級強襲揚陸艦の巨体が収まりきる筈もなく、施設脇に着陸した木馬の周囲は仮設プレートフェンスで覆われ、艦橋部分と主翼の一部が僅かに上部から覗いている状態になっている。 施設の周囲には急遽塹壕などが掘られたりはしたが、元々戦闘を考慮して造られてはいないフェンスや施設には防弾機能など無く、最前線の備えにしてはかなり心許ないというのが正直なところだった。 しかしランバ・ラルやダグラス・ローデンの再三の施設補強要請にも関わらず、オデッサに陣取るマ・クベ大佐はのらりくらりと補給を先延ばし、結局何の改善もされぬまま今日に至っている。 このやり切れない状況には流石のラルが「ワシの力不足だ。これでは兵士達があまりにも報われん」と嘆いたのも無理からぬ物があった。 照りつける太陽と吹き抜けてゆく砂混じりの乾いた風が、ひび割れた黄土色の大地に立つ少女の髪を弄っている。 仮設フェンスを挟み、「青い木馬」の隣に着陸した輸送機からミハル・ラトキエと共に降り立ったハマーン・カーンは、目の前を慌しく行き交うジオン兵の顔がどれも疲れ切っている事に驚いていた。 恐らく疲れているのは彼等の肉体だけではないのだとハマーンは思う。 先の見えない不安とゆるやかな絶望・・・まるで綿ボコリの様に澱んだ憔悴が、ここにいる全ての人間の身体に降り積もっているようだ。 「ハマーン、あれ、アムロ達じゃない?」 「あ・・・!」 押し寄せる周囲の感情に染まりそうになり、我知らず息苦しさを感じ始めていたハマーンは、ミハルの声に救われた様に振り返った。 ミハルの指さす先には林立する仮設テントの向こう、青いMSに先導され開け放たれた施設のハンガーに向かう数機のMSが見えた。 その中に他のジオン製MSとは明らかに異彩を放つ白いMSも見える。あれは間違いなくアムロ・レイのものだ。 頬を弾ませ思わずハンガーへ向けて駆け出しかけたハマーンだったが、突然現れた人影に前を遮られ、たたらを踏んで立ち止まった。 「失礼、ハマーン・カーン様ですね? お待ちしておりました。私はランバ・ラルの妻、ハモンと申します」 見上げるとそこには美しい金髪を結い上げた、落ち着いた眼差しの大人の女性が微笑んでいる。 ハマーンは少しだけ後ずさりし、気を取り直した様に「いかにも私はハマーンだ」と、何時もの調子で気張った名乗りを上げた。 「主人からハマーン様を丁重におもてなしするよう託って(ことづかって)おります。 そちらのミハル・ラトキエさんと、ご一緒に」 「え・・・あ、あたしも?」 いきなり自分の名前を呼ばれたミハルは目を丸くした。 これから先はジオン要人の娘であるらしいハマーンと、単なる難民でしかない自分の扱いは違って来るだろうと密かに覚悟していたのである。 でも他人からぞんざいに扱われるのは慣れていたし、大佐やハマーンの傍に自身の拠り所さえあれば何て事は無いと、そう思っていたのだ。 しかし戸惑うミハルの横でハマーンは安心したように胸をそびやかせた。 「当然だ。ミハルは私の命の恩人なのだからな!」 「ありがとう、ハマーン・・・」 ミハルはそんなハマーンを優しく抱き締める。 そんな彼女にクスクス笑いながら近付いたハモンは、ミハルの耳元でそっと囁いた。 『・・・シャア大佐がね。あなたの事をくれぐれも、ですって。あなた、大佐のお気に入りなのね』 「!」 その瞬間、ミハルはハマーンを抱き締める力を思わず強めてしまい、ハモンの言葉が聞こえなかったハマーンは満足そうな顔でにこにことミハルを見上げた。 そんな少女たちの様子を見て何かを察したらしいハモンは、それ以上は何も言わず、微笑みながらミハルからさりげなく身を離した。 614 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/09/05(日) 00 05 48 ID h6jtlQ4o0 [3/4] 「2人ともお疲れでしょう。お部屋を用意してあります、こちらへ」 「ま、待って。その前にあの格納庫に行きたい・・・んだ」 踵を返して歩き出そうとしたハモンに慌てて訴えるハマーン。 ハモンが振り返るとハマーンは先程アムロ達のMSが入っていったハンガーを指さしている。 「あそこにはMSや重機があってとても危険です。 それに正直に言いますと、部外者の侵入は作業をする人達の邪魔になるのです」 「そうだよハマーン、アムロにはまた後で会えるさ」 少しだけ顔を曇らせたハモンと、慰めるようなミハルの視線に一旦はおとなしく頷いたハマーンだったが、ミハルとハモンが並んで後ろを向き、何かを小声で話しながら歩き出した隙にそっと列を抜け出し、脱兎の如く格納庫へ向かって走り出した。 走りながらハマーンがちらりと振り返ると、何だかモジモジしながらハモンの問いに答えているミハルの後姿が見えた。 遠目で判るほどに耳が赤い。 めずらしい事に普段あれだけ気の回るミハルが、ハマーンが自分の後ろからいなくなった事に全く気付いていないのである。 2人が何を話しているのかは判らないが、取り敢えずはラッキーだと彼女は小さく舌を出して笑みをのぞかせた。 戦場にそぐわない、愛らしい12歳の少女がツインテールを揺らして疲れ切った兵士達の脇を風のように駆け抜けてゆく。 何故こんな娘がここにいるのだと擦れ違う兵士達は一様に唖然としたが、それでも溌剌とした躍動感に溢れる少女がハンガーの中に消えるまでの間、彼女の姿を眼で追っていた兵士達は、暫し疲れを忘れる事ができた。 634 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/09/12(日) 01 52 03 ID 5jGRBxGU0 [2/5] 息せき切って駆け込んで来るなり、ハマーン・カーンは格納庫内部に充満する暑さと猛烈な機械油の臭いにむせかえってしまった。 クレタ島やロドス島のMSハンガーは空調がきちんと効いていたのだが、どうやらここはそうではないらしい。 口を押さえてせき込みながらもハマーンはきょろきょろと目を細めて辺りを見回し、アムロの姿を探す。 やがてハマーンの目が次第に建物内部の暗さに慣れてくるに従って、ハンガーの中にはハモンの言った通り、整備中のMSがずらりと立ち並んでいるのが見えてきた。 殺気立って仕事に臨んでいるメカニック達が機材を抱え彼女の側を次々と通り過ぎてゆくが、意外な事に、この少女を咎めだてる者は誰もいない。 血走った瞳の作業員達の表情から鑑みるに、余計な事にかかずらわっている時間は無いらしい。 しかし遂に、誰にも注意されない事を良い事に格納庫の奥に歩を進めようとしたハマーンを、 「ちょっと!あなた何!?」 という、鋭い声が竦ませた。 驚いて振り返ったハマーンが目にしたのは、ちょうど今、彼女の後から格納庫に入って来たらしい少女が物凄い剣幕でこちらを睨み付けている姿だった。 髪を無造作なポニーテールに纏め、ハマーンよりも1~2歳年上だと思われるその少女は、奇妙な事に背後に巨大な体躯の軍人を従えている。 「ここは部外者立ち入り禁止よ!?さっさと出て行きなさい!!早く!」 ポニーテール少女は建物の外を指差して大声で喚き立てた。 しかし、ほとんど自分と同年代にしか見えない少女の偉そうな物言いに、ハマーン生来の負けん気が燃え上がった。 「黙れ!私は部外者ではない!!新型MSのテストパイロットだ・・・った事もある!!」 「あのねえっ!つくならもっとマシな嘘をつきなさいよ!! あなたみたいなガキんちょがMSに乗るほどジオンは落ちぶれちゃいないわ!!」 「ガ、ガキんちょだと貴様!?私を愚弄したなっ!? き、貴様こそガキんちょのクセに!部外者はここから出て行け!!」 「ははん!」 その途端、ハマーンよりも少しだけ背の高いその少女は腕組みをし、上から目線でせせら笑った。 「お生憎様、私はここの技術主任なのー!!残念だったわね」 「なっ・・・!?貴様こそ、もっとマシな嘘をついたらどうだ!!」 少女の自信たっぷりな態度に内心たじろぎながらもハマーンは、負けてはいない。 場合によっては取っ組み合いさえも辞さない構えだ。 「あーもう面倒くさいなあ・・・オルテガ中尉、この子をここからつまみ出してちょうだい」 「えっ!?ここで俺に振るのか・・・!?」 一歩も引かないハマーンに業を煮やしたポニーテール少女は腕組みしたまま首を巡らせ、ついに背後の軍人に命令を下した。 しかし、軍服を着た類人猿似の大男には明らかに躊躇いがある。 「当ったり前じゃないの。こういう時の為に中尉はいてくれてるんでしょ?」 「いやしかし、この子はどう見てもメイより年下だしなあ・・・手荒なマネはだな・・・・・・」 「ん、もうっ!」 小さく両肩を怒らせ片足で地面を踏みつけたポニーテール少女に言外に役立たずと言われ、巨漢の軍人はその身体を申し訳なさそうに縮み込ませた。 その時、 「ハマーンじゃないか。どうしてこんな所にいるんだ?」 誰かが大声で彼女の名を呼んだ。 ハマーンが振り返ると、バーニィやニムバスら見知った顔を含む数人の男達と共に歩き来ていたアムロ・レイがこちらに向けて手を振っている。 アウェイのフィールドで心強い味方を見つけ出した時の笑みを、瞬時にハマーンは浮かべた。 635 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/09/12(日) 01 53 03 ID 5jGRBxGU0 [3/5] 「アムローッ!!」 しかし彼女がその名を口にするよりも先に、何と目前の生意気なポニーテールが彼の名を呼びながらハマーンを片手で突き飛ばし、ハマーンがよろけている隙に彼女の横を抜けてアムロに掛け寄り、あろう事かしっかりと抱きついてしまったのである。 「メイ!?」 「おかえりアムロ・・・!!」 ハマーンはあんぐりと口を開けた。どうやら二人は知り合いだったらしい。 もしかして、ここ恋人どどっど同士だとでも、と真っ白になりかけたハマーン。 しかし良く良く見れば、アムロは抱きついてきた少女をどうしたものかと持て余している。実はそれほど親密な仲、という訳でもないらしい。 それを抜け目なく見て取ったハマーンは、剣呑な息を吐き出して辛うじて平常心を取り戻す事ができた。 「久しぶりだな、メイ!」 「バーニィ!あなたも無事だったのね!良かった!!」 「ははは、ついででも嬉しいよ」 生意気なポニーテールは横から顔を出したバーニィにも笑顔を向けた。 アムロに抱きついたままでの挨拶に、バーニィは片目をつぶって苦笑している。 「そういえばアムロ、痛った――――――――――いっ!?」 真面目な目をしてアムロに何かを言い掛けた少女の尻を、その時すたすたと歩み寄ってきたハマーンが思い切り蹴り上げたのである。 腰の入った見事なミドルキックに少女の臀部はドスッと重い音を立て、その身体は瞬間、エビの様にのけぞった。 「離れろ!アムロが困ってる!!」 「~~~~~~~~~~てんめェ・・・やんのかこらぁ―――――っ!!」 「キャ――――――――――ッ!?」 アムロから離れ、涙目でお尻を押さえていた少女はハマーンのツインテールの片方を思い切り引っ張った。 「おお、こりゃいかん」 一行の最後尾から事の成り行きをニヤニヤと面白そうに眺めていたランバ・ラルだったが、泥沼のキャットファイトに発展しそうな雲行きに慌てて周囲の男達にブレイクを命じた。 絡み合って地面に転がった2人の少女は彼らの手でようやく引き離され、荒い息を吐きながら互いににらみ合った。 「落ち着けってば!やめろハマーン!!」 「放せアムロ!あ、あいつは私の顔を引っかいた!」 ハマーンの背後からフルネルソンの要領で両腕を拘束していたアムロは、彼女の右頬にくっきりと付いた3本の赤いミミズ腫れを見てゾッと肩をすくめた。 「何よ!何でアッチがアムロで私の方にはバーニィが来るのよ!!」 「そ、そんな事いていていて!足を踏むなメイ!!」 ハマーンと同じ体勢でバーニィに捕まえられているメイと呼ばれたポニーテール少女は、バーニィの拘束を振り解こうと彼の足を踏みまくっている。 「2人共いい加減にしないか!彼女はメイ・カーゥイン。 14歳だけど優秀なエンジニアなんだ。ここの技術主任でもある」 「え?ほ、本当に!?」 アムロの言葉にハマーンは目を丸くして暴れるのを止めた。 「この子はハマーン・カーン。 マハラジャ提督の娘さんで、地中海のクレタ島ではMSの開発にも携わっていた」 「ええ!?その子の言ってた事、嘘じゃなかったの!?」 メイもアムロの説明にびっくりし、バーニィの足を踏むのを忘れた。 「・・・聞いた事があるわ。ザビ家直属の何とかって機関が、地上でもニュータイプ専用のMSを開発してるって話」 一時の興奮が去り、冷静に話し始めたメイからバーニィはホッとして手を放した。 636 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/09/12(日) 01 54 17 ID 5jGRBxGU0 [4/5] 「そう。あなたが・・・・・・嘘つき呼ばわりして、ごめんなさい」 素直に自分の非を認め、頭を下げたメイに戸惑ったハマーンは、ばつが悪そうにそっぽを向いた。 その様子を見たアムロも、もう大丈夫そうだなと彼女の腕をそっと放す。 メイはハマーンの事を痛々しそうに見つめている。 今もってジオニック社と太いパイプを持つ彼女は、今大戦においてキシリア・ザビ首魁の秘密機関が、年端もいかない子供達を使って行っている非人道的な研究の事を伝え聞いていた。 サイド3からやって来たアンディがクランプとコズンを伴い、マハラジャ提督の娘の救出に向かった事をメイは知っていたし、ジオニックの別ラインから地中海の島に実験施設がある事を聞き及んでいた彼女は、アムロの言葉で全てを諒解したのである。 俯いていたハマーンが、顔を上げぬまま口を開いた。 「・・・本当の事を言うと、私がやっていたのはシミュレーションテストだけなんだ。 MSに乗った事なんて一度もない・・・だから、テストパイロットというのは、本当は・・・」 あれほど意固地だったハマーンが、ぽつぽつと素直な心情を零している。 自分に向けられた敵意にはあくまでも対抗するが、正直な気持ちには我知らず正直な気持ちで答えてしまうしおらしさが、今のハマーンにはあった。 「ううん、あなたは私の知らないMSの立派なテストパイロットよ」 いきなり自分の両手をメイに握られて、ハマーンはハッと顔を上げた。 「あなたにアドバイスを貰う事だってあるかも知れないわ。 だから今後はあなたがハンガーに入る事を許可します。その代わり、作業場では絶対にヘルメット着用よ。守れる?」 「も、もちろん!」 ハマーンは顔を輝かせながらにっこり笑っているメイの手をぶんぶんと振った。 何となくアムロを巡る争い(!)はウヤムヤになり、2人の少女が仲直りしたらしい事を察して、彼女達を取り囲んでいたアムロ、バーニィ、ニムバス、ル・ローア、レンチェフ、オルテガ、そしてラルからも安堵の溜息と笑顔が漏れる。 何せこの場にいる漢達は、揃いも揃ってうら若き女性の扱いを不得手としている者ばかりであるからして、こういう局面では全くと言っていいほど役には立たない。 「そう言えば、オルテガ中尉はメイがあれ程くっ付いているアムロをぶっ飛ばしたりはしないんですね」 「アムロの奴には借りがあるからな・・・まあ仕方あるまい」 興味深そうにこっそり話しかけて来たバーニィにオルテガは神妙に答えたが、すぐに歯を剥き出してニタリと笑った。 「だが貴様がもしメイにチョッカイを出したりしたら・・・容赦はせんぞ」 「め、滅相もないです!」 思い切り首を振りながら全否定したバーニィに、オルテガは良い心がけだと笑いながらその肩を二度三度と結構な力を込めて叩いた。 689 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/09/28(火) 00 03 42 ID zAFEL8nQ0 [2/5] 「ラル中佐、本当に我々はシャア大佐の援軍に向かう必要はないのですか」 「若ほど戦上手な武人はおらん。引き際は弁えておられるさ。 それにライデンやシーマ殿も同行しているのだ、心配は無い。我等はただ、御帰還を待っておれば良いのだ」 目の前の騒ぎが一段落したのを見て本日何度目かの進言を口にしたル・ローアだったが、ラルに自信たっぷりにそう返されてしまえば、うるさ型の彼も引くしかない。 アムロはシャアに対するラルの信頼の深さを改めて思い知り、小さくは無い羨望を覚えた。 果たして自分は、彼と同様にラルの信頼を勝ち得る事ができるのだろうか。そんな事を考えながらアムロはメイの横に立つ巨漢に眼を向けた。 「そう言えばオルテガ中尉。ガイア大尉とマッシュ中尉はどちらにおられるのですか?」 「あいつらはそれぞれ別の小隊を率いて哨戒中だ、俺はまあ後詰めって訳だ。 こんな状況じゃあ、黒い三連星はバラけていた方が効率がいい」 こんな状況というオルテガの言葉に、アムロは広い格納庫内を見渡しながらなるほどと頷いた。 ずらりと並ぶハンガーラックに懸架・格納されているMSや兵器の類は良く言えば多種多様、悪く言えばあまりにも雑多でまとまりが無さ過ぎた。 整備待ちのMSと重機が互い違いに鎮座している、奥に見えているのは巨大な戦車であろうか。 現場の混乱が察せられるというものだ。取り敢えずやって来た部隊を到着順に詰め込みましたというのが恐らくは正しい。 これら、この地にかき集められた人員、機材を「使える部隊」に再編成する際、それを率いる能力を持つ小隊指揮官は、極めて貴重な人材だ。 普段はチームで行動している黒い三連星の3人は、それぞれが熟練の指揮官に匹敵する実力を持っている。どんな部隊も彼等に任せておけば間違いは無いだろう。 オルテガがバックスとしてここに陣取っていたからこそ、ラルはゲラートに指揮を任せ、フェンリル隊の援軍に駆けつける事も出来たのである。 「――――ラル中佐は、おいでになりますか」 その時、凛然と響き渡った涼やかな声に、一同は全員、格納庫の入り口を振り返った。 逆光の中に立つ、ラルの名を呼んだ女性のシルエットは繊細で、あたりを払うかの様な気品がある。 瞬間、吹き込んできた風にまばゆい金髪がさらりと流れ、女性の肩できらきらと輝いた。 690 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/09/28(火) 00 04 46 ID zAFEL8nQ0 [3/5] 「セ・・・セイラ、さん・・・?」 判っている筈なのに、アムロは思わず息を呑み、そう呟かずにはいられなかった。 「あっ・・・!」 背後から強く差し込む日差しに輪郭をぼやかしたセイラがアムロを認め、彼女は光の中で笑顔になった。 ラルやメイをはじめ、ここに常駐している人間が軒並み日焼けをしているのとは対照的に、セイラの肌は以前と変わらず、透き通るほどに白い。 細くゆるやかな曲線を描く眉、聡明な意志の強さを秘めた切れ長の蒼眼、すらりと流れる形の良い鼻梁、笑う時に両の口角が悪戯っぽく上がる桜色の唇。 ―――だが そのどれもがアムロの知るセイラのものでありながら、以前の彼女と比べて圧倒的に何かが違う。 薄暗いガレージを急ぎ足でこちらに駆け寄る彼女の全身が、まるで陽の下から抜け出たそのままに、淡く光ってほのかに輝き続けている。そんな風に見えるのだ。 これは一体どういう事なのだろうとアムロは何度も瞼をしばたかせた。 横に立つバーニィも、セイラがこちらに近付いて来るにしたがって次第に強まる存在感に気圧され、眩しそうに目を細めている。 サイド3の上流階級で育ち、貴婦人と呼ばれる淑女を見慣れているはずのハマーンもセイラの醸し出すオーラに圧倒され、言葉をなくした。 仕方無さそうにハマーンの隣でメイも溜息をついている。しかし目前のセイラから目を逸らす事はできない。 「何と麗しい御方だ・・・」 同様にニムバスも感服した声で呟き、騎士らしい仕草で静かに拝礼の姿勢を取った。 真面目なル・ローアは好意的な視線を送り、レンチェフですら野卑な態度を自重してしまう。 辛うじて平静を装えているのは彼女を誇らしげに見やるランバ・ラルと、あくまでもメイのガードポジションに立つ事に拘りを見せるオルテガぐらいのものだ。 しかしその2人にしても、はたして内心でどうなのかは定かではない。 「姫様は美しくなられただろう」 「ラル中佐・・・?」 いつの間にか横に並んだラルがそっと囁き、アムロは我に返った。 「お前達と別れ各地を転戦するうちに、姫様は苦戦する我が隊の中である種の覚悟を決められた様だ」 「覚悟・・・」 「うむ。自分を偽らず、本来あるべき姿に戻られる事を、是とされたのだろう」 「あるべき姿・・・」 惚けた顔でうわ言の様にラルの言葉を反芻するアムロの前に、遂にセイラは辿り着いた。 距離が近いとより一層確信が持てる。 美しさと共に、何となく他人を拒絶する雰囲気をも内包していたかつてのセイラとは、明らかに違う。 今のセイラの輝きは、老若男女を問わず、あまたの人間を魅了せずにはおれないだろう。 691 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/09/28(火) 00 05 47 ID zAFEL8nQ0 [4/5] 「お帰りなさい、アムロ」 「 」 嬉しそうに頬を上気させたセイラは心もち潤んだ瞳をアムロに向け、それを直視したアムロは胸の鼓動が一気に高まり、咄嗟に返事をする事ができなかった。 「・・・無事にまた会えて本当に良かった。みんな・・・とても、心配していたのよ・・・?」 「す、済みませんでした・・・」 どうして良いか判らず、取り敢えず頭を下げてしまったアムロにセイラは小さく吹き出し、左の目尻を軽く曲げた右手の人差し指で払った。 以前よりセイラの髪は伸びている。長くなった分、横への広がりが控え目になり、軽く肩と背中にかかる感じに落ち着いている。 そのプラチナブロンドをさらりと揺らし、セイラがバーニィに視線を移してようやく、アムロは息をする事を思い出した。 どうも呼吸も忘れて彼女に見とれていたらしい。きっと頭がくらくらしたのは酸欠のせいでもあったのだろう。 「もちろんあなたの事もよバーニィ」 「自分ごときにきょ、きょ恐縮でありますっ!」 セイラの笑顔に直立不動で答えたバーニィに、さっきとはえらく態度が違うじゃないのとメイが呆れた目を向ける。 「大人っぽくなったわ。2人共、何だか逞しくなったみたい」 セイラにそう褒められた少年兵2人は顔を見合わせて大いに照れた。 が、赤くなっているアムロの顔とは裏腹に、その態度にただ事ではない何かを感じ取ったハマーンの顔がみるみる蒼白となった。 次の瞬間、目の前に展開する不可視のバリヤーを突き破る勢いでハマーンは前に出、バーニィを押し退けてセイラの前に立っていた。 その際ハマーンのヒジが鋭角的にバーニィの脇腹にぶち込まれ、瞬間息の止まった彼は脇にくず折れて悶絶しているが、断じてわざとではない。 「私はハマーン・カーン。アムロは・・・私を助け出してくれたのだっ!」 「・・・!」 瞬間、セイラの眼はハッと見開かれ、目の前の少女を見る眼差しが真剣なものに変わった。 「ど、どうしたんだよ、ハマーン」 先程激しくやり合ったメイとはまるで格の違う相手を前にして、ハマーンの顔には焦りの色がありありと見て取れる。 必死で自分の腕を掴みセイラを睨み付け、どうだとばかりに胸を張っているハマーンを見て慌てるアムロとは対照的に、セイラは静かに彼女を見つめている。 しかし、やがて彼女も凛として口を開いた。 「私も、アムロに助けられたの。私にとっても、アムロは命の恩人よ」 「えっ・・・!?」 一瞬、セイラの清辣な眼光に射竦められた気がしてハマーンは硬直した。 不覚にも、牽制したつもりが真っ向から受けて立たれ、逆に虚を突かれてしまったのである。 「・・・姫様、それがしへの用向きを伺いましょう」 更に何かを口にしようとしたセイラをしかし、穏やかな声音のラルが絶妙なタイミングで制した。 セイラはあっと我に返り、ここに来た本来の目的を思い出して含羞の表情を浮かべる。 「そ、そうでした。先ほどジェーン・コンティ大尉がユーリ・ケラーネ少将の元から戻られました」 「む、それではいよいよ」 「はい。戦略情報部の今後の動きが判明したと」 「承知しました。それでは至急、ブリッジに戻ると致しましょう」 きらりと眼光を強めたラルが頷くと、固まりかけていた場の空気が再び動き出した。 ここを立ち去る切っ掛けを得てホッとした様子のレンチェフとル・ローアは、後送されるニッキを見送りにそそくさとポートへ向かい、メイは複雑な表情を浮かべながらもアムロにまた後でねと言い残し、オルテガを伴ってハンガーの奥に消えた。 一方、ブンむくれたままのハマーンは残りの一行と共にブリッジに向かう途中、血相を変えてやって来たミハルとハモンに大目玉を食らう事となった。 797 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/10/13(水) 20 23 36 ID Km1FE2n60 [2/5] 冥い眼をした女であった。 無造作に切り揃えた癖の強い金髪を揺らし、その女が小型陸戦艇【ミニ・トレー】のブリーフィング・ルームに入って来た途端、部屋の温度が急激に下がったと感じたのはマット・ヒーリィだけではなかっただろう。 まるで目に見えない死神を纏わり付かせている様な陰の気を、女は全身から発散させていた。 「アリーヌ・ネイズン技術中尉以下ガンタンク小隊3名、只今到着いたしました」 アリーヌ、そして彼女と共に敬礼している2人を見て、ミケール・コレマッタ少佐は皮肉気に唇を歪めた。 「ふん、何とか間に合ったな。本日までに間に合わなかった場合、貴様等は揃って監獄へ逆戻りしていた所だ」 「なにをっ!?我々が遅れたのも、ヨーロッパのあちこちに駆り出されていたからだ!!」 色をなして詰め寄ろうとした部下の一人を無言で抑えるアリーヌ。その眼は冷静である。 アリーヌの部下で激昂した男は黒人、もう一人は白人だ。年齢はそれぞれ20代後半から30前半程だろうか。 ガンタンク小隊を名乗った3人ともが、幾度も修羅場を潜り抜けて来た面構えをしているところを見ると、彼等の言い分に嘘はなさそうだ。 しかしどう見ても20代前半にしか見えない小娘のアリーヌが、大柄な2人の男を完璧に支配下に置いている事をマットは奇妙に感じた。 階級が全てである軍隊では若輩者が部隊の長を務める事は珍しくは無いが、そういう場合、往々にして実力のあるベテラン兵が影ながら隊を取りまとめているものだ。 しかし、目の前の彼等は違う。 感情的に出た部下の行動を咄嗟に抑えた事で、彼女がかりそめの隊長ではないことが窺い知れる。 「ご心配は無用です。我々には確固とした目的がありますので」 「ふふふ、戦争終結後に特赦が出る様に精々頑張る事だ」 暗さを深めた眼で無表情に言い切ったアリーヌに対し、コレマッタはまたもや皮肉めいた笑いを向ける。 特赦・・・という事は、この3人は囚人兵なのかとマットは少なからず衝撃を受けた。 「貴様らガンタンク小隊と、そこにいる実験部隊の2人・・・」 こちらを振り向いたコレマッタに対し、マット・ヒーリィとラリー・ラドリーの2人は揃って渋面を浮かべる。 コレマッタが呼んだ実験部隊とは、マットが所属するMS特殊部隊第3小隊を指す。 今はこちらの方が通りがいい事も確かだが「実験部隊」はあくまでも蔑称なので本来、部隊長が直属の部下を指して使うべき言葉ではない。 それを判っていてあえて使う。つまりコレマッタとは、そういう男なのであった。 「そして、その戦技研の女を加えた我が第44独立混成部隊は!」 言いながらコレマッタは部屋の片隅に立つクリスチーナ・マッケンジーを横目でねめつける。 病的なその眼差しがねっとりと絡みつくと、気丈なクリスも生理的な嫌悪から、肌をゾッと粟立たせずにはおれなかった。 「・・・これより123高地攻略部隊の支援に向かう!」 「123?我々は144高地に向かう筈ではなかったのですか」 不審気な目を向けそう聞き返したマットも、彼自身の信念とはベクトルが逆方向を向いているこの上官を心の底から嫌っていた。 しかし麾下の部隊を次々に死地に追いやり消滅させる代わりに戦果を上げるコレマッタの手腕は、現場の強烈な批判とは裏腹に、ジャブロー上層部からはある程度の評価をもって受け容れられているのも事実だった。 結果としてコレマッタは依然として大隊指揮官であり続け、彼の元に配属された兵士達は消滅し続けた。 彼の部隊が【死神旅団】と一般兵から忌み嫌われる所以である。 ここ数日間行動を共にし、コレマッタをつぶさに観察してきたマットは、彼は信用するに値しない上官だという結論を早々と弾き出していた。 だからマットはいざとなれば、無体な命令から身体を張って部下を守る覚悟も決めている。 そしてその機会はそう遠くない日、例えば、今、この瞬間にも――― 訪れるのではないかという漠然とした予感もあった。 798 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/10/13(水) 20 24 47 ID Km1FE2n60 [3/5] コレマッタはそんなマットの心情を知ってか知らずかくくくと笑った。 彼は猜疑心が強くヒステリー気質で、常に他者を見下し嘲笑する癖があるが、目下の者に対してはそれがあからさまに態度に出る。 「貴様はバカか?少しは頭を回らせろマット中尉。予定は変更されたのだ!!」 そんなの判る訳ねえじゃねえかとラリーが小声で毒づく横で、マットは無言で眉根を寄せた。 正式に発表されてはいないが、オデッサに篭るジオン軍が思いの他しぶとく、ここ暫くの間で連邦軍は相当の痛手を受けているらしいと専らの噂だ。 特に黒海の対岸に展開していた大規模長距離砲撃部隊が壊滅したというのが事実なら、連邦軍の思惑は大幅に狂わせられた筈だ。 ややもするとレビル将軍率いる本隊の到着が遅れているのも、戦局の悪化と関係があるのではないのかと勘ぐりたくもなって来る。 マットたちの部隊は当初こことは違う大隊に配属される予定だったが、急遽コレマッタの【死神旅団】に編入される事になった。 彼等の直接の上官であるコーウェン准将とクリスの所属する戦技研究団は共に悪名高き【死神旅団】の下に配下の優秀な人材を置く事を回避しようとしたが、結局はジャブロー本部の決定に抗う事は出来なかったのである。 「123高地を包囲している部隊の損耗がヤケに激しいのだ。全く・・・お粗末な話だ! あれだけの数を揃えても、ジオンの屑共を抑え切れんとはな!」 難儀な事に、自分のセリフに興奮して来たらしく、コレマッタの声は次第に大きくなってゆく。 「しかし私が出向くからには無様なマネは絶対に許さん! 現場に到着後、準備が整い次第、貴様らには正面突撃を敢行してもらう!」 「待って下さい」 大仰な手振りを交え、まさにこれから熱弁を揮おうとしたコレマッタをマットの冷静な声が遮り、熱狂に水を差されたこの上官は不機嫌そうに、今度は器用にアゴを歪めた。 「第3小隊だけなら構いません。しかし我々は今回、戦技研のテストパイロットであるマッケンジー中尉をガードする任務があります。 彼女を残して突撃する訳には行きません」 「何を言っている?その女も貴様らと共に突撃するのだから問題は無いではないか」 「彼女が突撃!?そんなバカな!!」 事も無げに言い放ったコレマッタにマットは驚いて食い下がった。 「何がバカだ貴様!?」 「彼女は戦闘要員じゃない! それに新兵器のロングレンジライフルは射程距離を大きく取らなければ正確なデータが・・・」 「ここの指揮官は私だ!全ての采配は任されている!」 「あなたは何を言っているんだ!!」 マットは語気が荒れるのを押さえる事ができなかった。 新兵器の開発は今後の戦局を左右しかねない重要なプロジェクトの筈だ。 だがこの上官は貴重なテストパイロットを一般兵と同様に考え、使い潰そうとしているとしか思えない。 「ぎゃあぎゃあ騒ぎなさんなよ中尉殿」 矯正されるのを覚悟の上でコレマッタに詰め寄ろうとしたマットを、今度は醒めた眼のアリーヌが、はすっぱな口調で遮った。 799 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/10/13(水) 20 25 49 ID Km1FE2n60 [4/5] 「どうせ先陣はあたし達が切る事になるんだ。あんたらはその女のお守りしながらゆっくりついて来ればいいさ」 「何だって?」 怪訝そうにマットは聞き返す。RX-75ガンタンクなら良く知った機体だが、到底先陣を切れる様なシロモノではなかった筈だ 「勝手な事をほざくな中尉!!貴様らタンクは陸戦ジムのバックアップだ!!」 案の定、コレマッタが激昂した声で喚き散らしたものの、アリーヌは当惑顔で隣の黒人を見上げた。 「バックアップ?そりゃどうやればいいんだクズワヨ」 「さぁ?今までムリヤリ先陣を切らされてばかりでしたからねえ」 彼等のやりとりをコレマッタは全身をプルプルと震わせながら見ている。 プライドの異常に高い彼にとって、他者に馬鹿にされる事ほど我慢のできない事は無いのだろう。 「貴様ら・・・上官侮辱罪で・・・」 「お言葉ですがね隊長さん。この地上で『這いつくばった』あたし等のスピードに追いつけるMSなんて、ありゃしないんだよ」 「ガンタンクごときが・・・」 「ただのガンタンクじゃない!陸戦強襲型ガンタンクだ!!」 憎々しげに呟いたコレマッタにアリーヌは噛み付きそうな勢いで叫んだ。 しかしその耳慣れない名前をマットは確かめずにはおれなかった。 「陸戦強襲・・・何だって?」 「RTX-440の事ですね」 その時、部屋の隅でそれまで沈黙を守っていたクリスが初めて口を開いた。 アリーヌは意外そうに声の主を見やる。その顔にはほんの少しだが、人間的な表情が戻った様にマットには思えた。 「ほおう。あんた知ってるのかい」 「直接ジオン軍のMSと交戦する事を想定して開発された機体だと。でも確かあれは情報を盗まれて開発中止に・・・」 「あんたが戦技研で何を聞かされたか知らないがRTX-440は完璧さ!!それをあたし達が証明してやる!!」 「・・・・・・」 対峙する女性達の間でコレマッタが例によって何かを喚き散らしたが、その場の誰もがもう彼の事は眼中に無かった。 「途中休憩を挟んだとは言え、12時間以上走り通しでここに辿り着いたんだ。少しばかり寝かせて貰うよ」 「待て貴様!話はまだ済んでいないぞ!!」 2人の部下を促して踵を返したアリーヌにコレマッタは憤慨したが、振り返ったアリーヌは彼ではなくクリスとだけ一瞬視線を合わせると、キーキー騒ぐ上官を無視し、そのまま部屋を出て行ってしまった。 「よし、俺達も行こう。今のうちに少しでも身体を休めておくんだ」 「了~解ッ!」「わかりました」 「ま、待て!!」 アリーヌ達に続き、マットと彼の指示に嬉々として応じたラリーとクリスも唖然とするコレマッタの横を悠々と通り過ぎてブリーフィング・ルームを後にした。 その直後、偶然部屋の前を通りかかったオペレーターが、中で何事かを叫びながら、コレマッタが部屋備え付けの備品を手当たり次第に叩き壊しているであろう音を耳にしたが、何も聞かなかったフリをして足早にその場を離れたのは賢明であった。 そしてその約4時間後――― 不穏な空気を載せたまま、第44独立混成部隊は鉄の嵐が吹き荒ぶ東へと進路をとったのである。 922 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 20 36 04 ID TeAiC3Jo0 [2/5] 【青い木馬】のブリッジで赤い軍服を着た男が皆の前でヘルメットとマスクを外すと、ゆるくウエーブのかかった金髪の下の精悍な表情が露わになった。 「ミハル」 シャアが初めて見せる素顔に周囲が微かにどよめく中、彼はドアの脇に立っていた少女を呼び寄せ、手に持っていたヘルメットとマスクを彼女に預けると、そのままセイラの前に進み出た。 「ああ・・・キャスバル兄さん!」 「すまないアルテイシア、苦労をかけたな・・・!」 胸の中に飛び込んだセイラを男は静かに抱き締め、2人は互いに目を閉じたまま暫しの間抱き合った。 「ハモン、ワシは夢を見ているのか・・・」 「いいえ現実ですわあなた。これはすべて、あなたが現実になされた事です」 ラルにとって、かつて父親と共に仕えたジオン・ズム・ダイクンの忘れ形見である若き兄妹の抱擁は、まさに夢にまで見た情景だった。 「いいや、ワシ一人がやれた事など僅かだ。この邂逅は、皆の力がなければ成し遂げる事はできなかった・・・」 ラルは感動に震えた声でブリッジを見渡した。 今ここにいるブリッジ・クルーは躁舵手のアコースを筆頭に、その全てをラル隊のメンバーが勤めている。 最初こそぎこちなかったものの、今や彼等は自在にこの連邦製の強襲揚陸艦を操れる様になっていた。 手塩にかけたラル自慢の部下達、百戦錬磨の部隊の極めて高い順応力が、今回またしても証明されたのである。 部屋の中央キャプテン・シートの横にはシャアと共に無事帰還したクランプとコズン、その脇には今回バイコヌールから駆け付けたシーマとライデンがいる。 特にバイコヌール基地司令代理シーマ・ガラハウのバックアップが無ければ、ここまでスムースに事は運ばなかったに違いない。 ありとあらゆる手段を用いて青い木馬隊への補給を優先させているにも関わらず、マ・クベを納得させるだけの表向きの体裁を整え、他からの文句を完璧に封じ込めて見せたシーマ。 その手腕は、意外と言っては失礼だが彼女の戦略的な経理事務処理能力の高さを浮き彫りにした格好となった。 そしてシーマの指示を実行すべく、実働部隊を一手に率いて各地を飛び回ったジョニー・ライデンの活躍も見逃せない。 彼とシーマの呼吸はまさに阿吽のそれであり、シーマはその辣腕を実にのびのびと揮う事ができたのである。 彼等の後方ではサイド3のアンリ・シュレッサーからの勅使、アンディが安堵の笑顔を浮かべている。 誠実で任務に忠実、MSパイロットとしての腕も確かなアンディは使い勝手のいい男だ。 彼の情報とアンリから送られた新型MSが、青い木馬隊に新たな力と道筋をもたらしたのである。 戦闘要員はドアの向かって右側に、まず闇夜のフェンリル隊が陣取っている。 指揮官のゲラートをはじめル・ローア、レンチェフに加え、つい今しがた哨戒任務から帰還したばかりのマット・オースティン、シャルロッテ、ソフィの面々だ。 皆が皆、頼もしい顔つきをしている。オデッサに後送されたニッキは心配だが、幸いにも命に別状は無いとの事だ。 フェンリル隊は他に3名のメンバーがいるが、ダグラス・ローデンの隊と共に遊撃任務に就いており、現在はこの場所を離れている。 ツワモノ揃いの彼等は、今後とも信頼に足る働きをしてくれるに違いない。 923 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 20 37 07 ID TeAiC3Jo0 [3/5] 顧みれば黒い三連星、ガイア・オルテガ・マッシュの3人が、後部コンソール用のシートに背中を預け、それぞれがリラックスした姿勢でこちらを眺めている。 ちゃんとオルテガの隣にはメイ・カーウィンの姿があるのが微笑ましい。 誇り高き武人である彼等には相応の実力が備わっている事は言うまでも無いだろう。 彼等は基本的に自由な行動を約束されている特殊な小隊だが、数奇な縁で今は完全に青い木馬隊に草鞋を脱いでいる。 リーダーのガイア曰く『ここは水が合う』のだそうだ。彼等にはこれからも、これまで以上の活躍をして貰わねばなるまい。 そしてブリッジ側面大型スクリーンの前に立つ3人。 アムロ、ニムバス、バーニィという、シャアを助け今後のジオンを担うであろう若武者達の姿がラルの心を打った。 中でも特に、以前はキシリアに傾倒していたというニムバスを心酔させ、わだかまり無く年上のバーニィを従え、端倪すべからざるMS操縦技術を発揮するアムロ・レイは無限の可能性を秘めた逸材だ。 何よりも彼がセイラと共にジオンに降って来なければ、シャアとセイラ、いや、キャスバルとアルテイシアは戦場で互いに刃を向け合っていたかも知れないのだ。それが、悲劇的な結末にならなかったと、どうして言えよう。 若者の未来はジオンの未来でもある。 ゆくゆくは自分の後継者・・・などとおこがましい事を言うつもりは無いが、どんな事があろうとも彼等の身は守り通してやらねばならないとラルは固く心に決めている。 アムロ達の横にはマハラジャ・カーンの娘ハマーン・カーンと先程シャアからヘルメットとマスクを受け取ったミハル・ラトキエという少女がいる。 と、ハモンはそれまで誇らしげにブリッジにいる人間を見渡していたラルが、シャアのヘルメットを抱き締めているミハルで視線を止め、一転表情を曇らせた事に気がついた。 「どうされたのです、あなた」 「・・・ハモンよ。何故にあのような娘がここにいるのだ」 ミハルを凝視したまま小さくそう呟いたラルの横顔を見て、ハモンは咄嗟に真意を測りかね、眉根を寄せた。 2人は一同からやや離れた場所に立っている為、小声で話す彼等の会話は余人に聞こえていない。 「どういう意味です?」 「何故にキャスバル様は、あんな何の変哲もない難民の娘を傍に置いているのだと言っている」 少しばかりの険を含むラルの言葉に、なにがしかを合点したハモンは、更に眉根をきつく寄せ口を開いた。 「ミハルはとても気立ての良い娘ですわあなた。私は直に彼女と話し、そう確信しました」 「ならん!キャスバル様は大事なお体なのだぞ!玉の輿を狙うおかしな虫が付いては一大事・・・!」 小声でそう言いながらハモンを振り返ったラルは、そこで初めてハモンが自分に怖い顔を向けている事に驚いて口ごもった。 「・・・そう、おかしな虫が付いては一大事なのだ」 「虫?あなたは女性を虫扱いするのですか。あなたはそんな」 「待て。すまん、虫は言い過ぎだった、許せ」 本気で怒ったハモンは怖い。すかさず詫びる事でラルは最悪の事態を回避した。このあたりの空気の読み、流石は青い巨星である。 「しかしワシは認めんぞ。側女にするにしても、あの娘の器量では・・・」 「・・・あなた」 往生際悪くぶつぶつと文句を垂れる青い巨星にハモンは呆れた目を向ける。 戦う事以外は不器用な気骨の軍人ランバ・ラルが、キャスバルという若き当主の将来を慮るとこうなるのだろう。 ハモンに言わせれば是非も無いが、頑固なラルの性格を知り抜いている彼女はアプローチを変える事にした。 「何事かをミハルに申し付けてみれば宜しいのです。そうすれば恐らく、あなたの彼女を見る目も変る事でしょう」 「言われるまでもないわ。あの小娘に自らの分と言うものを弁えさせてやるまでよ。 何よりも、それがキャスバル様の為でもあり、あの娘の為でもあるのだ」 その口調といい態度といい、口うるさく若殿の世話を焼きまくる御家老といった様相を呈して来たラルである。 しかし、今後ダイクン派の旗頭となるキャスバルの傍に上がる女性にはそれ相応の覚悟と才覚が必要となるのは紛れもない事実なのだ。 うるさ方の家臣や近従を総じて納得させる事ができなければ、どちらにせよキャスバルの側に居続ける事など不可能だろう。 そういう意味で、ラルの言い分にも一分の理はある。 ミハルにとっては災難だろうが、今回の件はその試金石になる筈だとハモンは思った。 そして、ハモンはミハルを見守る様に、頑張りなさいと心の中でエールを送ったのである。 924 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 20 38 11 ID TeAiC3Jo0 [4/5] 「・・・ランバ・ラル」 「は・・・ははっ・・・!」 セイラを抱いたまま後方に控えるラルに声をかけたシャアは、ハモンと小声で何事かをやりとりしていたラルが、慌てて居ずまいを正すのを少しだけ待ってから言葉を継いだ。 「心から礼を言う。よくぞ今日まで妹を守り通してくれた」 「勿体なきお言葉・・・!」 「また、皆に世話をかける事になる。宜しく頼むぞ」 「ははっ・・・!」 深く畏まるラルにシャアは信頼の目を向け、首を巡らせてゲラートにも頷いた。 「クランプ、皆に状況の推移を報告してくれ」 「は」 シャアに名指しされたクランプは、ラルとは対照的に緊張を感じさせない物腰で笑った。 ここ暫くの間シャアと行動を共にしてきた者の余裕である。 「1415時に連邦軍小規模駐屯地を襲撃、主に61式戦闘車両撃破、確認戦果37。 損耗なし、負傷なし。1430時までに総員、敵地より撤収。続いて―――」 紙資料を挟み込んだバインダーを片手に報告を続けるクランプの後ろで両腰に手をやっていたコズンが、目が合ったアムロに右手の親指を立ててニカリと笑った。 「攻撃対象を北東20に駐屯していた同規模部隊に変更、1450時までにこれを壊滅、撤収。損耗、負傷なし」 「予想外に敵の数が多くて、ここで弾が切れた。まあやろうと思えばもう一箇所ぐらいはいけたとは思うがな」 クランプの後を引き継ぐ形でライデンが発言すると、シャアは首を横に振った。 「いや、十分な戦果だ。ここは無理をする所ではない」 「大佐の言う通りさジョニー、今回は挨拶代わりなんだ。焦るこたないさ」 シャアに続きシーマにも窘められたライデンは、首をすくめて了解の意を示す。 「流石は若様の指揮。見事なものです」 「おだてるなラル。それとな、その、若様はやめてくれ」 少々困った顔をしたシャアの苦言に、ラルは右拳の下側を左の掌にポンと打ちつけた。 「おお、そうでしたな!キャスバル様は今や我らの頭領。それでは御屋形様と・・・」 「い、いや、そうではない。私の事は大佐でいい」 普段はクールな兄の珍しく慌てた様子を見て、セイラは涙を拭いてクスクスと笑い、同じ様に笑っていたミハルと目を合わせ、遠目で頷き合った。 「あなた。キャスバル様のお立場は、私達以外の兵達にはまだ秘密にしておかなければなりませんのでしょう?」 「ぬお、そうであった。ワシとした事が喜びのあまり浮かれておった・・・!」 ハモンの言葉を受けたラルが思わず片手を後ろ頭に添えると、一同がどっと沸いた。 苦笑しながらシャアはセイラを離し、ミハルに近付くと彼女に預けてあったマスクとヘルメットを再び装着しながら口を開いた。 「ミハル、いつもの奴をここにいる人数分頼む。 この艦の厨房の場所は判るな?運び込んだ食材は好きに使っていい」 「あいよ」 無表情なマスクとは対照的に温かみのこもったシャアの声音と、嬉しそうにそれに応じるミハルの笑顔が驚いた表情を浮かべるラルの目前で交錯した。 2人のやりとりは実に自然で、若いカップルにありがちなぎこちなさが微塵も無い。 それでいて、まるで長年連れ添った夫婦の様に、短い会話の中にお互いへの信頼感が滲み出ているのだ。 「御覧なさいましたかあなた。あの2人に横から口を出すのはヤボというものです」 ハマーンを連れ、パタパタと急ぎ足でブリッジを退出して行ったミハルを目で追っていたハモンがそう語りかけたが、穏やかな目で何事かを思い巡らせている様子のラルに、彼女の言葉は聞こえていない様だった。 .
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【SS】もしアムロがジオンに亡命してたら part4 18 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/03/28(土) 20 26 01.21 ID L8PbMu60 両手を負傷したレンチェフに替わり、バーニィが操縦する片足を損傷したグフを ニッキとシャルロッテのザクが両側から抱えるようにサポートしつつ行軍し、 念の為にマニングのザクが後方からの敵の追撃を警戒する。 ニッキの第二小隊と合流したレンチェフ達一行が野戦基地に帰り着いたのは、 その日の夕刻、日が沈む少し前の事だった。 「良く戻ったワイズマン伍長。レンチェフ少尉もご苦労。2人とも無事で何よりだ」 「申し訳ありませんゲラート隊長。大事なMSをロストしてしまいました」 本部テントの中、ゲラートの労いの言葉にもバーニィは硬い表情を崩さずに敬礼で答えた。 後ろで肩をすくめるレンチェフに目をやりながらゲラートは苦笑する。 「ゆっくり休めと言いたい所だが、ここは最前線だ。いつ状況が急転するか判らん。 次の命令があるまで待機だ。レンチェフは両手の治療を」 「こんなもん、ツバつけときゃ治りますよ」 「ダメですよ!どう見てもⅡ度熱傷じゃないですか! 医療スタッフに出来る限りの処置をしてもらわないと! まずは感染よけの注射ですね!」 「げ・・・俺、注射だけはちょっとな」 シャルロッテに引っ張られたレンチェフが退場すると、 それとは入れ替わりにテントに入って来たアムロがバーニィを見つけ、小躍りして喜んだ。 「バーニィさん!無事で本当に良かった!」 「済まない、心配を掛けたなアムロ。お前のナビのおかげで助かった。ありがとうな」 抱き合って喜ぶ少年兵達をしばらく目を細めて眺めていたゲラートは、 頃合いを見計らってアムロに問うた。 「どうだ。ヅダの改修具合は」 真剣な眼差しのゲラートに対してアムロはバーニィから離れ、背筋を伸ばしてから向き直った。 この剛健な軍人には、自在に周囲の空気をピンと張り詰めさせる力があるようだ。 だが、アムロの表情は明るい。 「先程、無事完了しました。バーニィさんが命懸けで集めた詳細なデータによって かなり細かい数値をリミッターに設定する事ができたんです。 ヅダの構造上の欠陥も判明しましたので、合わせて対策を講じる事ができました。 制限はありますが、これでヅダはザク等の汎用MSと同様に運用する事が可能です」 「本当か!やったなアムロ!」 「全部バーニィさんのおかげですよ」 報告途中なのにも関わらず再び肩を抱き合って喜び合う2人。 ゲラートはそんな2人を咎める様な事はせず、深く息を吐き出しながら静かな笑みを湛えた。 37 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/03/30(月) 12 57 27.02 ID uIZZWIc0 依然、敵陣の監視を続行しているル・ローアたち第一班との通信をニッキとゲラートに任せ、 アムロとバーニィはMSに修理整備を行なっている簡易工廠テントへと赴いていた。 この上空から発見され難い様に迷彩を施された巨大な工廠テントは、 MS調整を野ざらしで行なわない為に敷設された重要な空間である。 改修を完了したヅダは、懸架台の上、静かに屹立した姿で二人を出迎えた。 バーニィは感慨深げにそのMSを見上げる。 こいつにはあんなに危険な目に遭わされたというのに、 何だか深い絆で結ばれた戦友と再会した気がして何だか不思議だった。 あの、連邦軍の女性MSパイロットの声がまた思い出され、 そのせいなのかどうなのか、少しだけ頬が熱くなった。 「あれ?どうしたんです、顔が赤いですよ?」 「な、何でもないよ」 アムロの言葉を慌てて打ち消したバーニィは話題を逸らす様に、そこにいたミガキに話しかけた。 そうだ、今は浮かれている場合じゃない。 「もう、こいつの運用に危険は無いんですね」 「ああ。リミッターのおかげで出力に制限が掛かるが、通常機動ならまず問題は無い。 ただエンジンの冷却効率が悪いという欠陥は、 初期設計構造的な物にも関連しているから完全に解決する事は不可能だ。 最初期に設計されたMSだから構造的な熟成度は望むべくも無いんだがな」 「そうなんですか・・・それで、リミッター付きのこいつは、どのくらいの出力になったんです?」 「そうだな・・・出力・推力共にMS-05クラスって所だ」 「MS-05って、旧ザクですか!?・・・そいつはちょっと、 敵のMSに対してパワー不足なんじゃないかなあ・・・」 バーニィは不安げにヅダを見上げた。直接敵MSと何度もやりあった彼は、 連邦製MSの性能をイヤと言うほど思い知らされている。 敵にMSがいない状態を前提に開発され運用されていた旧ザクでは、 強力な敵MSには歯が立たないだろうと思えるのだ。 「確かにそうだが、この部隊でも現在マット・オースティン軍曹がMS-05を使っているんだ。 新型MSも急ピッチで配備されてはいるが・・・ 開発サイドの足並みが揃わずジオン軍全体にはまだまだ行き渡っていないのが実情だ。 苦しいが、我等は手元のカードで勝負するしかない。後は、ここで戦うんだ」 ミガキは自分のこめかみを人差し指でつついている。 「インサイドワークという事ですか・・・」 バーニィは嘆息したい気持ちになった。生半可な工夫ではあの敵MSには手も足も出ないだろう。 ミガキのその言葉は、気休めにしか聞こえなかったのだ。 だがその時、今まで黙っていたアムロが口を開いた。 「僕は、性能の劣るMSでガンダムと互角以上に渡り合った人を知っています。 戦い方次第で僕達にも同じ事ができるはずです」 アムロはまたもやシャアの駆る、あの赤いザクを思い浮かべている。 もうMSの性能に頼った戦い方をしてはいられない。 それに、それではいつまでたってもセイラの兄、シャア・アズナブルには追いつけないだろう。 シャアと直接会った事はないが、たぶん彼ならこんな状況でも 不敵に笑うのではないかと思えたからだ。 「それに、オペレーターをやっていて実感したんですが、他の隊に比べてこの部隊は、 集団戦術用の特殊なセンサー装備が充実しています。 それを使えば、やりかた次第でしょうが・・・充分、敵と渡り合う事ができると思います。 バーニィさんだって、あの時、あと一歩で敵を撃破する事ができたじゃないですか」 アムロの言葉にそうだなと頷きながらもバーニィは、 あの敵MS・・・そういえばあの女性パイロットの声の主は、 一体どんな顔をしているのだろうか?などと不謹慎な事を考えていた。 何考えてんだ、今はそんな場合じゃないだろうと判ってはいるのだが、 何故か取り止めも無くそんな事が浮かんでしまう。何だかマジで顔が熱い。 38 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/03/30(月) 12 58 54.68 ID uIZZWIc0 「だがな、こいつをただのMSだと思うなよ?こいつにはちょっとした仕掛けがしてあるんだ」 まるでこれが言いたかったんだと言わんばかりにミガキがニヤリと相好を崩した。 ギャラリーに新たな機体性能を公開してその成果を発表するとき、 その瞬間は技術者冥利に尽きるらしい。 「リミッターを任意で解除すれば・・・ 鎖から解き放たれたこいつは、短時間ながらヅダ本来の推力で機動する事が可能となる」 ほう、と、アムロはミガキの言葉に瞠目した。 「その状態での行動限界時間はおよそ5分程度だろうが、 その時点でのエンジンの状態によっても多少増減する。 だが、緊急回避時や戦場からの急速離脱には充分な時間だ。その用途は広いだろう。 ただし、この機能は一度の出撃で一回しか使用できない。 いいか、使いどころを間違えるなよ?」 アムロは思わず心の中で快哉を叫んだ。データでしか見ていないが、 ガンダムを越えたヅダの機動には密かに胸を躍らせていたのだ。 しかし懸念はある。まがりなりにもバーニィが危うく命を落としかけたMSなのである。 リミッター解除時の熱対策は本当に万全なのだろうか。 「万が一の事を考えてスイッチ一発で背部装甲パネルをパージできるようにしておいた。 これによりエンジンがほぼ剥き出しの状態となり、 機内に熱が篭る事を防ぎ冷却効率を大幅にUPさせる事ができる。 が、これはあくまでも緊急時のものだ。背部の装甲板が無くなる訳だからな。 特に戦闘中はむき出しのエンジンに攻撃を受けたらひとたまりもないだろう。 基本的にリミッター機能は万全だ。この装置を使う必要は無いだろうが、 もうMSの不備で悲惨な事故だけは起きて欲しくないんだ・・・」 アムロの問いにミガキは辛そうにそう答えた。 ヅダをめぐる一連の事故は技術者として身に詰まされるものがあるのだろう。 バーニィはそこまで考えた時にふいにめまいを感じてよろめいた。 顔だけではなく身体全体が何だか熱く、重い気がする。 変だな、今は別に・・・あの連邦パイロットの事を考えてはいないんだけど。 「どうしたんですバーニィさん!?」 「・・・いや、だから、なんでもないよ、ちょっとだけふらついただけだ」 異常に気付いたアムロが声を掛ける。 ロレツも怪しくなっているバーニィの額にミガキが急いで手をやると、その髭面を曇らせた。 「いかんな。かなりの熱がある。医療テントに運ぼう。アムロはゲラート隊長に報告してくれ」 「わ、判りました」 アムロが踵を返してテントを出ようとした時、ちょうど入って来たニッキと鉢合わせした。 ニッキの顔は緊張している。 「敵の大隊に動きがあったとル・ローア少尉から連絡が入ったぞ。 パイロットは至急、本部テントに全員集合しろとゲラート隊長からの通達だ・・・ って、おい、一体どうしたんだ?」 ニッキはミガキに支えられている状態のバーニィに気が付いて目を丸くした。 バーニィは朦朧とする意識の中で「何でもありません大丈夫です」 とニッキに答えたつもりだったが、その声は誰の耳にも聞こえていなかった。 67 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/01(水) 19 06 02.49 ID lZpxH1g0 「ワイズマン伍長の容態はどうだ?」 本部テントに入って来たミガキに対し、作戦室中央の大ぶりな机の周りに、 フェンリル隊全員を集め行われていたブリーフィングを一時的に中断してゲラートは尋ねた。 アムロは唾をごくりと飲み込んだ。隊員達も皆、不安そうな顔でミガキの言葉を聞いている。 「心配ありません、ただの過労だそうです。 いちおう被爆検査もしてみましたが、結果は陰性でしたよ。 危険な菌やウィルスも血液からは特に検出されませんでした」 ホッと安堵の声が一同の口から漏れる。 「まだ地球の環境に慣れないうちに過酷な連戦が続いたらしいですから、 一時的にホメオスターシスが低下してしまったんでしょう。 今は、栄養剤を飲んで眠っています。 まあ、昔も今も、体調を戻すには栄養の摂取と睡眠・・・に勝るものはありませんからね」 もともと2部隊を不眠不休で経由する強行軍で地球に降下し、 着任と同時に最前線で対MS戦闘に駆りだされたバーニィの体調は、 万全とは程遠いものだったのだろう。 そして自分以外の小隊が全滅するという前回の戦闘でのダメージが抜け切らないうちに フェンリル隊に転属させられ、すぐに欠陥MSで連邦の新型MSと 連戦するハメに陥ったバーニィ・・・ 倒れるのも無理はないとアムロは思った。 だがそんな中、泣き言一つ言わず、バーニィは自ら望んで過酷な任務を全うしたのだ。 この束の間の休息は彼が手にするべき当然の権利だろう。 アムロがそれをゲラートに進言しようとした時、 先に口を開いたのは両手を治療してここに駆け付けたレンチェフだった。 「隊長、奴は良くやりましたよ。今回だけはゆっくり休ませてやって下さい」 「私からもお願いします、ゲラート隊長」 「今回の作戦、バーニィの穴は俺が埋めます。 俺も皆さんにそうやってカバーして貰いましたからね」 レンチェフに続き、シャルロッテは厳しい顔で、ニッキは陽気に声を上げる。 自分が言おうとしていたセリフを全て彼らに言われてしまい、 所在無さげに口をぱくぱくさせながらアムロは、 ニッキが彼を“バーニィ”という愛称で呼んだ事を嬉しく感じた。 誰が心配するまでも無くバーニィは、 正式な仲間として隊の信頼を勝ち取っていたのである。 「・・・そうだな。MSが1機失われた事でもあるし、 どちらにしてもパイロットが一人余る。 この作戦、ワイズマン伍長には本部就き予備パイロットとしての任務を与える」 前線と本部の位置が離れ過ぎている今回の作戦では、 名目はどうあれ予備パイロットの出番は無い。 ただ休息を認めると言うのではなく、そこに何らかの役割を持たせているのが 何事に対しても厳格なゲラートらしかった。 そして、これならばバーニィが目を覚ました時、周囲に引け目を感じずに済むだろう。 ゲラートは素早くアムロに視線を移した。 「アムロ准尉、改修したヅダに搭乗しろ。ワイズマン伍長の必死の努力を無にするなよ?」 「了解!」 アムロはゲラートに敬礼を返す。バーニィは実力で皆に認められた。今度は僕の番だ。 良い顔つきをしているアムロを見たゲラートは、 彼の中に秘められた闘志を感じ取り、心配は無いなと頷いた。 「ブリーフィングを再開する」 ゲラートの言葉には無駄が一切無い。 フェンリル隊の全員は再び、机の上に広げられた大きな地図の上に目を戻した。 112 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/04(土) 01 22 26.48 ID aW/Znqk0 『6機の戦車を従えた小型陸戦艇が、監視中の敵大隊に合流しました。 画像を照合したところ、新型MSを搭載し、 レンチェフ達と交戦したという件の陸戦艇に間違いは無いと思われます』 ル・ローアからこの連絡が入った後、ゲラートは直ちにフェンリル隊パイロットを招集し 襲撃作戦を練っていた。 経緯はどうであれ、結果的に小型陸戦艇を取り逃がし、まんまと敵部隊との合流を許してしまった。 しかも敵駐屯地の周辺にジオンのMS部隊が潜んでいる事まで露呈させてしまったのである。 事態は悪化していると言わざるを得なかった。 マ・クベに襲撃を指定されたマルヨンマルマル時まで8時間程しか残されていない。 「レンチェフ、本当にその両手はMSの操縦に支障ないんだな?」 「大丈夫です。痛みもほとんどありませんぜ」 ゲラートの言葉に特殊グローブを両手に嵌めたレンチェフは嗤って見せた。 この内部に特殊なハイドロロコイドルト素材で作られたゲルパッドを内蔵したグローブは、 炎症を抑え感染を防ぎ自然治癒力を極限まで高める作用がある。 これは軽度の負傷兵が戦闘を支障なく行なう為に開発されたものであり、 連邦・ジオンを問わず現在の軍隊においてこのシートパッドは必携品なのであった。 宇宙世紀に入って医療テクノロジーはかなりの進化を見せており、 皮肉な事に戦争がそれを更に加速させてもいたのである。 ちなみに注射もこの時代、もはや針などを皮膚に刺したりしない無針注射器が主流となっていたが、 レンチェフはこれが殊の外苦手だった。それには理由もあったのだが・・・ 「よーし。これでル・ローア少尉のMS-07A、レンチェフ少尉のMS-07B、 俺、マニング軍曹、シャルロッテ少尉、スワガー曹長のMS-06J、マット軍曹のMS-05B、 そしてアムロのEMS-10F・・・都合8機のMSが作戦に投入できる事になった訳だ」 「EMS-10F・・・?」 聞き慣れないMSの形式番号に目を丸くしたアムロにニッキが片目をつぶる。 「そう。もうアレは『イカサマEMS-04』じゃない。 バーニィのおかげで正真正銘の改良機になったんだ。 今後はアレを正式にEMS-10F『ヅダ改』と呼ぼうぜ」 「Fはフェンリル隊の現地改修機という意味ね。ニッキにしては良いアイディアじゃないの。 隊長、構いませんよね?」 「いいだろう。許可する」 シャルロッテの問いにゲラートは笑みを浮かべて頷いた。彼女は更に言葉を続ける。 「でも、敵は大部隊です『ヅダ改』を加えた8機のMSと言えど、 無謀に突撃する訳にはいきませんよね隊長」 「そうだな。俺は取り敢えず3通りの襲撃作戦を考えた。皆の意見を聞きたい」 一人一人の目を見ながらのゲラートの言葉に全員がその身をグッと乗り出した時、 ル・ローアからの緊急通信が再度コールされた。 『こちらル・ローア。監視中の敵大隊から各方面に向けて 偵察部隊と思わしきMS部隊が多数派遣されています』 「くそっ!討ち漏らしたあの陸戦艇からの情報で、俺達が近くに潜んでいる事がバレちまったんだ。 奴ら、この基地を人海戦術で見つけ出すつもりだぜ」 レンチェフが唸る。彼にとってこの事態は痛恨の思いしかない。 ただでさえ此方は数が少ないのだ、受身になったら、確実に負ける。 多少強引でも敵部隊に“奇襲”を仕掛けるしかフェンリル隊が生き残る術は無いのである。 この場所を敵に発見されてからでは全てが水泡に帰する。ゲラートは決断した。 「全員MSに搭乗せよ!ブリーフィングは引き続き、 予定していたポイントまでの移動中に相互無線にて行なう!闇夜のフェンリル隊、出撃!!」 「「「了解!」」」 ゲラートの命令にパイロット全員が敬礼で答え、速やかに本部テントを後にした。 ここが正念場である。 1人残されたゲラートはオペレーター席に腰を下ろすと素早くレシーバーを装着し、 まずはル・ローアを呼び出した。 124 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/05(日) 02 53 46.46 ID /6flwJU0 切り立った崖に囲まれ、砂地の所々にもごつごつとした低い岩山が顔を出す殺風景で荒涼とした荒野。 闇夜のフェンリル隊のターゲットであるビッグ・トレーは、そこにいた。 ビッグ・トレーの周囲には数多くの小型陸戦艇が、まるで王を取り巻く様に駐屯しており、 更にその外周を61式戦車がぐるりと囲む様に展開、十重二十重の防御陣を構築している。 多数の投光機が焚かれ夜明け前にも関わらずその周囲は昼間のように明るい。 ビッグ・トレーはさながらライトアップでもされているかの様な風情だった。 アムロは夜半から一段と激しさを増した砂嵐とも呼べる程の突風に耐えながら ナイトビジョンを内蔵した双眼鏡を覗き続けた。 アムロ達一行は、あの後敵MSと遭遇することなくニッキ達第二班が当初、 敵を監視する予定だったポイントに無事到着する事ができていた。 ちょうどル・ローアの第一班が潜伏している地点とは敵大隊を挟んで反対方向にあたる位置だ。 この場所は第一班よりも敵との距離が近い為、 敵の様子を監視するにはこれしか方法が無かったのである。 陸戦艇の間にMSは見えない。が、ル・ローアの報告では 確認できただけでも十数機のMSがこの大隊には配備されているという。 現在偵察から戻っていないMS以外は陸戦艇の中でこの砂嵐を避けているのだろう。 アムロはもう一度、陸戦艇と61式を数えてみた。 ビッグ・トレーの他には陸戦艇が12。61式戦車が53。何度数え直してもその数に変化は無い。 アムロは油断無く敵を監視しながらも、 MSの中で移動中に行なわれたブリーフィングの様子を思い出していた。 ゲラート発案による3つの襲撃計画はどれも見事なものであったが、 その中でも最も成功率が高いだろうと思われる作戦が採用され、既にその役割分担も決められていた。 今までは自分自身の力量を頼みに単独で突出し、 常にスタンドプレー同然で戦っていたアムロにとって、 MSでの本格的な連携作戦の参加は初めてであった。 チームで戦い、チームで勝利する。そこにヒーローは生まれないが、 一人一人が与えられた役割を忠実にこなす事で全員が生き残る確率が増す。 戦争において生き残る事とは勝利と同義なのである。 やってみせるさとアムロは思う。後は静かに作戦開始時刻を待つだけだ。 「アムロ。ご苦労、見張り交代だ」 ニッキ少尉に背中を叩かれ、我に返ったアムロは、 小高い岩場のスキマに設えられた監視用の偽装網からもぞもぞと這い出し、 今の所異常はありませんと言いながら彼に双眼鏡を手渡した。 代わりにニッキは持っていたパワーバーをアムロに手渡してから偽装網に潜り込み、 先程アムロがいたポジションまで這い上がると、双眼鏡で敵大隊の監視を再開する。 「食欲は無いかも知れないが食っておけ。イザと言う時の踏ん張りが違う」 「ありがとうございます、遠慮なく頂きます」 パッケージを急いで破くと、アムロはこの軍用非常食にかぶりついた。 ジオン製のパワーバーは連邦のそれと比べて格段に味が良い。 続いてアムロはお尻のポケットから小型の水筒を取り出して咽も潤す。 砂粒でジャリついていた口の中が洗い流され、人心地がついた。 125 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/05(日) 02 55 48.52 ID /6flwJU0 「・・・ゲラート隊長達は大丈夫でしょうか」 「万が一の時の用心にマニング軍曹のザクを基地に残して来ているんだ。 あっちは彼に任せるしかない。俺達は俺達のやるべき事をやるだけだ・・・ん?」 ニッキの覗く双眼鏡の視界に、俄かに異変が起こっていた。 サイレンの音も風に乗って微かに連邦軍野営地から聞こえて来る。 「おいおい・・・こいつはまるで、猟犬が獲物を見つけた時みたいな反応だぜ・・・」 ニッキのその言葉を裏付ける様に、陸戦艇の内部に待機していたMSが次々と現れ出したのである。 その時、アムロとニッキのレシーバーにル・ローアから緊急コールが入った。 『緊急事態だ!敵の斥候が友軍部隊と戦闘に入った! どうやら俺達の野戦基地とは敵部隊を挟んで真逆の地点にジオン地上軍が潜伏していたらしい!』 「何ですって!?俺達以外にこの部隊を狙っているジオンの部隊がいたんですか!?」 『どうやらそうらしいな!敵を欺くにはまず味方からって諺もある。 もしかしたら俺達が襲撃している背後から敵を突く腹積もりだったのかも知れんな!』 それはゲラートが予測した通りの事態でもあった。 ル・ローアの推測はまさに正鵠を射ていたのだが、今の彼にはそれを知る術は無い。 マ・クベの命令により、味方である筈のフェンリル隊にすら極秘で潜伏していた部隊は、 皮肉な事にフェンリル隊よりもその規模が大きかった為に 連邦軍の斥候部隊をやり過ごす事が出来ずに発見されてしまったのである。 本来の計画ではフェンリル隊を生贄にして、悠々と敵本隊の背後を襲う筈が、 暴かれたゲリラの隠れ家同然に連邦軍の強力なMSが殺到するハメになってしまったのだ。 みるみる目前の部隊からMSが出払って行くのをニッキは半ば呆然と眺めていた。 それは敵の防衛網の綻びを意味していた。 「やったぜ!ここは暫く友軍部隊に頑張ってもらって・・・ あの厄介な敵のMSを出来るだけ減らしといて貰いましょうよ!その後で俺達は」 『バカ者!むざむざと仲間を見殺しにするつもりか!?第一班は偽装解除! 直ちに友軍の救援に向かえ!ガードが甘くなった敵本体への襲撃は、第二班のみで行なえ。 お前達ならば可能だ、やれ!』 ニッキの軽口をゲラートは叱責で切り捨てたのである。ニッキは思わず首をすくめた。 『第一班、ル・ローア了解!』 「第二班、ニッキ・ロベルト了解・・・すみませんでした!アムロ、行くぞ!」 偽装網から這い出したニッキはアムロを促してMSに向かう。 別れ際に聞いたラルの言葉どおり、ゲラート率いるフェンリル隊は素晴らしいとつくづく感じる。 アムロはヅダのコックピットに滑り込みながら、ふとラルの懐かしい顔を思い出していた。 158 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/08(水) 20 20 14.07 ID KjuvSm.0 ビッグ・トレーの艦橋を震わせた激しい衝撃に、 グリーン・ワイアット大将は手にしていたイングリッシュティーを取り落とし、 マイセンのカップは床に落ちて砕け散った。 「な・・・何事だ!?」 「こ、後方に被弾しました!!8時の方向から敵MSが現れた模様!我が隊は攻撃を受けています!」 「馬鹿な!伏兵が潜んでいたとでもいうのか!?」 ワイアットが視線を移すと、メインモニターには 視界を遮る砂嵐を掻き分ける様に姿を見せた4機のジオン製MSが、 ノイズ混じりながらもその姿をクッキリと映し出している。 5機のMSのいでたちは一言で言うならば重武装。後方には両手にバズーカを抱えているザクもいる。 必殺の装備を整え襲撃に挑んで来た様子がありありと窺える。 見る間に前衛の2機、マシンガンを両手に構えたザクと凶悪な殺気を纏ったグフが 最前列の61式戦車隊に襲い掛かった。 前衛を勤めるニッキのザクは、まず脚部に装着された3連ロケットランチャーを発射、 前方に密集していた61式数両を苦もなく吹き飛ばすと、 抉じ開けた敵の防衛線に機体を踊り込ませ、マシンガンを周囲に乱射する。 同じく前衛で敵陣に切り込んだレンチェフのグフは、ヒート・ロッドを薙ぎ払う様に振り回し、 61式戦車の残骸を次々と生み出して行く。そのすさまじい勢いはさながら荒れ狂う暴風の様だった。 今回の作戦の場合、陸戦艇からの攻撃は殆んど考慮しなくていい。 あまりにも距離が近すぎる為、長射程の武器ばかりを装備した陸戦艇からでは 味方を巻き込みかねない砲撃はできなくなるからだ。 それでも流石に、巨大な主砲の覗くビッグ・トレーの正面だけには立つ訳にはいかなかったが。 側方に展開した61式を撃破する事に集中していたニッキは後方に位置していた数両が、 自分の背中を狙い砲塔を旋回させた事に気付いていなかった。 だが、アラートで自分がロックオンされた事を知ったニッキのザクが振り返る前に、 それらの61式戦車は側面からのマシンガンの掃射で爆発炎上してしまった。 「サンキューアムロ!」 ニッキのその声に軽く手を上げて答えたアムロのヅダは、すぐに前衛MS2機の周囲に意識を戻した。 今回の襲撃作戦でアムロはウイングガードのポジションを任されている。 臨機応変に前衛のMSを援護し、バックスのMSを護衛する「遊撃」がその役割だ。 バックスのシャルロッテが駆るザクは2丁のバズーカと特殊爆弾を装備する決戦仕様であり、 機動力が極端に低く接近戦に対応できない為に護衛機が必要なのだった。 本来はこの作戦はル・ローアの第一斑と共同で当たる筈だったのだが、 第一斑が作戦から外れた為に全てを第二班で遂行せねばならなくなったのである。 だが、そのかわりに現在敵の部隊にはMSが不在だ。 これは僥倖と言っても差し支えないぐらいの好機であった。 「何故だ何故なんだ!・・・周囲警戒の責任者は誰だ!?極刑ものだぞ!」 普段のエセ紳士然とした態度とは打って変わってヒステリックに取り乱す上官を、 ブラン・ブルターク大尉はうんざりした眼差しで冷ややかに眺めていた。 敵は目前にいるのだ、今は責任者の追及をしている場合じゃなかろうに。 無能な上官に振り回される泥縄の現場。貧乏籤を引いたなとブランは天井を見上げた。 もともとのケチの付け始めはこのビッグ・トレーのエンジンが完全に壊れた事だった。 巨大な船体が仇になり、他の同型艦で曳航する事ぐらいでしか移動する事もままならないだろうが、 もちろんこの場に他で作戦行動を執っているビッグ・トレーを呼び寄せる事など不可能だ。 ならば座乗している司令官だけでも他の艦に乗り換えて 残りの部下もさっさと撤退なり進撃なりさせればいいものを、 この無能な上官は自分のメンツに拘るあまり、この巨大陸戦艇を離れる事を頑なに拒否し、 エンジンを何とか修理させる事に固執したのだ。 何の事は無い、それがジオンの勢力圏内ともいえるこの場所に 連邦軍の大規模で奇妙な駐屯地が出来上がった理由だったのである。 『自分の部隊を見捨てずにここに居残るのでは無く、 権力の象徴たるビッグ・トレーを簡単に降りられるかというのが真意だというのが救われんな』 もちろん救われないのは部下の方である。ブランは心中で溜息をついた。 「何をぼさっとしているブルターク大尉!こんな時の為に貴様等を残しておいたのだぞ! さっさと出撃準備に入らんか!」 怯えを孕んだワイアットの視線がブランを見ている。 この無能者と一緒の空気を呼吸する事に、そろそろ苦痛を感じていたブランは 形式だけの敬礼を残すと、せいせいした面持ちで第一艦橋を後にした。 174 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/09(木) 20 44 20.22 ID 3z/i5f20 累々とした残骸の中で前衛2機のMSはようやく動きを止めた。 最前列でアタッカーとして切り込んだレンチェフのグフとニッキのザクは、 中距離からアムロ、後方からシャルロッテの的確な援護を受け、 大したダメージを受ける事無くビッグ・トレーを取り囲む様に防衛陣を構築していた 53両の61式戦車を一両残らず壊滅させる事に成功したのである。 この様な近距離からでは巨大戦艦の三連装砲は使用できないし、周囲に展開している小型陸戦艇は ビッグ・トレーを背にしているジオンのMSに対して攻撃を仕掛ける事はできない。 連邦側からすると正に「詰み」の状態であった。 『ヘープナー少尉、ターゲットに爆弾を設置して砲台と足回りを完全に破壊しろ。 その後指揮官を武装解除させて乗組員を全員外へ引きずり出せ。降伏し投降する様に呼び掛けるんだ。 アムロ准尉は周囲警戒。ニッキ少尉とレンチェフ少尉はそのまま第一斑の援護に向かえ。 ミノフスキー粒子で敵の本陣が陥落した事が伝わらず戦闘が継続している可能性が高い』 道なりに設置してきたセンサーポールのお蔭で本部にいるゲラートの指示が各MSに明瞭に響き渡る。 「これを持って行って。敵のMSは強力みたいよ、気張んなさい」 「助かる。なるべく早く皆を連れて戻るからな」 シャルロッテのザクから、まだ残弾が残っているバズーカを一丁受け取ると ニッキのザクはレンチェフのグフと共に岩山の向こうに姿を消した。 それを見届ける間も無くシャルロッテは行動を開始する。 多数携行してきた小型爆弾をザクの手でビッグ・トレーの要所に次々と設置して行くその手際の良さに、 アムロは周囲を抜かりなく警戒しながらも舌を巻いていた。 猛烈な自信家のシャルロッテというこの女性、確かに言うだけの能力はあるのだ。 だがその刹那、アムロは嫌な気配をビッグ・トレーの内部に感じた。 数多くのエンジンの胎動が聞こえる。 それも、その全てがこちらに向けて敵意を放出しているようだ。これはまさか―― 見るとビッグ・トレー前面のハッチが前開きに開いて行くのが 側面に位置しているヅダから辛うじて見る事ができた。アムロの全身が総毛立つ。 「シャルロッテ少尉!早く!早くこっちに!」 「慌てないでよ、これで最後なんだから」 「敵艦の格納庫が開いたんです!奴ら、MSを隠していたんですよ!」 「な、何ですって!?あっ・・・!!」 ビッグ・トレーの左舷にいたシャルロッテのザクが身体を起こすのと、 飛来した砲弾にその左肩のショルダーガードが吹き飛ばされたのは同時だった。 ぐらりと体勢を崩したザクが船体側舷を滑り落ちてくるのを駆け寄って来たヅダが ヒザのクッションを思い切り効かせて受け止めた。 「あ・・・うぅっ・・・」 ありがとうアムロと言おうとしたシャルロッテは激しい吐き気と眩暈を感じ、そのまま口をつぐんだ。 激しい衝撃に脳が揺さぶられているのだ。アムロに受け止めて貰えなかったならザクは頭から落下し、 地面に叩きつけられていただろう。その場合、恐らく彼女の命はなかった筈だ。 ヅダはそっと地面にザクを横たえると彼女を背後に守る様に前に出て、 その前腕部に装着された特製シールドを構えた。 わらわらとビッグ・トレーから飛び降り地表に降り立ったのは、 先程シャルロッテを砲撃したガンキャノンを含む、何と8機もの連邦製MSだった。 216 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/12(日) 19 19 08.00 ID SbbCK0c0 「馬鹿野朗が!」 ガンキャノンに搭乗したブラン・ブルターク大尉は、 ビッグ・トレーに取り付いていたザクを仕留め損なった自分自身に毒づいた。 どうもこのガンキャノンというMSはしっくり来ない。自分の性に合わないのだ。 腰抜けのワイアットから、ようやく出撃命令が出たと思ったらこのザマだ。 どうやら長い待機期間中に腕の方もサビ付いてしまったらしい。 「全員密集隊形で敵を追い詰めろ!だがまだ発砲はするなよ!」 部下である7機の陸戦型ジムに指示を飛ばしながらブランはガンキャノンを彼らとは逆に一歩後退させた。 敵戦力はビッグトレーのモニターで既に解析済みだ。 前方にいるのは手負いのMS-06ザクともう1体のMSのみ。 ザクじゃない方の詳細は不明だが、携行武器はザクマシンガンに間違いは無い。 あの武器ではこちらのMSの装甲を撃ち抜く事ができない事は実証済みだ。 それに先程から観察していた限りでは何やら動きがえらく鈍い。 あれではこちらのジムのスピードに付いては来れないだろう。やろうと思えば何時でも殺れる。 『パイロットの投降は許さん。なぶり殺しにしてやる・・・!』 残忍な衝動がブランの中に湧き上がる。 ワイアットは自分が率いる部隊よりもまず、自身とビッグ・トレーの保守を第一に考える男であり、 いかなる時も、自らの座乗艦に搭載された8機のMSを出し惜しみ、 決して出撃させようとはしなかった(その分酷使される随伴艦が搭載するMSこそ良い面の皮であった)。 今回も敵戦力を損耗させるという名目で、 50両以上もいた友軍の61式戦車が全滅するまで出撃する事が許されなかったのである。 味方の兵士を見殺しにせざるを得なかったブランのストレスは今や限界に達していた。 「ア、 アムロ・・・私に構わず・・・退却しなさい・・・・・・」 眩暈が治まらず、自由にならない身体をもどかしそうに捩りながらシャルロッテは声を絞り出した。 今のこの状態ではオートパイロット無しではザクを立たせる事すらできないだろう。 プライドの高いシャルロッテにとって、 自分の存在が他人を危険に晒す事になる事など絶対にあってはならない失態であった。 「このままでは貴方までやられてしまう・・・ニッキ達の後を追って・・・彼らと合流を・・・」 ぐっと込み上げてくるものを堪えきれず、彼女はヘルメットの中で吐瀉物を吐き出した。 苦しさと情けなさに涙が溢れ出す。 普段、周囲にさんざん偉そうな事を言っておきながらこの姿は何なのだと、 折れそうになった彼女の心を遮ったのはスピーカーから聞こえて来たアムロの闊達とした声だった。 「シャルロッテ少尉。このまま立ち上がる事をせずに、じっとしていて下さいね」 シャルロッテは驚いた。横たわる彼女のザクを庇う様に、 目の前では体勢を限りなく低くしてシールドを構えたヅダが迫り来る8体の敵と対峙し、 こちらに背中を向けている。 このギリギリの状況で少年は何かを狙っている。まさか、敵に仕掛けるつもりなのか。 「な、何をするつもりなの!?ダメよ!無茶しないで・・・!」 「大丈夫です。すぐ終わらせますよ」 やけに冷静な声でアムロが答える。彼女は恐怖した。そんな馬鹿な、幾らなんでも無謀に過ぎる。 シャルロッテは必死に訴える。 何も判っていない、逃げなさい、あなたは戦闘経験が浅く怖い物知らずなだけなのだと。 しかしその後、いくら彼女が必死に呼び掛けても、一向にアムロからの返事は無かったのである。 217 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/12(日) 19 20 29.64 ID SbbCK0c0 このカラクム砂漠はコロニーが地球に落ちてからというもの、 地形と気流の関係でカスピ海から吹き付ける海風が渦を巻き、 台風並みの竜巻を伴う激しい砂嵐が断続的に巻き起こる地帯と化してしまっていた。 その砂風の渦はカラクム砂漠を北上しアラル海を抜け、 バイコヌール地方まで達する事すら稀ではなかったのである。 だが今、ゴッ!という音の残滓を残してあれ程吹き荒れていた砂嵐が瞬時に掻き消えた。 完全なる無風、砂嵐の渦の中心である「目」の部分に周囲の地帯が突入したのである。 今までの嵐がまるで幻だったかの様な環境の激変に、 敵も味方も一瞬の空白が生じたその時、アムロはただ一人動いた。 敵はMS8機。ほぼ3小隊分に匹敵するMSにたった一機で突撃するなど通常で考えたら正気の沙汰ではない。 しかも、自由自在の機動で敵を撹乱できる宇宙とは違い、ここは重力に縛られ動きを制限された地上なのだ。 だが敵は今だ密集隊形のままであり部隊フォーメーションがとれていない状態だ。お誂え向きに風も止んだ。 アムロは迷わずヅダ改のコンソールに新たに設えられた小さな透明なカバーを跳ね上げ、 中のスイッチを強く押し込んだ。 途端にコックピット内に赤色灯が点灯した。一瞬モニターに照り返したアムロの顔も紅に染まる。 緊急事態を示すアラート音が断続的に鳴り始め、メインモニターの右下部にデジタルタイマーが表示された。 リミットタイムは05:21:09。 敵はガンキャノンを含む8機のMS、流石に数が多いか。少々骨が折れそうだ。 だが、やれる。 アムロはぺろりと舌で唇を湿らせた。 このヅダ改ならやれる。 バーニィが命賭けで生み出したこのMSの力を自分ならば最大限に引き出せるという確信がある。 そしてオペレーターを経験して培った知識と戦法を総動員すれば、この難局を切り抜ける事ができる筈だ。 緊張を伴う高揚感の中で彼は、ラル隊の目前でWBを襲撃した時の事を明瞭に思い出していた。 あの時はガンダムのモニターにリミットタイムを表示させていたのだ。 コックピット内に赤色灯はなかったけれど。 アムロは思わずクスリと笑った。それは妙に心地良く、精神を研ぎ澄ますのに丁度良い儀式となった。 「EMS-10Fリミッター解除!カウントダウン開始!ブラインドフィルターON!」 ヅダのモノアイが一段と輝きを増し、ギョロリと敵MSを睨み付けた。 それは羊の皮を被った狼が、拘束されていた鎖を引き千切り獰猛な牙を剥き出した瞬間であった。 245 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/15(水) 17 46 45.32 ID /nS4O/M0 【05:19:28】 ヅダはゆっくりと、まるで握手でも求めるかの様に手を前方に差し出した。 その掌に乗っていた小さな塊りはヅダの手を離れ、 軽い放物線を描きながら前進して来ている7機のジムの頭上に達した。 放り投げられて来た塊りを、虚を突かれた7機のジムは、呆けた様に目で追っている。 「グレネードだっ!防御・・・!」 後方でそれに気付いたブランが叫ぶが、途端に強烈な閃光が周囲に弾け、 夜明け前のカラクム砂漠にクッキリと光と影の陰影を刻み付けた。 ミガキ特製、光量5倍の対MS用閃光手榴弾が炸裂したのだ。 「うおおっ!」「しまった!?」「!!」「モニターが!」「あっ!」「!?」「何だ!?」 そのヅダのあまりに何気ない動きに意表を突かれ、閃光を間近で捉えてしまった7機のジムは、 シールド防御が間に合わず、モニターがホワイトアウトするという事態に陥った。 連邦のMSパイロットはジオンのそれと比べると練度が低い。図らずもそれを実証する事態であった。 アムロはそれを見逃さない。フットペダルを踏み込むとバーニアを吹かし、 およそ100メートルの距離を弾丸の様に一気に飛び越え、敵陣の懐に入り込んだ。 瞬間、あの時バーニィを驚愕させた強烈なGが今度はアムロを襲う。 が、寧ろアムロはそれを心地良い加速だと感じ、その凶悪なベクトルを全て攻撃に転化した。 「ぐぶっっ・・・!」 轟音と共に機体に加えられた激烈な一撃に、ジムのパイロットの意識は消し飛んだ。 敵の集団に飛び込んだヅダは加速を緩めないまま、 左前腕部に装着されたスパイクシールドによるパンチを棒立ちのジムの顔面に叩き付けたのである。 頭部を完全に砕かれた一体の陸戦用ジムがもんどりうって後方に吹き飛ばされて来る。 ブランは何が起こったのかと目を見開いて眼前に展開している光景を眺めているしかなかった。 『どうせなら、そのまま敵をブン殴れるスパイクが欲しいな』 以前WBのブリッジで、MSにおけるシールドの有効性を話し合っていた時にオルテガ中尉がそう言い、 メイ・カーウィンがスケッチして見せた特殊シールドが今、ヅダには装着されている。 連邦軍のMSにはザクのメインウェポンである120ミリマシンガンが通用しない。 そしてザクのシールドは肩に固定されてしまっている為、取り回しが悪い。 その現実にアムロは攻撃と防御を兼ね備えた接近戦の武器としてミガキ達メカマンに「これ」を提案し、 ヅダ改修の傍らで急造して貰ったのだ。 通常ザクの右肩に装着されているL字型の装甲版を、 方向を逆にして左手の前腕部に取り付けてあると思えばいい。 その内部にはグリップが取り付けてあり、 これを握り込む事で拳まで完全に覆うシールドを固定するのだ。 オルテガの提案通り、ナックルガードの部分には3本のスパイクが埋め込んであり、 その鋭い切っ先は凶悪な輝きを放っている。 これはナックルガードの部分にボルト穴を切り、 ザクのショルダーガード用スパイク(スパイクのみ取り外し可能なタイプ)を移植したものである。 現地改修の急場凌ぎに違いは無かったが、その威力は予想以上だった。 246 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/15(水) 17 48 37.03 ID /nS4O/M0 「な、何だ!?」 後方にいたブランは眼前で繰り広げられている光景に驚いている暇すら無かった。 密集したMSの足元から白煙が激しく立ち上り始めたのである。 あらかじめアムロは、飛び込みざまに敵MSの足元めがけて数個のスモーク・グレネードを放っていたのだ。 「各種センサー起動。パッシブセンサー及びサーマルセンサーON!」 濛々たる白煙に視界が遮られるが、種類の異なるセンサーを同じモニターの画面で素早く照合解析する事で、 見え難かった周囲の敵の位置をほぼ完全に特定する事が可能となるのだ。 こんな戦法、ガンダムだけに乗っていた時には考えもしなかっただろう。 これはアムロが性能の劣るMSを補佐するオペレーターを経験した事で 初めて身に付けたテクニックであった。 敵は密集している為、視界が遮られた状態では後方にいるガンキャノンも下手に味方を援護する事は出来ず、 周囲のジムは同士討ちを恐れてビームサーベルを振る事も出来ない。 ヅダの独壇場であった! アムロは左のバーニアだけを吹かして機体を急激にターンさせながら、 スパイクシールドを左フックの要領で右にいたジムの脇腹にえぐり込ませた。 ルナチタニウムの装甲をひしゃげさせ、ボディをエビ反らせながら吹き飛ぶジム。 スパイクシールドはとてつもなく重く、遠心力をも利用しなければ使いこなす事は不可能な武器である。 しかしアムロはMS-07Hに搭乗した時の経験で、重心移動を攻撃に転用する術を身に付けていた。 「重さに逆らわず、利用する!動きを止めずに、攻撃する!」 アムロは自らの攻撃の手順を確認するように叫びながら、 3機目のジムに機体の回転を利用した足払いを掛け、 後方に転倒させてからその頭部をスパイクシールドで打ち砕いた。 「!!」 稲妻がアムロの脳裏に閃く。ヅダが背中から袈裟懸けに切り裂かれるイメージが浮かんだのだ。 それはまさに、センサーの解析範疇を超えた超感覚だった。 「背部装甲、パージ!!」 咄嗟にアムロは爆発ボルトを点火してヅダの背部エンジンを覆う装甲板を後方に吹き飛ばした。 それはミガキが念の為にヅダに追加した緊急装置だったが、 吹き飛ばされた装甲板は、視界が利かなくなった恐怖のあまり、 ヅダの背後で闇雲にビームサーベルを振り回していたジムに、ヅダ本体の代わりに切り裂かれた。 「や、やった!手応えがあっ・・・!」 機体の動きを止めた未熟なジムのパイロットが快哉を叫ぶ暇をアムロは与えなかった。 次の瞬間、スパイクシールドの一撃で正面からコックピットを潰されたジムは、 墓石の様に後ろに倒れ込んだのである。 同時にスパイクシールドの内部で握り込んでいたグリップの付け根が折れ、 シールドは地響きを立ててヅダの足元の砂地に落下した。 「しまった、溶接した部分が衝撃に耐え切れなかったのか・・・!」 アムロは地面に転がったスパイクシールドを残念そうに見つめた。もうこの装備は使用不能だ。 だが、急造品にしては良く持ってくれたと言えるだろう。 247 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/15(水) 17 52 55.62 ID /nS4O/M0 【03:52:07】 アムロはちらりとタイマーを確認してからヅダの手に残ったグリップを捨てると、 素早くヒートホークを抜き、いまだ白煙が立ち込める中、残る敵MS2体に迫る。 シールドと装甲を同時に失ったヅダの防御力は限りなく低下してしまった。 油断する事は決して許されない。 だが、敵からこちらは見えないが、こちらから敵の位置は丸見えだ。 ヅダのヒートホークがたちまち赤熱してゆくのが判る。 アムロに狙われた2体のジムの命運は、風前の灯火であった。 【02:17:24】 ブランは忸怩たる思いだった。 彼の搭乗しているガンキャノンは白兵戦を得意とするMSでは無い為、 乱戦に陥っている現場に飛び込むことができないのだ。 1機、また1機と部下のジムが落とされて行くのが、切れ切れに届く断末魔の通信でそれと判る。 ガンキャノンに搭載されている音紋センサーで、白煙の中で蠢くMSを察知する事ができてはいるのだが、 敵味方入り乱れている為に迂闊に砲撃を仕掛ける事もできなかったのである。 事ここに至っては、スモークが晴れるまで待つか、 敵がスモークから飛び出して来た所を狙い撃つしかない。 ブランはキャノン砲の砲身を跳ね上げ、ビームライフルを構えていた。 敵MSの武器は白兵戦用の物だったから、こちらを攻撃する為には接近して来る必要があるはずだ。 「俺の射撃からは逃げられんぞ。姿を現した時が貴様の最後だ・・・!」 彼はビームライフルの射撃に絶対の自信を持っていた。 白煙の中、恐らく敵であろうMSの機影は追えている。照準も既に付け終えている。 が、完全に敵だと確信が持てない為にトリガーが引けないだけなのだ。 まさか部下のMSを誤射する訳にもいくまい。 248 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/15(水) 17 53 38.81 ID /nS4O/M0 だがその時、目を凝らしスコープを覗き込むブランの瞳に緊張が走った。 次の瞬間、ガンキャノンの機体は断続的な激しい衝撃に打ち据えられ、 ブランは覗き込んでいたスコープにヘルメットを激突させたのである。 メインモニターは激しい衝撃と共にブラックアウトし、 緊急事態を知らせるアラートがけたたましく叫び始める。 ダメージモニターには今の被弾でガンキャノンの頭部と右マニュピレーターが欠損した事が示されていた。 それはこのMSが一瞬で戦闘不能にされてしまった事を意味していた。 「まさか・・・銃撃されたのか・・・!」 朦朧とする意識の中でブランは驚愕していた。 白煙の中からマシンガンの掃射を浴びせ掛けられた、のである。 「何故だ・・・敵のマシンガンではこちらの装甲を撃ち抜けなかった筈だ・・・むうっ!?」 ふたたび巻き起こり始めた砂嵐に白煙が吹き飛ばされると、 そこには累々と地に倒れ伏す陸戦型ジムの中、 ただ1機の敵MSが肩膝をついた姿勢でこちらにマシンガンの銃口を向けている姿が現れた。 「やはり敵の武器は、敵のMSにも通用するみたいだな」 ヅダが手にしているのは100ミリマシンガン。 それは、ブランの部下の陸戦型ジムが携行していた武器であった。 アムロは乱戦の中、倒した敵MSからこれを奪い取っていたのである。 しかしスモークというブラインドの中、照準が連動していない筈の敵の銃で、 ターゲットに攻撃を命中させるなど並の技量では無い。 ブランは敵パイロットの恐るべき才能に燃えるような嫉妬を覚え、 逆にそれが彼の敗北感を圧して意識を明確なものにした。 「くそおっ・・・!こんな所では・・・死なんぞ!」 ブランは必死で意識を保つと、破損したガンキャノンの上半身の「Aパーツ」を強制排除し、 コアブロックを下半身の「Bパーツ」から上空へ射出させた。 アムロは冷静に狙いを付け、変形したコアファイターに向けて100ミリマシンガンを掃射する。 弾丸はコアファイターのフラップに命中し、安定を失った同機はコントロールを失い、 西の空に落下軌道で飛び去った。 どちらにしろ、あのコアファイターを追跡する戦力はこちらには無いのだ。 墜落を免れるかどうかはパイロットの腕次第だろう。 【00:00:00】 タイムアウトを告げる警告音が短く3回鳴り響くと、 コックピット内の赤色灯は消え、アラームも鳴り止んだ。 静寂を取り戻したシートでアムロはヒートゲージを確認する。 問題は無い、温度は通常通りに下がりつつある。 ミガキの言葉は嘘ではなかったのだ。 アムロは今度こそ深く息を吐き出しながら、 地面に片膝を付けたままだったヅダをゆっくりと立ち上がらせた。 横たわるザクの中でシャルロッテは見た。 吹き荒ぶ砂風の中、荒野に昇り行く太陽の光を照り返す、 敵の残骸の中から立ち上がったMSの雄々しい姿を。 そこに彼女は、劣勢のジオン軍に誕生した、 運命を逆転する力を持った英雄の姿を垣間見た気がしたのである。 318 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/21(火) 00 31 13.36 ID OpRCNhY0 巨大な岩山の裂け目に巧妙に偽装し潜伏していたジオン軍MS部隊を襲撃する為に ワイアット提督から直々に駆り出されたクリスチーナ・マッケンジーとマット・ヒーリィは、 それぞれの陸戦型ジムで強襲部隊に参加していた。 襲撃部隊は既に敵と交戦に入っている先行偵察隊を含め、 陸戦型ガンダム2機と陸戦型ジムで構成される全12機からなる。 数的には4小隊の合同作戦という事になるのだが、実態は各部隊からの寄せ集めの集団であり、 小隊間の連携が取れているとはお世辞にも言えるものでは無かった。 場当たり的な作戦を突発的にワイアットから指令された為、小隊員が一同に会した時、 果たして現場の指揮官を誰にするかも厳密には決められていなかったのである。 部隊が混乱するのも当然であった。 それでも奇襲に成功していた先行部隊は陸戦型ジムの性能の高さにも助けられ、 ジオンMS部隊の主力を占めるザクを次々と撃破していった。 しかし、当初こそアイドリングも殆ど済んでいない敵MSを蹂躙していた連邦軍だったが、 完全に戦闘準備を整えた1機の新型MSドムが現れると状況は一変した。 ドムの装甲はザクとは比較にならないほど厚く、 携行するバズーカの威力は陸戦型ジムをも吹き飛ばし、 操縦するパイロットの練度も高かったのである。 しかもジオン軍のMS部隊は現れたドムを指揮官として連携し、 完全に体勢を立て直す事に成功してしまった。 ジム部隊は一転して、一機、また一機と敵MSに包囲され、 集中攻撃で各個撃破されて行く立場となったのである。 経験の浅い連邦軍は完全に浮き足立っていた。 「マット中尉!中尉が全部隊の指揮を執って下さい!このままでは!」 「だめだ!ここで俺が口を出したら部隊が更に混乱してしまう!」 クリスの提言を即座に却下しながらマットは、 この混乱を招いた原因たる2機の陸戦型ガンダムを睨み付けた。 この二機のMSに搭乗する2人の大尉が、 それぞれ現場での指揮権を最後まで譲らずにいた為に指揮系統が2つ存在する事となり、 壊滅寸前だった敵に付け入る隙を与える事となってしまったのである。 瓦解寸前なのは今や連邦軍の方であった。 マットの所属するMS第三小隊はあくまでも特殊部隊である。 ラリー・ラドリー少尉のジムもロストしてしまった為、 本来はオデッサまでは実戦に参加しない筈のクリスを伴い、 殆ど数合わせ同然でこの作戦に合流させられたマットに発言権など無いに等しかった。 はっきりとは判らないが、現在も稼動しているこちらのMSは恐らく8機を割っていると思われた。 このままでは確かにジリ貧である、マットの頬を一筋の汗が流れ落ちたその時、 彼らの背後で突如爆発音が鳴り響いた。 「な、何だ!?」 「て、敵です!背後からも敵のMS部隊が!」 この状況で挟撃・・・! マットはくず折れそうな絶望感に囚われそうになるのを辛うじて回避すると、 クリスの操縦するジムへ呼び掛けた。 「マッケンジー中尉、俺から決して離れるんじゃないぞ!」 「り、了解です!」 この期に及んでは最早、自分の力の及ぶ限り1人でも多くの友軍兵士の命を救う事に全力を尽くすしかない。 悲壮な決意を固めたマットは知る由も無かった。 後背から新たに現れた敵の部隊の中には偶然にも彼と同じ名前を持つマット・オースティン軍曹がいる事を。 彼らの背後を突いたのは、ゲラートの命により、 おっとり刀で駆け付けたル・ローアが率いる「闇夜のフェンリル隊」第一班だったのである。 358 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/23(木) 01 00 50.70 ID I/Na6/.0 指揮車であるホバートラックで全てをモニターしていたゲラートは、瞑目していた。 アムロの戦闘能力は、軍人として羨望を覚える程の凄まじいものだった。 相手の視界を完全に奪い、データ解析行いながら戦闘を行うというスタイルは ゲラートも想定しシミュレートした事がある。 が、誰に教えられた訳でも無いのにもかかわらず、 実戦でそれをやってのける15歳の少年が存在したとは・・・ これを痛快と言わずして何と言うのか。 年若き部下のズバ抜けた戦闘センスを目の当たりにして、驚くと同時に、 ふつふつと込み上げて来る笑いも抑える事ができない。 ゲラートは通信装置をONにした。 「ヘープナー少尉。現状を報告せよ」 『・・・・・』 「ヘープナー少尉!聞こえないのか!?」 『は・・・はい!失礼しました・・・アムロ准尉が・・・その・・・信じられないんですが 敵MS・・・8機・・・を、一人で・・・殲滅させました・・・・・・あっ!あれは!?』 突発的な何かを目撃して、呆けた様な声を出していたシャルロッテの声が正気を取り戻したのが判る。 ゲラートは眉をひそめた。 「どうしたヘープナー少尉」 「信号弾です!ターゲットの巨大陸戦艇が信号弾を打ち上げました!」 砂嵐が過ぎ去った朝焼けの空に、まばゆい光球がいくつも炸裂する。 事ここに至って、ようやくワイアットの座乗するビッグ・トレーは、 揮下の部隊に対し「総員撤退」命令を発布したのだった。 359 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/23(木) 01 03 37.95 ID I/Na6/.0 ル・ローア達に後背を付かれたマット・ヒーリィと クリスチーナ・マッケンジーら連邦軍MS部隊の苦闘は続いていた。 乱戦となればMSの扱いに慣れていない連邦軍は更に不利となる。 こうなっては自分が殿(しんがり)となって後方からの敵を食い止めている間に 指揮官機の元に散開している部隊員を集合させ、 全MSが総力を結集して突破口を開くしか道は残されていない。 元々こちらのMSの方が性能は高い。 数さえ揃えば陸戦型ジムの部隊はジオン軍にとって脅威の軍団と化す筈なのである。 マットはそれを、陸戦型ガンダムに搭乗する2人の大尉に進言しようと回線を開いた。 「!!」 刹那、サブモニターを横切った影にマットは反射的にジムのシールドを上げ、振り向きざまに構えさせる。 鈍い衝撃と共に何かがシールドにぶつかり、そのままクリスのジムの足元に跳ね返ってごろりと転がる。 それは、今まさにマットが通信しようとしていたゴードン大尉が搭乗する陸戦型ガンダムの頭部であった。 「ああっ!?」 物言わぬメインカメラに見つめられたクリスが短い悲鳴を上げる。 この哀れな髑髏は件のドムに白兵戦を挑まれ、 ヒート剣の一閃によって瞬く間に切り伏せられてしまった成れの果てである。 見るともう一人の大尉が搭乗する陸戦型ガンダムも、見るからに手練れだと判るツノ付きのザクに、 背後からバズーカの直撃を食らい、今まさに沈んだ所だった。 「マット中尉!12時方向にビッグ・トレーからと思われる信号弾を確認しました!」 「何だって!?」 クリスの通信にメインカメラを振り向けると、確かに朝焼けの空には、 幾つもの光球が輝きを放っている。マットは我が目を疑った。 「『総員撤退』だと!?馬鹿な!ビッグ・トレーが墜ちたのか!?」 「我々のいない隙にジオンの別働隊に襲われたのかも知れません!急いで戻らないと・・・!」 「いや、撤退命令は出ている。ならば、ここから俺達は本来の作戦行動に戻ろう。 このままポイントBに向かう。上手くすれば戦技研の陸戦艇部隊と合流できるだろう」 そう。今回戦技研の試験部隊はワイアットの横槍で進路を捻じ曲げられて合流させられただけで、 元々こんな場所で駐屯する予定など無かったのだ。 モニター越しにクリスに厳しい表情を見せたのは一瞬、 マットは作戦参加中の全MS部隊員に繋がる非常回線に切り替えた。 「作戦行動中の全部隊員に緊急連絡!ゴードン、クライフ両大尉がやられた! 俺はMS第三小隊のマット・ヒーリィ中尉だ。 現時点からこの場の指揮は俺が執る!異議は認めない! 全員生き延びる為に俺の指示に従って冷静に行動をしてくれ!」 マットの通信にほうほうの体で集まって来た陸戦型ジムは僅か4機のみであった。 12機いた筈の連邦が誇る新鋭MSが半数に減ってしまったのだ。 いずれの機も損傷が目立つ惨々たる有様であった。 「ワイアット提督のビッグ・トレーが墜ちた。後背からも敵が迫っている。 ここは挟撃を避ける為に前方の敵陣を全力で突破する。 俺を含め3機がフォワード、3機がバックスだ。フォーメーションを崩すな。 バックスはシールドを構え後方をマシンガンで牽制しつつ後退だ。 フォワードは俺が指定する敵を集中攻撃。移動速度は一番足の遅いMSに合わせる。 ここから先は一人の犠牲者も出すな!行くぞ!」 マットの激で堅牢なフォーメーションを組み上げ、 一丸となって移動し始めたMS部隊にクリスは目を見張った。 あれほど優勢だったジオンのMSも、今はこちらに迂闊な攻撃を仕掛けてくる事ができないでいるのだ。 指揮官によって、こんなにも機動が違うものか。先程までとは雲泥の差だ。 やはりどんなに優れた兵器でも、それを操る人間によってその性能が 生かされも殺されもするのだという事実を改めて思い知らされる。 例のドムとツノ付きザクも岩陰から悔しそうにこちらを窺うのみだ。 いかに新型であろうとこちらのマシンガンで集中攻撃を受けたら耐えられるものでは無いからだろう。 「敵は恐らく深追いはして来ないだろうが油断するな! 包囲網を突破するまで決して気を抜くんじゃないぞ!」 まるで心中を見透かしたかの様にマットから檄が飛ぶ。 クリスは改めて気を引き締め直した。確かに気を抜くのはまだ早い。 連邦軍のMS残存部隊はここが正念場なのであった。 360 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/23(木) 01 04 49.66 ID I/Na6/.0 打ち上がった信号弾を確認すると、 こちらを遠巻きにしていた12両の小型陸戦艇は蜘蛛の子を散らすが如く、 最大戦速で次々とこの場から逃げ出し始めた。 非情な様だがボスの陥落は、ボスからの束縛が無くなった事をも意味している。 MS部隊は出払い、61式戦車と虎の子のMS8機を失った連邦軍はもう、 ビッグ・トレーに取り付いた敵MSに対してまともに反撃する術を持っていない。 ならば、戦闘能力を殆んど持たない陸戦艇は、 ボスの墜ちたこの場所にいつまでも留まる訳にはいかなかったのである。 彼らにとって幸いな事に「ボスが撤退命令を出した」のだ。全力で逃げても敵前逃亡にはならない。 砂煙を巻き上げて敗走する陸戦艇群の様子を、 アムロとシャルロッテはそれぞれのMSコックピットでモニター越しに見ているしかなかった。 ザクはビッグ・トレーの艦橋にバズーカを向けていなければならなかったし、 ヅダは開け放たれた格納庫に侵入し緊急脱出用の連絡艇にマシンガンを構えていなければならなかった。 たかだか2機のMSでは、この巨大な陸戦艇をフリーズさせておく事しかできない。 ル・ローアやニッキ、レンチェフらの仲間達がここに戻り、 この艦を完全制圧下に置くまでは2人共に持ち場を離れる訳にはいかなかったのだ。 あの後どうにか(無理矢理)体調を回復させたシャルロッテは、 てきぱきと爆破作業を再開し、ビッグ・トレーをたちまちの内に無力化した。 周囲は砂漠である。アムロがここでこうしている限り ビッグ・トレーの乗員はどこにも脱出する事はできない。 敵から奪い取ったマシンガンをヅダに構えさせながらも、 さっきからアムロはシャルロッテがやけに静かなのが気になっていた。 ・・・怒っているのだろうか? 確かにあの時、自分を置いて逃げろと指示したシャルロッテの上官命令を アムロは平然と無視してしまったのだ。 結果オーライとは言え、プライドの高い彼女の逆鱗に触れてしまった可能性は非常に高い。 「アムロ」 「はははい!」 戦々恐々としていたアムロは突然のシャルロッテからの通信に度肝を抜かれた。 383 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/26(日) 19 30 53.86 ID gxoLk.I0 ニッキとレンチェフが現場に到着した時にはもう既に戦闘は行われておらず、 ル・ローアたち第一斑の三人は生き残った友軍の兵士に協力して 生存者の救助に当たっている所だった。 ニッキは思わず眉根を寄せてあたりを見回した。ひどい有様である。 ジオン兵の夥しい損耗がなされた戦場の傷跡は生々しい。 ざっと見ただけで約10体のザクが残骸と化し、 本部として機能していたであろうギャロップやカーゴも無残に破壊され尽くされている。 こちらからは見えないが、岩山のむこう、あちこちから黒煙がたなびき上がっている所を見ると、 被害はこの倍、いや三倍はあろうかと思われた。 MSを含む実働部隊をバックアップする人員も含めて、 兵員の死傷者は100名を越えているのではないだろうか。 「ニッキ、レンチェフ、こっちだ」 眼下で横たわる負傷者を介護しながらル・ローアが手を振っているのが確認できる。 そこへ後方から新型MSドムとツノ付きのザクを従えた マット・オースティン軍曹のMS-05がやって来て合流した。 ドムとツノ付きザクはそれぞれのコックピットハッチを開放し、 中のパイロットがヘルメットを脱ぎこちらに向かって敬礼する。 ニッキとレンチェフもそれに習い、ハッチを開けて敬礼を返す。 MSパイロットだけに通じる簡易儀礼であった。 384 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/26(日) 19 31 25.97 ID gxoLk.I0 「突撃機動軍MS強襲機甲中隊所属ソフィ・フラン少尉です」 「同じく、サンドラ少尉。よろしく」 「お2人共、それぞれ所属するMS部隊が壊滅されてしまったそうですが、 残存部隊を指揮されて連邦のMSを撃退する事に成功されました。 正直、このお2人がいなかったなら友軍の全滅は免れなかったでしょうな」 マット軍曹が紹介した2人のパイロットは共に妙齢の女性だった。 ドムに搭乗したソフィ少尉は髪が長く切れ長の瞳をした10代後半と思われる美女、 ツノ付きザクを駆るサンドラ少尉はショートカットで背が高い、 見るからにワイルドな物腰の女性だ。こちらは20代後半という所だろうか。 ソフィは尉官を示すマントを着用しているが、 サンドラはタンクトップのアンダーシャツ着用で女性ながら大きく胸元を開け、 筋肉質な肌を惜しげもなく露にしている。 敬礼をしたまま、先に口を開いたのはソフィ少尉の方だった。 「我々MS強襲機甲中隊はマ・クベ指令からベドウィン作戦の一環として、 『闇夜のフェンリル隊』には極秘で別の地点に潜伏し、 フェンリル隊の襲撃に呼応して敵大隊を強襲するよう命じられていたのです。 命令により、あなた方に連絡する事を厳に禁じられていたとは言え、 友軍を囮として利用するような行動を甘んじて取っていた事をお詫びします。 これは、この作戦に参加した兵員の総意だとお考え下さい」 「言い訳する訳じゃないけど、あたしたち下っ端には上からの命令にどうこう言うなんてできっこない。 不満や疑問があってもやらざるを得なかったんだ。だが、結果はご覧の通りさ。 因果応報って奴かも知れないね」 うなだれる2人にニッキは事情は了解しましたと声を掛けた。 わだかまりが無いと言えば嘘になるが命令を拒否できない一兵士に罪は無い。 悪いのは全てオデッサのマ・クベ指令なのだ。マ・クベ許すまじ。 だが今はマ・クベに呪いの言葉を吐き出す前にやる事がある。 事は急を要するのだ、ニッキはマットに向けて呼び掛けた。 「マット軍曹、ここはこの2人にお任せして俺達はシャルロッテとアムロの元に急いで戻りましょう。 いくらシャルロッテが優秀でも一人でビッグトレーの完全制圧は無理でしょうが・・・ 彼女なら強引にやりだしかねません」 「さっき信号弾が上がった所を見ると、どうやら上手くやったらしいが、 早い所戻ってやらんと心細いだろうからな」 ニッキの提案にレンチェフが頷く。 大急ぎで駆けつけた為にセンサーポールを設置する暇さえ無かったのだ。 ゲラート隊長とのレーザー通信も不可能な今、現場がどうなっているか判らない。 可能性は低いが連邦の援軍でも現れたらアムロとシャルロッテだけでは対応できないだろう。 一刻も早く、彼らの元に戻ってやる必要があった。 「聞いた通りだ。我々は仲間の所に戻らせてもらう。ここは任せて宜しいか?」 いつの間にかグフに搭乗していたル・ローアがシートベルトを締めながらモニター越しに声を掛ける。 ソフィとサンドラは顔を見合わせ、頷き合った。 「ここからは我々だけで大丈夫です。これまでの御厚情に感謝します。すみやか作戦にお戻り下さい」 「助かる。救援はなるべく早く遣させる」 ソフィの言葉に硬い表情で頷くとル・ローアのグフは皆を促して踵を返した。 遅れて合流したスワガー曹長のザクを交え、フェンリル隊5機のMSは ビッグトレーを制圧している筈のアムロとシャルロッテの元へと急ぐ。 彼ら全員がそこに転がる何体もの敵MSの残骸に息を呑み、 頬を紅潮させたシャルロッテがまくし立てるアムロの武勇伝に瞠目するのは、 これより暫く後の事であった。 397 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/28(火) 15 31 27.60 ID fd9uT9w0 相次いで飛来するガウ攻撃空母や輸送機の群れを下から見上げる構図は アムロに軽い既視感を想起させた。 今回はある意味WBを鹵獲したあの時よりもジオン側の対応に緊張感が見受けられる。 連邦軍オデッサ攻撃部隊南部支隊司令グリーン=ワイアット中将は 100名余のビッグ・トレー乗組員共々ジオン軍の捕虜となり、 その身柄はカスピ海を越えてオデッサ近くの一大集積基地ロストフ・ナ・ドヌーに 護送される事になったのである。 鹵獲したビッグ・トレー内部にも検閲が入り、アムロに破壊された比較的軽微な損傷のMSも 次々と輸送機に搬入されて現場は騒然とする趣が暫く続くであろうと思われた。 そんな中、ソフィ、サンドラ両少尉も搭乗MSと共に正式にフェンリル隊への編入が承認された。 これは、部隊が壊滅し行き場の無くなった2人の希望とゲラートの戦力増強要請が 司令部に同時に叶えられた結果であった。 大戦功を挙げた部隊には褒賞と一応の便宜を与えねば一般兵の士気にかかわる。 ニガ虫を噛み潰した様なマ・クベの顔が見えるようだとニッキは笑った。 まああの男は最初からそんな顔付きではあったがなとル・ローアも含み笑いで返す。 体調を完全に回復したバーニィが隊に復帰すると、隊員達の盛り上がりは最高潮に達した。 バーニィは肝心な時に役に立たなかった自分が情け無いとひたすら恐縮していたが、 皆は気にするなと笑い飛ばし、アムロは自分が出撃できたのはバーニィのお蔭だと 素直に感謝の意を伝えた。 なごやかな雰囲気の中、笑顔をふと真顔に戻し、シャルロッテがアムロに向き直った。 「アムロ、丁度良いわ。あの時の約束、今やってみせてくれない?」 「え、今ここで、ですか?」 「そう。みんないるし、場所も広いし、人数も足りるでしょ?」 「何の話だ?」 話が見えないル・ローアが2人の会話に割り込む。 「アムロが煙幕の中で8機の敵MSを一瞬でやっつけたシミュレーションよ。 それを再現してもらう約束をしていたの」 「え!?アムロが8機のMSを一瞬で!?・・・いや、ははは嘘でしょう?・・・?」 復帰したばかりでそんな話は寝耳に水のバーニィが素っ頓狂な声を上げ周りを見渡すが、 笑っている者は誰もいない現実に笑顔を張り付かせる。 ソフィ、サンドラ両名もMS乗りとして今の話には興味津々。瞳を見交わして成り行きを見守っている。 「正直、あの時のシャルロッテの説明は要領を得なかったからなあ。 話半分で聞いていたんだ。夢でも見てたんじゃ無いかってな」 「必死で戦っている時に衝撃を食らったりすると意識が飛ぶ場合があるだろう。 それじゃないのか?アムロが善戦したのは確かなんだろうが、 一人で8機のMSを落としたというのはあまりにも非現実的すぎる」 ニッキとル・ローアが本音を漏らすと、シャルロッテからアムロの活躍を口頭で聞いたメンバーも、 済まなさそうに次々と同様の認識だった事を暴露した。 「そうね・・・もし私もニッキから同じ話を聞いていたら、 バッカじゃないの?さっさと顔を洗ってきなさい!・・・と言ったでしょうね」 「なんだよ!」 あてつけのような物言いにニッキが両目を吊り上げるがシャルロッテは無視した。 「でも私は間違いなくこの目で見たのよ。 スモークの中で何が起こっていたのか知りたいの。お願いアムロ」 シャルロッテはあどけない表情を残す15歳の少年をまっすぐ見つめた。 その瞳は真摯な輝きを放っており、邪念など微塵も感じられない。 アムロは熱く、そして透き通った視線に思わずどきりとした。 「・・・判りました。それじゃ皆さんは敵のMS役をやって下さい。配置はこうです」 ホバートラックの横でフェンリル隊メンバーによる戦闘再現シミュレーションが始まった。 通りすがりにミガキに呼び止められたゲラートは、一同のすぐ横で面白そうにそれを見物している。 砂地に横座りしたシャルロッテ(行動不能のザク)を前に、立膝を付いたアムロ(ヅダ)が身構え、 バーニィ(ガンキャノン)を一人後方に置いた敵役の7人(陸戦型ジム)が 10メートルを隔てて対峙している。 それはMSを人間に置き換えた、あの時の状況の再現であった。 バーニィはごくりと唾を飲み込んだ。これは、絶望的な状況である。 もしも自分がこの状況に置かれたならば、 果たして敵の軍団と戦う事を選択するだろうかと思えたのだ。 それは多かれ少なかれフェンリル隊の面々も感じている様で、 各々が頭の中でこの状況で取るべき最善の行動を模索している様であった。 398 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/28(火) 15 32 34.04 ID fd9uT9w0 「いきます。まず僕はヅダのリミッターを解除してから閃光弾を敵の頭上にこうやって放り投げました」 「待って、どうしてゆっくり下から投げたの?」 「急いで上手から投げると警戒されると思ったんです。なんとなくですけど」 シャルロッテの問いに事も無げに答えるアムロに一同は舌を巻いていた。 心理的な駆け引きと言ってしまえばそれまでだが、 この切羽詰った状況で「ゆっくり」行動するのには相当なクソ度胸を必要とする。 この少年は一瞬の閃きでそれをやってのけたのである。 「全ての敵がシールド防御する事無く閃光を直視したのを見て、 スモーク・グレネードを2個、敵の足元に放ってからバーニアを吹かして敵陣に近付き、 そのままの勢いでまず、スパイクシールドの一撃を・・・最前にいた敵に食らわせました」 軽く走って来たアムロが左ストレートパンチをル・ローアの顔面に当てるフリをする。 ル・ローアはアムロの走って来た勢いそのままに後方に数歩歩いた後に仰向きに倒れた。 スケールは違うが、恐らく現実でも同様の事が起こった筈だ。 眉を上げながらレンチェフが思わず口笛を吹いた。 「各種センサーを起動し周囲の敵の位置を把握しながら右足を軸にして、 こう身体をスラスターで回転させ・・・後ろの敵を・・・」 その場の全員が息を呑んだ。アムロは簡単に言っているが事はそう単純ではない。 単独のセンサーでは複数の敵の位置を完全に特定する事はできず、 刻々と位置を変える敵に対応するには小まめなモニター切り替えと素早い解析が必須なのである。 戦闘と解析を同時に行う事の困難さはやってみれば判る。 脇腹をパンチで抉られたフリのスワガーが輪から離脱し、 後ろから足を薙ぎ払われて転倒したマニングの顔前でアムロの拳が止まると 周囲の溜息が「おお!」「なるほどな!」等の快哉に変わった。 一切の無駄が無く、流れる様な動きは美しかった。 本当にMSの機動でこれをこなしたのだとしたら、 アムロの操縦技術は並外れていると言わざるを得ない。 399 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/04/28(火) 15 32 52.70 ID fd9uT9w0 「ここで僕は『嫌な感じ』がしてヅダの背部装甲をパージしたんです」 「待て、嫌な感じってのは何だ。センサーで敵を確認したんじゃないのか?」 それまで理詰めで動いていたアムロの機動とは正反対の言葉にル・ローアが戸惑った様な声を出す。 ル・ローアの見解にシャルロッテも同意だった。 彼女も不確定要素を極力排除し理屈と効率でMSを動かす事を旨としている。 いわゆる女の勘という奴も、肝心な時に思いの他当てになりはしない事を彼女は知っているのだ。 「違います。何か危険な圧力みたいな物を背後から感じて咄嗟に・・・」 「ふむ。で、その結果は?」 「切り離した装甲板は、すぐ後ろまで迫って来ていた敵MSのビームサーベルに切り裂かれました」 アムロは斜め後方にいたレンチェフをアムロの真後ろの位置まで移動させた。 レンチェフはこんな感じかとばかりに剣を振るマネをしてみせる。 「で、動きの止まった敵に振り向きざまにこう・・・」 今度はレンチェフのボディに正面からアムロは腰の入った拳を軽く当てる。 「コックピット直撃だ。一撃アウトだな」 ニヤリと笑ったレンチェフはそのまま尻餅を付く様に後ろに倒れ、輪から抜けた。 うむむとル・ローアが唸るのがシャルロッテには聞こえた。 背部装甲板を排除するのは本来ならば自殺行為に相当する。 特に戦闘中にそれをするのは正気の沙汰ではないのだ。 結果オーライと言ってしまえばそれまでだが、そう毎回幸運が続く訳でもなかろう。 それまで満点に近いシミュレーションを見せ付けていたアムロが いきなり行った不確定要素に根ざした行動。 自分以上に理屈人間のル・ローアにはそれが気に入らないのかしらとシャルロッテは思ったが、 意外な言葉が彼の口から飛び出した。 「アムロ、お前はニュータイプって奴かも知れんな」 「ニュータイプ?」 どこかで聞いたような言葉にアムロが思わず聞き返す。しかしル・ローアは首を振った。 「詳しくは知らん、前の部隊にいた時に聞いた事があるだけだ。 何でも敵の姿を遠くから察知するだの、無線無しで遠く離れた他人と会話できるだの・・・ 荒唐無稽すぎて話にならん与太話だ」 ル・ローアはしかしアムロをじっと見ている。 「・・・と、たかを括っていたのだがな。済まん、続けてくれ」 432 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/01(金) 19 59 02.27 ID 1OAvLr20 フェンリル隊総出で行われているシミュレーションは大詰めを迎えていた。 ニッキ少尉、マット軍曹、サンドラ少尉の演じるジムを 架空のヒートホークで次々と斬り倒したアムロは、 倒れざまのサンドラの手から架空のマシンガンをもぎ取り、 片膝を付いた姿勢から離れた位置にいるバーニィに狙いを付け、架空の引き金を引く。 それで全てが終わったのだった。 「この後、撃破したガンキャノンから離脱したコアファイターを狙撃しましが、 撃墜は確認していません。以上です」 周囲で見ていた隊員達から思わずおおおと溜息が漏れる。 アムロの言葉が終わった瞬間、アムロが放った架空の銃弾に貫かれたバーニィは肩を落とし、 両膝をがくりと地面に付けてうなだれてしまった。 せっかく回復した体調が、何だかまた悪化してしまったかの様な脱力感を感じる。 実は、これが始まった時からバーニィは自分が敵のガンキャノンパイロットだった事を想定した 脳内シミュレーションを行っていたのだ。 「・・・何も出来なかった・・・負けた・・・」 どうも自分はアムロの技量を相当に見くびっていたらしい事に、 今更ながらに気付かされたバーニィだった。 なんだか本当に色々と負けてしまった様な気がする。 それ程アムロの動きにはムダが無く、付け入る隙が見出せなかった。 今では敵対していた連邦のMSパイロット達に同情すら禁じ得ない程だ。 アムロの操縦技術と状況判断のセンスは掛け値なしに「天才的」であった。 己が自身の技量をこの15歳の少年のそれと比較したフェンリル隊それぞれのメンバーは、 そこに露になった冷酷な一つの現実を受け容れなければならなかった。 それは、歴戦を戦い抜いた事で高い矜持を持つに至った彼らにとっては ある意味、残酷な事実でもあった。 「何と言うか・・・准尉殿が敵でなくて本当に良かったと言わざるを得ませんなあ・・・」 最年長のマット軍曹がぽりぽりとスキンヘッドをを掻きながら 全員の心情を代弁する様に言葉を絞り出すと、ようやくその場の固まっていた時間が動き出した。 「バーニィ、アムロ、そちらのお2人さんと、我が隊の新人は粒揃いだな。 今後は遠慮なくアテにさせて貰うぜ?」 脱帽した様に笑いながらソフィとサンドラを交互に見やるレンチェフ。 サンドラは肩をすくめて苦笑いを見せ、 ソフィは何か思う所があるのか静かな闘志を湛えた瞳をアムロに向けつつ頷いた。 「ちくしょお!何だか面白くねえな!おいアムロ、俺はぜってーお前ぇに負けねえからな!」 「言っておくけど私も負けないわよ!?腕を磨き直してあなたに挑戦します! その時は逃げないでちゃんと受けてね!?」 ニッキとシャルロッテの素直な発言は、若者の特権でもあった。 マニングとスワガーを含め、隊の年長組は、 アムロに対し対抗心を表立って剥き出しにできる彼らを少しだけ羨ましそうに眺めていた。 そんな中、アムロはふと目に飛び込んで来た光景にぎょっとした。 バーニィがアムロに向けて敬礼をしていたのである。 「ちょ・・・ちょっと何やってるんですかバーニィさん!?」 「お忘れですかアムロ准尉。初めてお会いした時に自分は准尉に対して 『一人前と認めたら敬語を使い敬礼もする』と、言ったのですよ」 にっこり笑っているバーニィにアムロは急いで飛びつき、 よそよそしく敬礼している右手を強引に下ろさせた。冗談ではない。 「敬語なんてやめてくださいよ!僕の事は今まで通り呼び捨てでお願いします!」 「いや、それでは軍の規律が・・・」 「色々なサポートで僕の力を引き出して下さったのはバーニィさんです! そうだ、次からはあのヅダ改にはバーニィさんが乗って下さい!」 「何言ってんだアムロ!あのMSのパイロットは・・・!」 「おっと。残念だが、ヅダ改はもう使えんぞー」 「え・・・・?」「ミガキさん?」 それまでゲラートの横で成り行きをずっと見守っていたミガキが、 唐突にアムロ達の話に割り込んで来た。 そしてその言葉は・・・淡々としたその口調とは裏腹に実に衝撃的なものであった。 433 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/01(金) 20 00 50.04 ID 1OAvLr20 「聞こえなかったか?ヅダ改は、もう、使えん、と、言ったんだ」 「「ええええっっー!?」」 見事にアムロとバーニィのハモッた叫び声が晴れた砂漠に響き渡った。 「砂嵐の中で防塵処理を施した装甲を外しちまったのが致命的だったみたいだな。 エンジンや駆動系、電子機器まで細かい砂粒が入り込んじまっててどうにもならん。 アレはエンジンその他の完全オーバーホールが必要だ。 だが、この最前線でそんな悠長な事をやっている暇は無い。 バラして新しく入ったドムのパーツにしちまった方が効率がいい」 「そ、そんな・・・」 アムロは目の前が真っ暗になる思いだった。 確かに装甲を排除した後、少しだけ動きに違和感を感じてはいたのだが、 まさかそこまでマシン全体が重篤な状態に陥っていたとは・・・ 地球の重力下での砂嵐を完全に甘く見ていたようだ。 「ま、あんまり気を落とすな。パイロットが無事ならMSは換えが利く。 お前さん方に相応しいMSは、そのうち隊長がマ・クベから分捕ってくれるそうだ」 「・・・任せておけ」 ミガキの言葉に頷いた何やら自信ありげなゲラートの様子に、アムロは少しだけ胸を撫で下ろした。 しかしヅダ改の解体とは、かえすがえすも残念だ。 あの機体はある意味ガンダム以上の『面白さ』があったのに。 「・・・嵐の様に現れたゴーストファイターはその名の通り、 見た者だけの瞳にその荒ぶる姿を刻み付け・・・ また人知れず、砂漠の風に消えたんだな」 またぞろ吹き始めたつむじ風を見つめながら、バーニィがぽつりと呟いた。 466 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/03(日) 23 58 21.25 ID AaMKSZk0 中規模なファット・アンクル部隊に空輸される形で旧イラン高原を渡り、 ゲルマーン基地で補給した後、フェンリル隊は3日を掛けて ペルシャ湾の入り口であるホルムズ海峡にある港湾基地バンダル・アッバースに到着した。 これまでとはうって変わり、地べたを這いずる移動ではなく、快適な空の旅であったが これは、マ・クベの隊に対する評価が改善されたからでは決して無いであろう事も、 ゲラートは心得ていた。 使える兵は、より有効な場所で使い潰す。多分それだけの事なのだろう。 今、彼らはドックの前で、浅黒く海焼けし、顎鬚を蓄えた精悍な男と対峙している。 年齢は30代後半といった所か。 「遠路はるばるご苦労だった。 突撃機動軍戦略海洋諜報部隊レッド・ドルフィン隊隊長のハーネス大佐だ。 バンダルへようこそフェンリル隊の諸君」 他部隊の上官から久し振りに聞いた労いの言葉にゲラート少佐以下、 フェンリル隊の全員が敬礼で答える。 そんな中、ハーネスは部隊の中に年端もいかない少年がいる事に気が付き、 ゲラートに怪訝そうな目を向けた。 「ご心配には及びません。ウチのスーパールーキーです」 視線の意味を酌んだゲラートが敬礼のまま、すかさず答える。 フェンリル隊の全員が意味ありげな笑みを浮かべているのを見て納得した訳でも無かったが、 ハーネスはこの場でその件についてはそれ以上詮索しなかった。 「まずはゆっくり休んでくれと言いたい所だが、現状、そうも言ってはおれん。 着任早々で済まないがすぐに作戦行動に入らせて貰いたい。事は一刻を争うのだ」 「構いません。空路での移動中に休養は十分に取らせて頂きました」 ゲラートの言葉にハーネスが頷く。 「助かる。先日、チャゴス諸島のディエゴ・ガルシア基地とマドラス基地が 相次いで連邦軍の手に落ちたのは知っての通りだ。 奴等はオデッサへの足掛かりとしてトリントンからの輸送船団をディエゴ基地で中継させ、 紅海を北上、スエズ運河を抜け黒海に到達する海上ルートを確保するつもりらしい。 だが、我々は断じてそれを許す訳にはいかない」 ハーネスは一旦言葉を切った。連邦の構築しつつあるシーレーンを叩く、 そういう事かとアムロは思わずごくりと唾を飲み込んだ。 「奴等の狙いは紅海の入り口であるアデン港湾基地だ。 ここが落とされるとスエズ運河はたやすく突破されてしまうだろう。 我々はこれよりユーコン級潜水艦に分乗しアデンに向かう。 水陸両面から連邦軍の上陸部隊を迎え撃つ為にだ。 奴等の船団は既にディエゴ基地を出航している。猶予は残されていない。以上だ。質問は?」 「海洋部隊はジオンが連邦を圧倒していると聞きました。 マドラス基地はまだしも、何故、デイェゴ基地が敵の手に渡ってしまったのですか?」 ハーネスの言葉に敏に反応したのはシャルロッテだった。 怖い物知らずのその態度に、いつもながら隊員達はヒヤヒヤさせられる。 しかしハーネスは見かけ以上に肝要な人物らしく、彼女のぶしつけな問いにも誠実に答えた。 「物量に任せた爆撃と・・・連邦に新型の海中兵器が現れたんだ。 我が隊のユーコン級潜水艦1隻とザク・マリンタイプ2機も・・・そいつ等に、やられた」 苦渋の表情を浮かべるハーネスに流石のシャルロッテも絶句する。 ドックに吹き込んで来た海風の香りも一瞬、変わってしまった気がした。 488 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/05(火) 01 54 25.38 ID ikK4D9Q0 「機動性の高い小型潜水艇の群れと、 ジオンのお株を奪う様な水中用MSに寄ってたかって袋叩きにされたんだ」 鍔付きの帽子を目深にかぶり、 着崩した軍服のはだけた胸元に尖ったペンダントを認識票を共にぶら下げた男が、 フェンリル隊の背後から野太い声を掛けた。 フェンリル隊員全員が驚いて振り返る中、 シャルロッテだけがその礼を欠いた態度に眉根を吊り上げる。 「ジオンの水陸両用MSは確かに高性能だと言われてはいるが、 高性能の新型機が配備されている部隊は少数しかない。 我が隊に2機配備されていたMSM-01も水陸両用MSの実験機で、 水中戦闘ができるレベルじゃなかった」 「いきなり失礼でしょう!まずは我々に姓名と階級ぐらいは名乗られては如何ですか?」 誰何されたその声に顔を少しだけ上げ、鍔の隙間から激昂するシャルロッテをちらりと見たその男は、 興味が無さそうにふいと視線を下げ、その瞳を再び鍔の陰に隠してしまった。 馬鹿にされた気がしたシャルロッテが憤然とその男に歩み寄ろうとするのを、 両脇からニッキとバーニィが必死に押し止める。 「彼の非礼は私から詫びよう。 元々レッド・ドルフィン隊には3人のパイロットがいたのだが、 2機のMSM-01が撃墜されてしまった為・・・ 今では彼が我が隊唯一のパイロットとなった、ヴェルナー・ホルバイン少尉だ」 「・・・!」 ハーネスの言葉に思わず戸惑いを見せたシャルロッテの顔から怒りが消え失せる。 顔を上げたホルバインの瞳が鍔の奥でぎらりと輝いた。 「心配はいらねえよ隊長。死んだ仲間の分も俺が埋め合わせをしてやるさ。 あの新型の水陸両用MSでな」 「・・・熱くなるなホルバイン。あれはまだテストも済んでいないんだ。 まともに戦えるかどうかも判らんのだぞ」 「いや、俺には判る。あの図体は決して見かけ倒しじゃねえよ」 アムロがホルバインの視線を追うと、ドックの奥の暗がりに異形な巨体が鎮座しているのが見えた。 大きな嘴を付けた楕円形の体が4本足の台座に乗せられている様な、 一種異様なその姿はアムロがそれまで見てきたMSのイメージを大きく逸脱するものだった。 「あれが・・・MSなんですか?」 「ああ。キャリフォルニア基地から送られて来たMSM-10【ゾック】だ。 こいつで連邦の連中に一泡吹かせてやるぜ」 アムロの問いにホルバインは浅黒い顔を歪めて不敵に笑って見せたのである。 506 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/05(火) 23 42 46.78 ID ikK4D9Q0 潜水艦へのMS搬入等で全ての人員が慌しく動き回る中、ハーネス大佐を見つけたシャルロッテは、 自身の作業を一時中断して彼の元に駆け寄った。 「何だと?どういう意味だ」 「ですから、大佐が先程、あのMSM-10を『まともに戦えるかどうか判らないMSだ』 と仰られていたその発言の意味をお聞きしたいのです」 シャルロッテのその質問に答える事は機密情報に関し聊かの問題がある事ではあったが、 今後彼らは部隊は違えど同じ船に乗り込み一蓮托生となる。 引っ掛かる部分を出来るだけ減らし、相互理解を深める事が互いに生き延びる最良の手段である事を 歴戦の艦乗りであるハーネスは承知していた。 彼女の真剣な表情を認めたハーネスは、小さく息を吐き出して作業の手を止めた。 「MSM-10【ゾック】はその全身に強力なメガ粒子砲を9門も装備する拠点攻撃用MSだ。 連続砲撃を可能にする為にザクの4倍ものジェネレーター出力を持ち、 机上の計算ではアレ一機で公国軍のMS一個中隊分の火力スペックがある」 「メガ粒子砲9門・・・」 シャルロッテはあの扁平なMSの持つ、あまりの火力に驚いた。だがそれでは質問の答えになっていない。 ハーネスの懸念は一体なんだと言うのだろう。 「・・・だが、MSM-10の武装は、その9門のメガ粒子砲しかない。 逆に言えばあのMSはメガ粒子砲しか装備されていないんだ。この意味が判るか?」 「ま、まさか・・・MSM-10には水中で使用できる武器が無い・・・と、いう事なんですか!?」 察しのいいシャルロッテの言葉に、ハーネスは厳しい表情で曖昧に頷いた。 「そう。海中で強力なメガ粒子砲を発射すれば水蒸気爆発を起こしかねんからな・・・ アレは、海中を高速で移動し海岸線に上陸した後、強襲揚陸部隊の後方から支援砲撃を行う事を目的に、 『陸上で運用される』事を前提に開発されたMSだ。だから基本的に水中戦は想定されていない。 いや、当初はされていなかった、と、言うべきか」 「・・・?」 ハーネスの歯切れの悪さに眉根を寄せるシャルロッテ。 「しかし開発の途中で連邦軍の海洋部隊にも対応すべきだとする意見が上から出たらしく、 MSM-10のメガ粒子砲は急遽『エーギルシステム』に差し替えられたんだ」 「えーぎるシステム?」 聞いた事の無い単語にシャルロッテが戸惑う。事の深刻さを示すように、 ハーネスの精悍な顔にさっと暗い影が差し込んだ。 「水中でメガ粒子砲を無理矢理発射させる為に考案された非常に不安定なシステムだ。 その開発中にも・・・システム上の不備から、どうやら犠牲者を多く出したらしい、いわく付きのシロモノだ。 そして『エーギルシステム』は結局、完成したとは言い難い不完全な状態のまま・・・MSM-10に搭載された」 「で・・・でもホルバイン少尉は水中で戦闘を行なうと言われていましたが!」 「どちらにせよ我々には、水中の敵MSに対抗できる兵器は、もうあのゾックしか残されていない。 敵と遭遇するまでにテストをできるだけ重ね、微調整を繰り返しながら 少しずつでもシステムの完成度を高めていくしかあるまい。 果たしてその時間があるかどうか疑問だが・・・」 シャルロッテはぶつけ様の無い憤りに無言で身体を震わせた。 バーニィの命を奪いかけたヅダといい、 ジオンの兵器はどうしてこうも現場の兵士に負担を掛ける物が多いのだろう。 しかもザビ家に軽んじられている者の多くがその危険な任に就かされていると見るのは、 うがち過ぎだろうか。 「状況は厳しいが、最善を尽くしてやるしかない。 君達もできるだけホルバインに協力してやってくれないか。奴はぶっきらぼうだが、ああ見えて仲間想いの熱い男だ」 そう言って上官であるにも関わらず軽く頭を下げたハーネスだったが、 あの不遜な男の顔を思い浮かべたシャルロッテは即答する事ができなかった。 522 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/08(金) 01 55 11.51 ID SagvIa20 全ての人員と機材、そしてMSの積み込みを完了したユーコン級3隻からなる レッド・ドルフィン隊の潜水艦隊は、慌しくバンダル・アッバースを出航した。 しかし航海を始めてすぐに、ハーネス大佐はホルバイン少尉の搭乗する MSM-10【ゾック】を水中で発進させると、直ちに各潜水艦を浮上させ停泊させた。 時間は惜しいが、これから行なう調整実験の為にはどうしても艦を停める必要がある為である。 しかし、時間は限られていた。目的地のアデン港には2日半の航程で到着しなければ作戦に間に合わないからだ。 ゾックに搭載された「エーギルシステム」の調整に掛けられる時間はあまりにも少ないのだった。 「諸君等にホルバインがこれから実験する『エーギルシステム』について簡単に説明しておこう。 『エーギルシステム』とは、水中でメガ粒子砲を発射する際、 水の分子とビーム粒子の摩擦熱で水蒸気爆発が起きる事を防ぐ為に考案されたシステムを指す」 フェンリル隊の面々を前にしたハーネス大佐は、厳しい表情で一同に向かって口を開いた。 「まずMSM-10に装備されたメガ粒子砲の先端中心部から、 目標に向けてパイロットブレットと呼称する超小型魚雷を先行射出する。 そして水中にブレット後方に巻き起こる気泡の≪射路≫を発生させ、 その≪射路≫をトレースする形で電磁的に亜音速まで減速したビームを発射する・・・と、いうものだ」 フェンリル隊のパイロット達と共にハーネスの説明を聞いていたミガキの顔が見る見る曇った。 そのシステムでは、ビームの縮退収束率やその他の煩わしい数値設定が 『深度』や『海の状態』によってケース・バイ・ケースになる筈だ。 はっきり言って設定が間違っていた場合、ビームを撃った瞬間、 射路に関係なく機体が水蒸気爆発に巻き込まれる可能性は非常に高い。 何かのトラブルでビームが十分に減速されずに打ち出された場合も同様の事態が起こるだろう。 それにブレットは水棲生物などの異物や海流等の外的要因によって直進しない可能性があるのにも関わらず、 後発するビームは直進しかできないのだ。 もし曲がった射路にビームが真っ直ぐ突っ込んだら・・・これまた水蒸気爆発は確実だ。 つまり「エーギル」を搭載しているMSM-10を水中で運用する限り、 どうやっても安定には程遠い、信頼性に著しく欠ける兵器となってしまう筈なのである。 事ここに至った今、それを言っても詮無い事なので敢えて発言はしていないが、 実はこのシステムの改善案も、ミガキの頭には浮かんでいる。 だが、自分が役に立てるのは、この実験の後、 MSM-10とホルバインが無事この潜水艇に帰還してからの話になるだろう。 今はただ、命懸けの実験に挑むホルバインの無事をひたすら祈るしか無い。 ミガキは指令室の天上を見上げ、静かに瞑目した。 『こちらホルバイン、急速潜行完了。ゾックの海中機動は良好だ。実験予定ポイントに到着。いつでもいいぜ』 「了解。沈降速度そのまま3メートルを維持。実験開始せよ」 ハーネスと会話するホルバインのぶっきらぼうな声音が司令室に響く。 不安そうな顔で思わずスピーカーを見つめたシャルロッテは、 先程から我知らず両の拳を胸の前に組み、硬く握り締めていた。 523 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/08(金) 01 55 59.94 ID SagvIa20 『エーギルシステム作動。システム異常なし。最終チェック異常なし。 ・・・カウントダウンを開始してくれ隊長』 「了解。慎重にな。カウントダウン開始。30・・・29・・・28・・・」 ホルバインの要請を受け、ハーネス大佐自身がレシーバーのマイクに向かってカウントダウンを開始する。 だが暫くすると、ハーネスのカウントダウン以外は 誰もが一言も発せず静まりかえっていた筈の司令室に異音が響き始めた。 始めは細く、だんだん太く。それは、どうやらスピーカーから漏れ出る、 ホルバインの発する奇妙な雄叫びらしかった。 『ウォォォォオオオオオ・・・・・・!』 司令室に響き渡る奇声にフェンリル隊はとまどった。あまりの恐怖に、 まさかあのパイロットの気が触れてしまったのではないかと誰もが訝しむ中、 ホルバインの奇声に動じなかったハーネスのカウントダウンは終了しようとしていた。 「3・・・2・・・1・・・!」 『イイ~ヤッハァーー!!』 ホルバインが叩き付ける様にスイッチを押すと、MSM-10の右肩上部にある2番砲口先端から パイロットブレットが音もなく射出され、その後を追う様に一拍遅れてメガ粒子の奔流が迸った。 その全てが計算通りのタイミングであった。 だがその瞬間、ゾックの至近距離で激しい気泡を伴う大爆発が巻き起こり、 ゾックの機体は後方へと激しく吹き飛ばされた。 海面に浮上していた3機のユーコン級潜水艦も、下方から突如巻き起こった水柱に突き上げられ、 身体を固定していなかった人員は残らず壁か床か天上にその身を打ち付けられる羽目になった。 「いてててて・・・!」 「マット軍曹!」「大丈夫ですか軍曹!?」 船体が衝撃を受けた瞬間、マットは目の前にいたアムロとバーニィを抱え込むようにして 守りながら床を滑り、結構な勢いで背中をコンソールの角にぶつけてしまったのだ。 「へへへ、なあに、こういうのも自分の役目なんでさあ・・・」 しゃがみ込んだアムロとバーニィの前で横向きに床に倒れたまま強がって見せるが、 あのタフなマット軍曹がすぐに立つ事ができないでいる。もしかすると何処か骨折でもしたのかも知れない。 アムロが周りを見回すと、床に投げ出された仲間達がよろよろと身体を起こす所だった。 取り敢えず重傷者は見当たらない。2人を庇った分、マットのダメージが一番大きかったようだ。 「ホ・・・ホルバイン少尉!応答してください!ホルバイン少尉!」 見ると片目をつぶり片手で額を押さえたシャルロッテが必死にコンソール備え付けのマイクに叫んでいる。 彼女の何回目かの呼び掛けに対して、くぐもった声がスピーカーから流れ出た。 『・・・・・・すまねえ・・・し・・・・・しくじっちまった・・・・・・ぜ』 安堵の表情を浮かべるシャルロッテの後ろからハーネスが自分のインカムから会話に割り込んだ。 「無事だったかホルバイン。現状を報告せよ。機体のダメージはどうか。単独で潜水艦までの帰還は可能か?」 『2番砲塔近くで大規模な水蒸気爆発、確認。機体損傷は ・・・1番バラストに軽微な異常を確認するも自力航行には支障なし。 実験の続行は可能。隊長、こいつの装甲は並みじゃねえぜ』 「いや、実験は一旦中止する。速やかに帰還せよ」 『・・・了解』 整備は完璧だったにも関わらず「エーギルシステム」の実験は完全に失敗した。 ホルバインは暗澹たる気持ちを、消沈しそうになる魂の炎を、 胸元に下がる尖ったペンダントを掌に握りこむ事で必死に振り払おうとしていた。 「じいさん・・・俺はまだ負けちゃいねえよな・・・?」 海面が近付くにつれて次第に明るさを増して行く周囲の景色に向けて、彼は独りごちた。 537 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/09(土) 20 30 47.14 ID EEA6fqo0 「突発的な海流の変化によるパイロットブレットの気泡消失が、 MSM-10の水中メガ粒子砲発射実験失敗の原因だったと推測されます」 「それはつまり、まっすぐ立ち上る煙が横殴りの風に吹き散らされた・・・みたいなもんか」 「端的に言えばその通りです。これはシステム上の問題ですので、 今後も同様の事象が何時でも起こりうるという事でもあります」 つまりゾックのメガ粒子砲とは、 使用可能かどうかが刻一刻と変化する海流の「良し悪し」で決定するという事なのだ。 運が良ければ水中でビーム発射ができるが、悪ければ水蒸気爆発。 そんな気まぐれな兵器はとても実戦使用に耐え得るものでは無い。 そしてシステムが「故障」をして実験が失敗した訳ではないので、 修理して再度実験に挑む、という選択も取る事ができない。 レッド・ドルフィン隊のメカニックチーフであるルベロス軍曹の説明に頭を抱えたくなるのを必死で堪え、 ううむとハーネスは唸りながら顎髭に手をやって考え込んだ。 「いいさ隊長。ゾックには両腕にクローが装備されてるんだ。いざとなりゃ敵MSを引っ掛けてやる」 「・・・小回りの利かないあの機体でどうやって奴等に対抗するつもりだ? 俺はもう二度と部下を敵になぶり殺しにされて失いたくは無いんだ」 「・・・」 ハーネスの言葉に黙り込むホルバイン。 重苦しい空気がMSデッキに垂れ込める。が、その暗雲を振り払う様な明るい声で、 ドルフィン隊のやり取りをそれまで黙って聞いていたミガキが声を上げた。 「ちょっと宜しいですかね。私から2つ程提案があるんですが」 少しだけ驚いた顔をしたハーネスは、それでもミガキの言葉の先を促した。 完全な手詰まり状態の今、この状況を少しでもマシにできる手があるなら、 それがたとえ外様のネコの手であっても構わない。 「まずは『エーギルシステム』自体の改良、 もう一つはMSM-10にアームズオフィサーを搭乗させるというプランです」 「どういう事か。順を追って説明してくれ」 ハーネスは身を乗り出した。ホルバインやルベロスも真剣な目でミガキの言葉を聞き漏らすまいとしている。 ミガキは頷いて、まずはエーギルシステムの改良ですがと言を繋いだ。 「パイロットブレットを連射式にするんです。 間断無くブレットを射出する事でビームの『射路』たる気泡が消失するリスクを減らす事ができるでしょう」 「な、なるほど!」 さすがミガキだと憧憬の眼差しでルベロスは思わず膝を打った。 ジオンのメカニック達の間では、旧ジオン共和国テクノクラートであったミガキの名を知らぬ者はいない。 その名は彼らメカニックの間では、高い技術力と当時の政治力をバックボーンにした数々の逸話と共に、 殆んど生きた伝説と化していたのである。 メカニックだけに留まらずジオン軍にミガキのシンパは多く、 マ・クベに目を付けられるまでの事ではあったが彼の所属するフェンリル隊には、 目立たぬように各方面から便宜が図られる事も多かった。 538 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/09(土) 20 31 14.56 ID EEA6fqo0 「現在は単発式のパイロットブレット発射装置を、マガジンを増設して連射式に設定するだけですから、 その改修は問題ないでしょう」 ルベロスの素直な反応にミガキは頷く。 「もう一つ。MSM-10は9門もメガ粒子砲があるのにも関わらず、 一人で全ての武器管制を行わなければならず、パイロットに相当の負担をかけています。 特に水中戦では、起こりうる咄嗟の事態に迅速に対応できません。 これは、MSM-10が元々陸上で砲台代わりに使用される事を前提に開発されたものだからだと思われます」 言われてみれば確かにその通りだとハーネスは思った。 開発コンセプトが途中で変化したのにも拘らず、それに対応せずに完成を急いでしまったツケが こんな所にも出てしまったのだ。 「そこで、MSM-10を複座にします。幸いにも大型のコックピットスペースには余裕がある。 予備シートを設えて、コ・パイ(副操縦士)にそこで武器管制を行わせるのです。 そうすればメインパイロットは操縦だけに専念する事ができます」 「ありがてぇ。ゾックの出力はケタ違いなんだ。 武器管制の手間が省けりゃ思い切りぶん回す事ができそうだぜ」 「そう。自在にビームが発射できるなら、水中で冷却効率を高めたMSM-10に死角は無い。 これで【ゾック】は比類なきMSに生まれ変わる筈です」 ホルバインとミガキの掛け合いに周囲から歓声が上がる。ゲラートやハーネスも思わず嘆息を漏らした。 しかしその時、はた、とハーネスの顔が曇った。 「・・・だが、水中で刻々と変化する周囲の状況を解析しつつ、 素早い判断力で的確に敵に攻撃を加える事は、生半可な技術者では不可能だろう。 コ・パイには相当に熟練した管制オペレーターを配置しなければならないな」 その困難さを憂慮しての発言だったが、またもやフェンリル隊の全員が、 口元に各自思わせぶりな笑みを浮かべながら、今度は視線を同じ方向に向けている。 皆の視線のその先にいる年端も行かない少年が、こちらを真っ直ぐに見つめているのを ハーネスとホルバインは不思議そうに見つめ返した。 578 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/13(水) 11 42 32.08 ID FdjoMoU0 レッド・ドルフィン隊とフェンリル隊のメカニック達はミガキの総指揮の元、 一致団結してMSM-10の改修作業に取り掛かった。 何が何でも目的地に到着する前に全ての作業を終わらせねばならない。 各隊員は粛々と、そして迅速に作業をこなして行く。 アムロやホルバインもコックピット周りに張り付き、新たにセッティングし直され、 レイアウトが変化した計器類のチェックに余念が無い。 特にアムロはこの後ハーネス大佐から水中で使用する特殊索敵センサー 及びメガ粒子砲のレクチャーを受け、その全てを頭に叩き込んでおかねばならないのだ。 するべき事は決定している以上、後は時間との戦いである。 2隊合同で事に当たる場合、通常はどちらの隊がイニシアチブを取るかで 余計な軋轢が生まれかねないケースではあったがミガキの存在がその心配を杞憂なものにしたのである。 各隊間のコミュニケーションは非常に良好であった。 だが、そんな中、慌しく艦内で動き回っている人員とは対照的に、 まったくもって手持ち無沙汰だったのがアムロを除くフェンリル隊のパイロット達である。 彼らの扱える水陸両用MSでも余分にあれば話は違ったのだろうが、それも叶わぬ現状、 陸に上がるまでは単なるドルフィン隊の居候でしか無いのだ。食客と呼ぶのもおこがましい立場である。 ただでさえ畑違いな潜水艦の中、余計な手出しは逆に迷惑を掛けてしまいそうで、 精々が邪魔にならない様に居住区の片隅で小さくなっているぐらいしか居場所が無い。 陸に上がったカッパならぬ水に入ったフェンリル。名にしおう精鋭部隊の面目丸つぶれであった。 しかし、早々と諦観を決め込んだ情けない男性陣を尻目に、 奮起したのがシャルロッテ、ソフィ、サンドラのフェンリル隊女性陣である。 彼女らは分散して艦内の清掃や給食用の調理、食事の配膳等を猛然とこなし始めたのであった (意外な事に、その中で最も手際が良かったのはワイルドで男勝りがウリだった筈のサンドラ少尉だった)。 食堂室で整然と食事する事が望めぬ現況、 しかもむさ苦しい男所帯で日々を過ごして来たレッド・ドルフィン隊にとって 彼女達の行動は大なる好評をもって受け入れられ、2隊の結束をより強める結果となった。 (ソフィの清楚な容姿を侮ってその臀部に不届きな手を伸ばした男が、 彼女が振り向きざま笑顔で放った回し蹴りを側頭部に食らって昏倒した、 という一例もあるにはあったが、不幸な事故として内々に処理されてしまった) 579 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/13(水) 11 43 31.46 ID FdjoMoU0 2時間半もの間コックピットシートに座り込んでいたホルバインは、 配置換えに手こずった計器の動作が何とか正常に行なわれるのを確認して、 ようやく一息つく事ができた。 まだ調整を続行しているエンジニアに一声掛けてからコックピットを抜け出し、 大きく伸びをすると隔壁に背中をもたれさせて座り込み、俯いて目を閉じた。 水中実験から休息無しでぶっ続けでの作業に、さすがに少し疲れたと感じる。 「・・・食事の配膳です。これを食べ終わったら自室に戻り作戦開始まで仮眠を取れ、 と、ハーネス大佐からの命令です」 突然上から掛けられた声にホルバインが片目を開けると、 そこには不機嫌そうな顔をしたシャルロッテがいた。 フードトレーを満載したキャスター付きラックを押しながらデッキ内を巡っているらしい。 ホルバインは判ったと素直に彼女の手からトレーを受け取ると、すぐにもそもそと食事を摂り出した。 「あんたら、何であのアムロって餓鬼をゾックに乗せようとしてるんだ」 食事を頬張りながら、眼を上げずにホルバインは側に立つシャルロッテに問う。 言葉は穏やかだがその声音には少しの怒りが含まれている。 シャルロッテは眉根に力を入れてから、思い切った様にキッパリと言い切った。 「それが最良の人選だからです」 「なるほど。もし奴が死んでも、あんたらの隊にとって最小限の戦力低下で済むという訳か」 その瞬間、ホルバインが目深に被っていた帽子がシャルロッテの平手打ちで跳ね飛ばされ、 数メートルの床を滑って行った。この暴挙には流石のホルバインもいきり立った。 「何すんだ!」 「残念だわ。あなたが作戦前のパイロットじゃなければ良かったのに」 ホルバインは愕然とした。確かに自分の顔には毛一筋ほどの傷もついておらず、 トレーに乗った食事もスープ一滴こぼれてはいない。 打撃角度、スピード共に計算され尽くした恐るべき早業の平手打ちだったようだ。 「闇夜のフェンリル隊を舐めないでよね。私達は戦力を出し惜しみしたりしないわ。 アムロが選ばれたのは、彼が・・・」 「何だってんだ!」 「・・・今回の任務に一番相応しい技術と才能を持っているからよ。悔しいけど」 本当に悔しそうなシャルロッテの顔は、演技などでは決して無い苦渋に満ち溢れていた。 鼻白んだ表情で「マジかよ」と呟くホルバインに、シャルロッテは前回の戦闘の事を簡単に話して聞かせる。 信じがたいと言いながらも次第に身を乗り出して話に聞き入るホルバイン。 「まるでニュータイプ。そう、アムロはニュータイプなのかも知れないってル・ローア少尉が・・・」 「おい!めったな事を口にしない方がいいぜ」 それまでおとなしく聞いていたホルバインは、急いで周りを見渡すと、 声をひそめつつ鋭い口調で彼女の言葉を遮った。 580 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/13(水) 11 44 14.97 ID FdjoMoU0 「ジオンは本気でニュータイプを軍事利用する為に特殊機関を設立したらしい。 素養が少しでも認められた兵士は、有無を言わさずそこへ連れて行かれちまう。 で、その機関から元いた部隊に帰って来た奴はいないらしい・・・ってな話を、 こないだ員数合わせで宇宙から配属されて来た新入りがしていたんだ」 「まさか・・・」 「本当だ。得体の知れない実験のせいで頭がおかしくなった奴もいるそうだ。 そいつはひょんな事からその事を知ってしまったが為に、中立コロニーに常駐するエリートコースから一転、 こんな最前線に送られるハメになったんだと嘆いていた」 「ジオンが中立コロニーにそんな機関を?そ、それじゃ完全に南極条約違反じゃないの!」 「戦争だからな、俺だっていまさらキレイ事を言うつもりは無いが・・・ 赤い彗星みたいな現役エースならばともかく、一介の兵士なら遠慮なく奴等にしょっ引かれちまうだろうぜ。 大事な仲間を怪しげな奴等の玩具にされたくねえと思うなら、絶対に目立たせるな。 奴等の耳と目はどこに在るか判らん。ニュータイプなんざ知りませんってな顔をして 大人しくしていた方が身の為だ」 「待って、その人に詳しく話を聞きたいわ。どこにいるの?」 「死んだよ」 息を呑むシャルロッテ。 「作戦中じゃないぜ。陸でだ。基地内の自室で心臓麻痺。着任して2日目だったかな」 強烈な吐き気と共に、背中にちくちくする汗が噴き出してきたのが判る。 突如、今まで信じて立っていた足元の地面がぐずぐずと崩れて行く錯覚に囚われたシャルロッテは、 上手く思考をまとめる事が出来ずにいた。 「雑兵に過ぎない俺が偉そうな事を言う訳じゃないが、 以前にも増して最近のジオン軍には何だか変な焦りを感じる。何かロクでもない事が起こる前兆かも知れん」 蒼白な表情で立ち尽くすシャルロッテに、ホルバインは溜息をつくと表情と声のトーンを少しだけ変えた。 「だがまあ、それもこれも命在ってのモノダネだ。取り敢えずは次の作戦で生き残る方が先決だな。 厄介な事は後で考えようぜ」 そう言いながら立ち上がったホルバインにハッとしてシャルロッテは眼を向ける。 ホルバインは彼女に食べ終わったトレーを手渡した。 「あんたらを見縊っていた事は謝る。アムロがそんな凄い奴だったとは正直驚いたぜ。 こいつは本番が楽しみだな」 自室に向かって歩き出したホルバインはちらりと後ろのシャルロッテを振り返ると、 一瞬だけその口元に微笑らしきものを見せ、後は振り返らずにMSデッキを出て行ってしまった。 634 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/17(日) 22 51 03.48 ID KOtcJN20 アデン湾の入り口にあたるソコトラ島南端を迂回した地球連邦海軍第3船団は、 旗艦たるヒマラヤ級航空母艦【フォート・ワース】に駆逐艦2隻とジュノー級潜水艦3艇を随伴させた 万全の布陣でアデン基地奪還作戦に臨んでいた。 特にジュノー級潜水艦の一隻である【アナンタ】は前回ジオン軍のレッド・ドルフィン隊と単艦で交戦し、 搭載されている水中型MS【RGM-79Dジムダイバー】と 水中型モビルポッド【RB-79Nフィッシュアイ】の集中攻撃により 敵水中用MS2機と潜水艦一隻を撃沈せしめていた。 後一歩まで奴等を追い詰めた、ただでさえ強力な戦力に加え今回は、 同等の艦載戦力を有した同型潜水艦2艇と空母に搭載した対潜攻撃機も攻撃に加わるのである。 アナンタ艦長ブーフハイム中佐は、今回の攻撃は戦力層の薄いジオン軍に 防ぎきれるものではないだろうと余裕綽々で考えていた。 邪魔なジオン水中部隊を一蹴した後は空母に搭載されたガンペリーで陸上用MSを上陸させ、 航空機で援護を行いつつすみやかに基地を制圧する強襲作戦である。 面白くも無いが何の問題も無く粛々と作戦は完了するだろう。スペースノイド共の歯ごたえの無い事、夥しい。 音に聞こえたジオン水中MS部隊も実際に戦ってみればどうという事は無かった。全く馬鹿馬鹿しい。 我が軍の腰抜け共が敵を恐れ過ぎたのだとブーフハイムはキャプテンシートでせせら笑った。 実際は彼の部隊が撃沈したドルフィン隊のMS2機は、ジオン軍水陸両用MSの試作機に過ぎず、 連邦軍が恐れるジオンの水陸両用MSとは別物であったのだが、今のブーフハイムにはそれを知る由も無い。 彼がその認識を改めるのは、これから暫く後の事になる。 「フォート・ワースより入電!作戦海域に到着、先行部隊を出撃させよ」 「よし、フィッシュアイ部隊、ジムダイバー発進!遼艦にも伝えろ!」 オペレーターの伝達を素早く実行に移したブーフハイムは随伴する2艇の潜水艦にも全機出撃を促した。 その数、フィッシュアイ18機、ジムダイバー3機の計21機。 フィッシュアイ3機×2の2部隊を1機のジムダイバーの隊長が率いる万端のフォーメーションである。 フィッシュアイは一時的に生産されたとは思えない程の機動力を誇り、 個別の攻撃力には劣るものの大量に戦線に投入して運用すれば潜水艦など恐るるに足らない兵器となった。 敵を発見次第、今回は空母からも対潜攻撃機も発進し、戦闘に参加するのだ。この一分の隙も無い布陣で、 前回取り逃がした、あのスペースノイド共が乗る潜水艦を全て海の藻屑と消してやろう。 貴様等には分不相応な地球の海で死ねる事を有難く思うのだなと、ブーフハイムは熱狂的な瞳を輝かせ、 その口の端を吊り上げた。 651 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/20(水) 20 02 24.53 ID ziwUeqU0 「なるほどな・・・そいつは面白そうだ」 「ええ、MSM-10の性能を水中で100%発揮するにはこの戦法が一番だと思うんです」 「後は、耐久力の問題か」 「少尉の実験によって、ゾックの頑丈さが証明されています」 「ふふ、そうだったな」 何やら熱心に話し込みながらホルバインとアムロは、 レッド・ドルフィン隊旗艦ユーコン級攻撃型潜水艦【U-5】のブリーフィングルームに姿を現した。 ドアを抜け部屋に入った2人は同時に息を飲み込む。 その場を支配する張り詰めた空気に異常を感じ取ったのである。 そこには一様に暗い顔をしたフェンリル隊パイロットが勢揃いしており、 ハーネスとゲラートの沈痛な表情がその場の重さに拍車をかけていた。 「2人とも休息中に呼び出して済まない。ソコトラ島周辺海域に設置したセンサーが敵の動きをキャッチした。 まずはこれを見てくれ」 「これは・・・」 ハーネスが指し示す壁のスクリーンに映し出されたのは、画面の上半分を席巻する無数の光点群だった。 光点全てが敵だとすると、とてつもない大軍である。その数はざっと見て20を越えており、 じわじわとこちらへ迫って来ているのが確認できる。 「海中の戦力だけでこれだ。ソコトラ島観測所からの連絡によれば、 後方には護衛艦に守られたでかい航空母艦も控えているらしい。 爆撃機や対潜攻撃機も戦闘時には投入されると見るべきだろう」 「これに対してこちらの水中戦力は3隻の潜水艦と改修が終わったとは言え、たった1機だけのMSだ。 正面からぶつかるのは得策ではない、と、ゲラート少佐とも意見の一致を見た」 ゲラートの冷徹な分析に、ハーネスは悔しさを滲ませながら言を重ねた。 「我々は敵に追いつかれる前に、このままアデン基地まで後退する。 そこでフェンリル隊のMSを降ろし、奴等を地上で迎撃する作戦を取る」 「・・・それじゃあ、みすみす敵に先手を許しちまいますぜ。物量に勝る奴等の思うツボだ」 それはハーネスやゲラートにも判っている。 今回の作戦、ジオン軍は何よりもまず先に、連邦軍の水中部隊を叩きつぶさねば勝機は薄い。 紅海へ敵の侵入を許してしまえばアデン基地は背後を突かれ、海と陸から挟撃されてしまうからだ。 マ・クベがオデッサの防衛用に引き上げさせてしまった為に、 現在アデン基地の守備隊にはMSが配備されていない。 基地への爆撃を許し、空母に満載されているであろう敵MSを 無傷で上陸させてしまえばその時点で趨勢は決するだろう。 そして、もしアデン基地を放棄して敗走した場合、 数に劣るジオンは2度と彼の地を奪回する事は叶わないだろう事も。 いや、そもそもそれ以前に海と陸から敵に包囲された状況では自分達が無事に逃げ出す事すら困難だろう。 判っている。そんな事は充分判っているのだ。しかし。 「・・・部下に無謀な突貫をさせる訳にはいかん。ここは無理せず基地まで下がる。 既に他の部隊に向けて救援要請は出してあるが、どこもかしこも人手不足で、援軍はアテにできん。 ここは我々だけで何とかするしかない。戦力のムダ撃ちはさせられんのだ」 そう厳しい顔で言い切ったハーネスに対し、ホルバインはちらりとアムロと目配せをし、 その眼が頷いたのを確認してから口を開いた。 652 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/20(水) 20 03 24.62 ID ziwUeqU0 「MSM-10は単独で敵陣に突っ込むぜ。 その間に隊長達は急いでアデン基地に向かい、敵を陸上で迎え撃つ準備を整えといてくれ」 「馬鹿ね!あなた達をむざむざ死なせたくないと考えてる隊長達の配慮が判らないの!?」 一同は驚いて声の主に注目した。ハーネスやゲラートが口を開く前に、 なんと激昂したシャルロッテが後ろからホルバインを叱り飛ばしたのである。 そのあまりの剣幕に、両隊長は口を噤み、フェンリル隊はきまりが悪そうにあちらこちらに視線を泳がせている。 だが、その時ホルバインはニヤリとシャルロッテを、見たのだ。 その不敵な笑顔の意味が判らず怪訝な表情を浮かべるシャルロッテ。どうもこの男を相手にしていると調子が狂う。 「俺達はむざむざと死んだりしねえ。勝算がある」 「勝算ですって?」 「ああ。俺達に必殺の作戦有り、だ。 だがそれには・・・MSM-10の周りにできるだけ味方がいない方が都合がいい。 だから、今回の状況はおあつらえ向きだ。なあ、アムロ」 ホルバインのその言葉に今度ははっきりと頷く赤毛の少年。 シャルロッテは昂ぶる気持ちをムリヤリ押さえ付けて両腰に手をやり、 一息吐いた後にもう一度ホルバインの顔を凝視した。 その揺らぎの無い眼差しはどう見ても虚勢を張っている様には見えない。 ふと、アムロの自信に満ちた表情にも目が留まった。 「恐らくこの戦いで水中戦の概念が変わる。任せてくれハーネス隊長」 自信満々に言い放つホルバインに2人の隊長も視線を見交わした。 もう躊躇している時間は残されていない、敵はこの瞬間にも迫り来ているのだ。 ハーネスは指揮官として今、決断を下さねばならなかった。 「・・・判った。MSM-10出撃だ。 だが、あくまでも敵部隊を足止めし、我々が迎撃態勢を整える時間を稼ぐのが目的だ。 ある程度敵に損害を与えた後は包囲される前に速やかにアデン基地に帰還せよ。 いいか、決して無理をするんじゃないぞ!」 実際ホルバインとアムロがこれからやろうとしているのは、その命令とはまさに逆の事なのだった。 が、それを説明している時間はありそうに無い。結果で証明するのみだと2人は腹を括った。 「了解」「了解っ!」 2人はハーネスの命令に敬礼で答え、一瞬視線を合わせた後、 急いでMSM-10【ゾック】の待つデッキへ向かう。 突如鳴り響いた甲高いアラート音にバーニィはモニターを振り返った。 敵の大群が警戒水域を突破し、さらに迫りつつある事を知らせる警告音だ。 MSを失った彼は、今回戦闘オペレーターを勤める事になっており、 航海中そのレクチャーもスワガーから受け終えていた。 アムロに負ける訳にはいかないと、シャルロッテやニッキだけではなく、 彼もまた密かに気合を入れていたのである。 激戦が予想されるアデン湾はもうすぐであった。 692 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/23(土) 15 46 09.68 ID sJMd1fE0 「緊急支援要請だと?」 地中海アレキサンドリア基地近海に潜航する、 ユーコン級を遥かに凌駕する大型潜水艦マッド・アングラー。 その司令室で一際目立つ赤い軍服に身を包み、 ヘッドギア状の仮面で顔を隠した男はそう言って振り返った。 仮面のせいで表情は窺い知れないが、理知的な声音と隙の無い物腰が、 彼が只者ではないであろう事を雄弁に物語っている。 「これは我々と同じ潜水艦部隊のレッド・ドルフィン隊からのものです。 現在、アデン基地防衛作戦を遂行中、敵の水中大部隊に遭遇せり、至急応援を乞う、と」 「大佐、ドルフィン隊は過日の戦闘の際、2機の水中用MSを失ったと聞いてます。 ウチに搬入される筈だった新型が1機、今回の作戦に合わせて急遽配備されたらしいですが、 それがどうも欠陥品だったみたいで」 ジオン海洋諜報部隊に独自のネットワークを持ち、 事情通を自称するコノリー少尉が通信担当のポラスキニフ曹長を補足する。 「我々が大西洋から急遽この地中海担当に鞍替えさせられたのは、 もともとこの海域担当のドルフィン隊がマ・クベ大佐から、その作戦を勅命された為だった ・・・という訳ですな。 相変わらずあの御仁は、子飼い以外の部隊には、無謀な作戦を押し付けたがりますなあ」 マッド・アングラー隊艦長のフラナガン・ブーン大尉が、 この深海からでは見え様も無い筈のオデッサの方角を正確に睨み付けた。 潜水艦乗りは隔離された特殊な環境がそうさせるのか、仲間意識が非常に強い。 特にハーネス大佐とは顔見知りであるブーンは憤りもひとしおであった。 ふうむと顎に手をやり考え込んだ仮面の男にブーンが続ける。 「しかしこの海域を離れるとなると、他の部隊にここを任せる段取りが必要です。 ここからだとシーサーペント隊かマンタレイ隊でしょうが ・・・どちらにしてもすぐに救援に向かうという訳にはいきません。 それに、こちらには例の任務もあります」 「フラナガン機関・・・クレタ島の施設か、厄介だな」 693 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/23(土) 15 46 55.30 ID sJMd1fE0 仮面の男は顎に手をやったままコリノーを振り返った。 「我々より早くアデン基地に駆け付けられそうな部隊はあるか?」 「正確には判りませんが・・・公式には現在我々が彼の地に最も近い位置にいる潜水部隊だと思われます」 コリノーの言は暗に、味方に対しても存在を秘匿して非公式に活動している諜報部隊の事を指している。 だが、そんな部隊が例え近海にいたとしても救援要請に応じるとは、とても思えない。 仮面の男は顎から手を離し、バサリとマントを翻した。 「判った。それではマッド・アングラーを動かさず、MSだけを救援に向かわせよう」 「しかし、ここからでは全速力で向かってもアデンまで2日は掛かります」 「アレキサンドリア基地で輸送機を借り受ける。ラサ、マーシー、一緒に来い」 「はっ!」「了解!」 状況を把握した後は即断即決である。両曹長の敬礼に返礼した仮面の男はその場の人員に素早く指示を飛ばした。 「ブーン、後は任せる。任務続行だ。 他の者も、後々マ・クベに付け入る隙を与えない様に、残りのMSで哨戒は怠るな」 「了解でありますシャア大佐!」 各々が心酔し、全幅の信頼を寄せる隊長に対し、 一同を代表して声をあげたブーン以下マッド・アングラー隊の面々は誇らしげに敬礼を向けている。 踵を返したシャア・アズナブル大佐の仮面の奥に隠された仄暗い瞳が鋭く煌いた。 「アデン基地到着までに3~4時間という所か。それまで彼らが持ち堪えてくれていれば良いのだがな」 援軍とはいえ無謀な突入は何の意味もなさない。 マッド・アングラー隊の指揮官であるシャアは、戦況と敵味方の趨勢をしたたかに見極めねばならないのだ。 基地が墜ちていた時は言わずもがなだが、突入時、友軍の状況があまりにも劣勢であり 基地が陥落寸前だった場合等は、不本意だが戦闘に参加せず引き返す選択も視野に入れなければならないだろう。 なぜなら連邦軍はアデン基地を足場に大部隊を編成した後、 紅海を北上し地中海に侵入して来るはずだからである。 その時、敵を迎え撃つ矢面に立たされるのは他ならぬマッドアングラー隊なのだ。 後の作戦に備える為にも、部隊の戦力を擦り減らす事は極力避けねばならない。 冷酷な様だが、それが現実だった。 「MSデッキ!大佐が出撃されるぞ!ズゴック発進準備に掛かれ!ゴックとアッガイもスタンバイだ!急げよ!」 シャアがMSで出撃する。 艦内マイクに大声で指示を出しながらも、シャアの神技的なMS操縦に惚れ込んでいるブーンは、 その機動を目の当たりにできない自分の立場に少々の落胆を感じつつも、 浮き立つ様な気持ちを抑え切れずにいた。 不謹慎だと言われれば返す言葉も無いが、こればかりはどうしようもない。 740 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/26(火) 20 25 35.52 ID b7FKNZ20 「聴音装置に反応!潜水艦より発進した敵新型水中機動兵器は、アクティブ・ソナーを使用している模様です!」 「馬鹿め・・・スペースノイドは海戦の初歩も知らんらしいな」 アナンタ艦長ブーフハイム中佐は、水測士の報告にクククと笑いを漏らした。 迂闊にソナーを使用して水中で周囲を探査すると、自身の位置を相手にも明確に晒す事となる。 それが意図したものかどうかは判らないが、どうやら敵はノーガードで打ち合う戦闘をご所望の様だ。 「後方の3隻の潜水艦は全速力で戦線を離脱して行きます!こちらに向かって来る敵は機動兵器1機のみです!」 これで敵の罠という線は消えたと言える。 互角の戦力で殴りあうならまだしも、彼我の戦力差は20対1を越えているのだ。 その差は常識的に考えて勝負にすらならない。敵にもそれは判っている筈だ。 「仲間を逃がす為に、玉砕覚悟のオトリになるという訳か。 スペースノイドのクセになかなか味な真似をするではないか」 「待って下さい!敵機動兵器、深度を下げ海底に接地・・・いや、完全に着底して静止しました! アクティブ・ソナー依然発信中!」 つまり、敵は死に場所を定めたという訳だ。ブーフハイムは浮き立つ気持ちを押さえるのに必死だった。 「よし!1隊を正面上方、2隊をそれぞれ逆側面から回り込ませろ! だが近付き過ぎるなよ!敵を全周包囲した後、距離1000でフィッシュアイ一斉に短魚雷射出だ!」 恐らく敵は、こちらをおびき寄せ最終的に・・・できるだけ多数の敵を巻き込んで果てるつもりなのだろう。 が、そんなカミカゼに付き合ってやる義理などこちらには無い。わざわざ奴に近付いてやる必要など無いのだ。 この様な事態を想定し、接近戦用の武器であるフィッシュアイの連装式ロングスピアは、 短魚雷と有線式誘導魚雷管に換装済みだ。 完全にこちらの読み勝ちである。 後はじっくりと敵を取り囲んだ後、安全圏から悠々と追尾魚雷をお見舞いしてやればいい。 簡単な話だ。それでカタは付く。 ミノフスキー粒子の効かない海中で、距離1000で四方八方から同時に放たれた追尾魚雷など 例えデコイを使用しようと避けられるものでは無いのだ。 一発でも当たれば十分。直撃はせずとも衝撃波で機体外装に少しでも亀裂が入れば 後は水圧がこちらの味方となって敵にトドメを刺してくれる。 あの愚かで哀れな一機を始末したらすぐに、尻尾を巻いて逃げ去った潜水艦の追撃に入ろう。 その時は空母フォート・ワースに対潜攻撃機の投入を要請すれば万全だ。 そして、敵の水中部隊を一掃したら、アデン基地に対して「あれ」を使用して一気に決着をつけるのだ。 こちらはハナから空母に搭載された陸上用MSの出番など、作ってやるつもりは無い。 今日こそ、暗い海底に押し込められた潜水艦部隊の実力を、陸上部隊の奴等に見せつけてやる時なのだ。 ブーフハイムの脳内シミュレーションは完璧だった。 これまで軍人として、どちらかと言えば冴えない道を歩んで来た彼の目の前にぶら下がった、 栄光を掴み取る千載一遇のチャンス。 彼はまるで舌なめずりでもするかの様に、血走った目をギラつかせてその手を大きく伸ばしたのだった。 764 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/30(土) 13 26 10.19 ID YMT9fOE0 水深の浅いうちは、たゆたう様に揺らめき見えた太陽の光も、 この深い海の底では一滴すらその輝きを感じ取る事はできない。 完全な静寂―― だがその静寂の中、瞑目したアムロは周囲を取り囲んで行く敵意を明敏に感じ取っていた。 水測用のヘッドホン越しに聞こえていた静寂の音色に、明らかに違う何かが混じり込んで濁り出したのだ。 その殺意と言い換えてもいいザラつく気配は、アムロを少しだけいらいらさせている。 急遽追加された火器管制シートに座る彼の目の前には今、 画面が中央で2分割された大型のディスプレイモニターがあり、 そこには左右それぞれにMSM-10【ゾック】の前面と後面の映像が映し出されていた。 大型MSであるゾックには通常の倍以上のサブカメラが機体の各所に取り付けられており、 任意で切り替えることができる。 これは、各種ソナー対応のレーダーサーチ画面に切り替えることも可能だ。 アムロは神経を研ぎ澄まし、敵の変化を待っている。 いや、正確に言うならホルバインの合図を待っている。水側員の経験が無いアムロには、 経験が物を言うこの「音の変化」を聞き分ける作業だけはホルバインに任せるしか無かったのだ。 ごぼっという微かな音が、その時確かにアムロの鼓膜を震わせた。 「魚雷発射管注水音確認!来るぞ!」 ホルバインの大声にアムロは両目を見開いた。 素早く眼前のモニターを周囲レーダーサーチ画面に切り替えると、 ゾックの上方にいち早く展開していた小隊から発射された無数の魚雷が直線的に迫り来るのを、 3D光点表示で確認できた。 アムロにとって、待ちに待ったのはこの瞬間だったのである。 「カウンターブレット発射!」 ゾック頭頂部に装備された1番メガ粒子砲口がグリグリと魚の目の様に可動し、 斜め上方から迫る敵魚雷に正対する位置に発射角度を正確に調整した。 その中央から連続発射された高速パイロットブレットが、気泡を巻き上げつつ敵の放った魚雷と交差した瞬間、 アムロはトリガー親指部分にあるボタンを押し込んだ! 「メガ粒子砲発射!」 ザクの4倍という強力なジェネレーター出力に練り上げられたメガ粒子の奔流は、 まるで南海を貫く龍が如く嬌声を上げて迸り、瞬く間にゾックに迫っていた魚雷を連鎖的に爆散させるや、 そのまま敵の魚雷が自らの気泡で付けた道筋をさかのぼり、 魚雷を発射したばかりのフィッシュアイ5機を粉々に消し飛ばした。 いや、正確に言うならば、全ての敵を貫いたのはビームでは無い。 彼らの眼前で大規模な水蒸気爆発が起こったのである。 爆発に巻き込まれた5機のモビルポッドの薄い装甲はひとたまりもなかった。 機体に亀裂が及んだ後は、奇しくも彼らの指揮官であるブーフハイムが予想した通り、 水圧によって圧壊してしまったのだ。 水圧は彼らの「味方」だけにはならなかったのである。 765 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/05/30(土) 13 26 46.71 ID YMT9fOE0 電磁気的に亜音速まで減速したビームを発射するとはいえ、ビームはパイロットブレットより速い為、 ブレットを「追い越した」時点で水蒸気爆発を起こす。 ならばその水蒸気爆発を武器として使えないかとアムロは考えたのだ。 そして、敵の水中兵器が巻き起こす気泡はゾックが発射するパイロットブレットと同じ「射路」を 敵まで付けてくれる道筋となる。 そしてその道筋が途切れた場所で水蒸気爆発が引き起こるのだ。つまり敵の至近距離で、である。 例え敵にビームは直撃しなくとも、至近距離での大規模な水蒸気爆発は十分に大ダメージを与えうる。 果たしてその結果は予想以上のものであった。 そして――― 「2時、4時、11時、から魚雷接近!」 「バブルパルス弾幕を張ります!衝撃に備えて下さい!」 ホルバインの警鐘にアムロの指が鮮やかにキーボードを叩くと、 2分割だったモニター画面の右側が9分割に切り替わった。 これはそれぞれの画面が、ゾックの別個に稼動するメガ粒子砲からの視点に対応している。 海底に接地しているゾックには周囲全天360度、死角はどこにも存在しない。 アムロは入力デバイスをトラックボールに持ち替えた。 例によって左側モニターの3D表示は中央下のゾックを示すアイコンに対して 迫り来る無数の魚雷が表示されている。 アムロは魚雷と自機の中間地点あたりに照準を次々にロックオンすると、 開いている片手で9分割された画面のいくつかに次々とダイレクトタッチして行く。 この画面はタッチパネル機能も付随しているのだ。 タッチされた画面は赤色に変化し、冷却が終了するまでは次撃発射が不可能な事を表している。 だがここは冷却水に事欠かない海底である。超強力なジェネレーターを持つゾックは、 よほどの事が無い限り、連続発射が不可能になる道理はなかった。 ゾックから放たれたメガ粒子砲は次々と水蒸気爆発を巻き起こし、 そこに突っ込んで来た魚雷群を誘爆で一掃してしまった。 撃ち漏らしは皆無でゾックまで届いた魚雷は一発も無い。ホルバインはアムロの腕前に思わず口笛を鳴らした。 ≪Mコマンド≫戦法 中世期の地球で開発された、このタイトルのコンピューターゲームにライブラリで 夢中になった経験のあるアムロは、この防御手段を頭の中でそう名付けていた。 『ゾックの恐ろしさは「強力な水中砲台」ってだけじゃねえぜ。そいつをこれから敵共に見せ付けてやる』 ホルバインもまた自らの出番に備え、静かに闘志を燃やしている。 しかし今はただ、操縦レバーを軽く握り締めるだけに止めておくのみであった。 824 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/06/04(木) 19 35 48.28 ID X7b6VMg0 二度、三度と長大な斬光が漆黒の海底を刹那照らし出すごとに、圧倒的であった筈の友軍部隊はその数を減じ、 気が付いた時には総勢が半分以下となっていた。 「ば・・・馬鹿な!何故だ!?いったい何が起こっている・・・!?」 ブーフハイムは顎関節が脱臼でもしたかの様に大口を開け、次には歯噛みしながら、 友軍の発するビーコンが次々と消滅してゆくレーダーモニターを眺めているしかなかった。 「て、敵MSは信じ難い事に、水中で強大な威力のメガ粒子砲を発射しているようです!」 「ふざけた事を抜かすな!ジオンのMSがメガ粒子砲だと!?水中で!?そんな事は絶対にありえん!」 「ご覧下さい!撃破されたフィッシュアイから最後に送られて来たデータです。 敵は、小型魚雷の気泡をトレースするようにビームを発射しています。 なるほど、確かに、この方法ならば不安定ですが水中でのビーム発射が可能だと思われます!」 思わず感心した様な声で報告する技術参謀に激昂したブーフハイムは被っていた帽子を床に叩き付けた。 彼の矜持にしてみればMSが運用し、敵に致命的なダメージの与えることが可能なビーム兵器は 連邦軍だけにしか存在してはならない筈だった。 空母フォート・ワースに搭載している我が軍の新型MSRGM-79ジムをして、 連邦軍でもようやく量産に成功した≪ビーム・スプレーガン≫が装備されたばかりだというのに、 ジオンのMSがそれに先んじている筈が無いではないか。 しかも水中でビームを発射するMSが存在するなど、彼にとっては到底認められる事態ではなかったのである。 しかし、現実問題として、このままでは敵のビーム攻撃によって部隊の被害が増すばかりだ。 指揮官として辛うじてだが、眼前で起きている事態に目を背けずにいる分別を持ち合わせていた彼は、 技術参謀に怒りの矛先を向ける事で、何とか精神の平衡を保つ事に勤めようとした。 「ええい!何か方法は無いのか!敵のビーム攻撃を封じる手段は!?」 「艦長。恐らく敵は、移動しながらビームを発射する事は不可能なのでは無いでしょうか?」 「何っ!?それは本当か!」 意外な技術参謀の言葉に一瞬、ブーフハイムの顔から怒気が消え失せた。 「気泡をトレースしてビームを発射している以上、 自身が高速で動けば動くほど気泡の射路が途切れてしまうはずです。 だから敵は海底に静止して砲台となっているのでしょう。つまりは、奴はそこから動けない筈。 危険な砲台にはこちらから近付いてやらなければ無力化できます」 彼にとっては正直、技術参謀の説明は今ひとつ良く判らなかったのだが、この状況を打開できるなら何でも良い。 ブーフハイムは辛うじて撃沈を免れている部下達に向けて作戦変更の檄を飛ばした。 「作戦行動中の全部隊に通達する!直ちに包囲中の敵MS攻撃を中止、散開し、 隊長機を中心に部隊を再編成した後、アデン基地方面に退却中の敵潜水艦を追撃せよ! もし敵MSが追い駆けて来たとしても、奴はビームを撃てない!魚雷で今度こそ仕留めてやれ!」 どうにかビーコンで確認できるのはジムダイバー2、フィッシュアイ9の機影のみ。 当初の大部隊から鑑みるに惨憺たるありさまである。MSが2機、 撃破されずに残っていたのは幸いと言うべきか。 戦果を何一つあげていないこの状態では、 空母に対潜攻撃機の出動を要請する事はできないとブーフハイムは考えた。 もしも彼の部隊を尻目に対潜攻撃機が潜水艦を撃沈でもしようものなら、 ブーフハイムの部隊は大打撃を受けただけで何一つ戦果をあげられなかった事になる。 指揮官として無能の烙印を押されるその事態だけは何としてでも避けねばならない。 敵の水中部隊を撃破すれば少なくとも最低限、ブーフハイムに課せられた役割は果たせた事になるのだ。 敵MSの意外な性能に予想外の損害を出す事になってしまったが・・・まだだ。まだ負けてはいない。 ブーフハイムはじっとりと汗の滲んだ両掌を、何度もスラックスに擦り付けた。 925 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/06/06(土) 19 44 52.00 ID AaX.MPQ0 操縦桿に手を掛けたままレーダーモニターを凝視していたホルバインは逸早く、敵の異変に気が付いた。 「見ろよアムロ!やっこさん達、蜘蛛の子散らす様に逃げ始めたぜ!」 ようやく敵部隊はこのゾックを撃破しようとする事が如何に困難な事か気が付いたという事なのだろう。 だが、その決断は遅きに失した。そして、この事態は既に2人によって予想されていたのである。 「さて。敵さんは尻尾を巻いて母艦に帰投するか、 それとも残存部隊を再編成してレッド・ドルフィン部隊を追撃するか・・・?」 半眼にしたホルバインが薄く呟く。 緒戦に躓いた敵艦隊が、このまま空母を引き連れてディエゴ・ガルシアあたりまで引き返してくれる と言うのなら見逃してやらない事も無い。 いくら水中では無敵のゾックとはいえ、1機だけで敵水上艦隊まで相手にするのは少々骨が折れる仕事だろう。 ハーネスには出撃を認めさせる為にああ言ったが、本来ゾックの性能は集団戦の中でこそ光るものなのだ。 一度仕切り直し、戦力を整える事さえできたなら、再度同じ規模の敵と交戦する時でも、 今回の様にハイリスクな戦法を避ける事で戦いの様相は全く違ったものになるだろう。 だが、モニターには表示されている光点が集まり出し、 見る間にアデン基地の方角に向けて移動を始めた様子がくっきりと映し出されている。 どうやら連邦軍は後者の作戦行動を選択した様だ。 おいおい、そいつは見逃せねえぜとホルバインは凄みの効いた笑みを浮かべた。 アムロの顔にも緊張が走る。だが、慌てはしない。 「敵にもう一撃、仕掛けます!」 それ程に改装されたエーギルの性能は高いのだ。 アムロは慎重に狙いを定めると、現在部隊再編の為に個別に逃走している敵をそのまま狙う事はせず、 速度と進行方向からベクトルを割り出し、未来予測される敵の集合地点に向けてパイロットブレットを射出した。 水中での高速射出と安定直進のみを追及し開発されたブレットは、 通常の魚雷を遥かに凌駕したスピードで敵を追い越し目標地点に到達、 間髪入れずに発射されて来たメガ粒子砲の巻き起こした大規模な水蒸気爆発が同時に2撃、 またもや集結中の連邦軍部隊を吹き飛ばす事になった。 ゾックに搭載されたエーギルシステム内臓のメガ粒子砲は有効射程2000M、 最大射程は理論値ながら2800Mにも達する。 アムロは逃走を図る敵の集団に再度、射程圏内ギリギリで痛烈な打撃を与える事に成功したのである。 連邦軍のパイロット達は皆、ソナーレーダーで迫り来る超高速超小型魚雷を把握してはいたのだが、 何しろ対象が他に類を見ない程の高速であり、誘導式魚雷の類では無い為に 妨害兵器で進路を捻じ曲げる事も叶わず、自機の進行方向に向け連射されて来ているターゲットに対して 迎撃魚雷も役には立たず、水中を全速力で航行している機体をすぐに静止させる事も不可能であり・・・ 結果、直撃を免れた機体もバブルパルスによって次々と戦闘不能の状態に陥っていった。 「そんじゃあ、行くぜアムロ!アゴ引いとけ!」 今ここに、砲台としてのゾックの役割は終わったのである。 ようやく回って来た出番に、嬉しそうに笑ったホルバインの瞳が、まるで人懐こい子供のように揺れている。 この男、こんな表情もするのかと意外に思いながらも、 アムロは頷くと同時に身体を固め、そのままの姿勢を取った。 満足そうに頷いたホルバインがフットペダルを踏み込み一気にレバーを引くと、 海底に陣取っていたMSM-10【ゾック】は、まるで地上でロケットが発射する時の噴煙の如く、 大量の海底の泥砂を濛々と巻き上げるや、その巨体からは想像も出来ないような急加速で飛び出し、 水中巡航形態に移行した瞬間、最大加速で敵残存部隊への追撃に入った。 956 :1 ◆FjeYwjbNh6 [saga]:2009/06/08(月) 01 43 32.42 ID 1wln5ac0 「う・・・ああ・・・!」 「どうしたんだい!また頭痛かい?」 船倉の片隅で両腕で頭を抱え込み、またもや蹲ってしまった少女に、 お下げに結わえた赤毛を揺らしながらミハル・ラトキエは急いで駆け寄った。 ミハルの前で頭を抱え震えているこの褐色の肌の少女は、これまでも頻繁に酷い頭痛を訴え、 その度に怖い怖いと、うわ言を口にしていたのである。 港を出航してからもう何日が過ぎたのだろう。こんな環境ではそれも無理は無いとミハルは思う。 見渡せば、だだっ広いだけの薄汚い船倉には二十数人の子供達が肩を寄せ合うように腰を降ろしている。 部屋の隅には幾つかの簡易便器が備え付けられ、唯一外界と通じるハッチは外から施錠され硬く閉ざされており、 食事の定時配膳時以外は開かれる事は無い。 船の最下層にあるこの部屋は、喫水線より低い位置にあるため窓は無く、 頼りなく薄ぼんやりと灯る常夜灯がオレンジ色の光を投げかけ、今現在が昼なのか夜なのかすら判らない。 その光がそこに押し込められた子供達の頬を絶望の色に染めているのだ。 マドラス基地がまだジオンの支配下にあった頃、 ジオン占領地で複数の収容施設に分かれて暮らしていた戦争孤児達は、 連邦軍がマドラス基地を攻撃した直後、とあるジオンの部隊によって港があるムンバイに集められ、 有無を言わさず偽装貨物船の船倉に押し込められたのである。 なんでも、なんとか島にあるというもっと立派な施設に移されるのだそうだ。 何かがある・・・と、ミハルはいぶかしんでいた。 自分を含めここにいる子供たちは皆、無力であり、 ジオンにとっては(連邦でも同じだろう)ごく潰しの存在の筈だ。 自分達が生み出した哀れな孤児に懺悔して、今さら慈善事業を開始した訳でもあるまい。 そんな殊勝な奴等はそもそも初めから戦争を始めないだろう。 足手まといにしかならない存在をわざわざ危険を犯してまで連れ出すのにはそれ相応の理由、 メリットが無ければならない。 そしてどうやらそれは、自分達にとっては歓迎すべからざる理由であろうという事も、 ミハルには薄々察しがついていた。 「ああ・・・また・・・人の命が消える・・・ああ・・・また・・・!」 きっと酷い頭痛のせいで意識が混濁しているのだろう。 ぶるぶると震えながら恐れおののく少女の細い肩を、ミハルはしっかりと抱き締めた。 一人一枚割り当てられた毛布しかない船倉では、柔らかいベッドに彼女を横たえてやる事も叶わず、 今の自分にできる事と言えば、きつく抱き締めて震えを止めてやる事ぐらいだった。 「ジル、ミリー、あんた達も来な」 ミハルは優しい声で彼女の幼い弟妹を呼び寄せると震える彼女の脇に座らせ、 三人をまとめて抱え込むように腕を回すと目を閉じた。 「どうだい?こうしていると、少しは怖くないだろ、ララァ?」 ミハルはララァの耳元で、この船のこの船倉で初めて出会った時に彼女の口から聞いた名前を呟いた。 その声音にようやく目を上げたララァ・スンは、 汗ばんだ褐色の顔に張り付いた自らの髪の毛をどうにか拭う事ができた。 だがその瞳からはまだ怯えは消えていない。 常人には聞こえぬ死に逝く者の断末魔に苛まれているのだ、と、ミハルは唐突に思い当たった。 「近くの海で、また・・・戦争が・・・たくさんの人が・・・ああ・・・!」 ミハルはララァの気がふれているとは思わなかった。 もちろん詳細など判るはずも無いが今この場所にいるという事は、 彼女もこれまでに何かしら不幸な人生を送って来た事に間違いは無いだろう。 彼女の持つこの不可思議な感性が、その辛酸を舐めた日々の中で、 もしかしたら彼女に芽生えた『救い』なのかも知れない。 上手く言葉にはできないが、そう感じるのだ。 それにしても船が揺れる。食器を下げに先程この部屋に入って来た男によると、外は嵐になっているらしい。 彼女達の運命を象徴する様に、逆巻く大波は、 彼女達の乗船する偽装貨物船【フォルケッシャー号】を散々に翻弄した。
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851 :アムロがデート!? 1/7:2015/10/19(月) 23 12 38.87 ID H5++AasG0 メモ帳整理を兼ねて(ry 過去ネタです。気に入らない設定があったらパラレルでお願いします。 これは十一年くらい前のお話… キョウジ「アムロさんがデート?」 セレーネ「そうなのよ。カイ先輩とハヤト先輩に聞いたんだけどさ」 キョウジ「…別に、アムロさんくらいの年齢なら普通のことじゃないのか?」 セレーネ「そのお相手がさ、なんと! あのマリア先輩なのよ」 キョウジ「マリア…マリア・ピァ・アーモニア生徒会長か?」 マリアはその徳の高さと年齢からは想像もつかない母性のおかげで、一部生徒の間でマリア様などと呼ばれ慕われている。 どんな頼まれごとでも真摯に対応し、人当りが良く何をされてもポジティブにとらえる彼女の性格は生徒会長に適していたと言える。 セレーネ「そうそう。あのマリア様が、うちの兄さんみたいなロクデナシと」 キョウジ「身内とはいえ自分の兄をロクデナシ呼ばわりはどうかと思うが」 セレーネ「ちょっと前まで元カノが亡くなってへタレてたのに。いくらなんでも切り替え早すぎると思わない?」 キョウジ「いつまでも昔の女にすがってるよりはよほど良いと思うけどな」 セレーネ「まーね」 某所 ???「ぶぇっくしょい!赤い彗星」 ????「変なクシャミですな」 セレーネ「というわけで、アムロ兄さんを監視しようと思うの」 キョウジ「俺と君の二人でか?」 セレーネ「当たり前でしょ」 キョウジ「監視というのは、具体的にどうやって…」 セレーネ「尾行に決まってるじゃない。何よその顔。嫌なの?」 キョウジ「そういうわけじゃないが…せめて変装してほしいな」 セレーネ「なんで?」 キョウジ「君と俺が二人で出かけるとなると、必ず勘違いする連中が出てくるから」 セレーネ「大丈夫でしょ」 キョウジ「大丈夫じゃないから言っているんだ…」 852 :アムロがデート!? 2/7:2015/10/19(月) 23 15 05.73 ID H5++AasG0 ・ ・ ちょっと前のこと。 モンシア『キョウジィ! お前またセレーネさんと話してやがったな!?』 ムウ『抜け駆けはよくないよなあ、キョウちゃん』 キョウジ『待て落ち着け。俺と彼女はそういう関係じゃ』 グレコ『問答など不要。お前は俺の女神と話をしていた。それだけで十分だ』 キョウジ「グレコまで…! アデル、助けてくれ!」 アデル「こうなったら無理です。諦めてください」 キョウジ『く、こうなったら逃げるしか――』 ナイジェル『残念だが先輩、あんたに逃げ場はないよ』 キョウジ『ナイジェル、君もか!?』 ナイジェル『俺はあんまり興味ないんだが――物騒な女の子たちが騒ぎ出してるものでね』 『あいつ、私のお姉さまと話を…』 『許せない…』 『あいつさえいなくなれば…』 『あいつの耳と舌をちぎりとって…』 キョウジ『』 ナイジェル『頑張って逃げてくれよ、先輩』 キョウジ『ぬわああああああ!』 ・ ・ キョウジ「…頼むよ。俺の命が危うい」 セレーネ「それじゃ、あんたが変装すればいいんじゃないの?」 キョウジ「だめだ。休みの日にお前が男と一緒にいるだけでも余計な噂が立つ」 セレーネ「しょうがないわね…わかったわよ。変装すりゃいいんでしょ」 キョウジ「こちらから頼んでおいてなんだが…あてはあるのか?」 セレーネ「近所のおばさんのところに行って、色々借りてくるわよ。ちょっと行ってくるわ」 853 :アムロがデート!? 3/7:2015/10/19(月) 23 19 43.13 ID H5++AasG0 セレーネ「ごめんくださーい」 ベルを鳴らすと、一人娘のクリスが出迎えた。 クリス「はーい。あ、セレーネお姉ちゃん。どうしたの?」 セレーネ「んー、ちょっとおばさんに用事があるんだけど…いる?」 クリス「いるよ。ママ、セレーネお姉ちゃんが用があるんだって!」 クリス母「こんにちは、セレーネちゃん。私に用事なんですって?」 セレーネ「おばさん、お古の服とか持ってない?」 クリス母「え?」 セレーネ「男の人と出かけるのに、ちょっと必要なんだけど…」 クリス母「まあ、まあ、まあ、まあ! そう、そういうこと! わかったわ、おばさん張り切っちゃうからね!」 セレーネ「そ、そう?」 クリス母「セレーネちゃんが男の人とねえ! あの人に伝えたらなんて言うかしら!」 セレーネ「あ、あの、話がちょっとおかしな方向に向かっt」 クリス母「いいのいいの! さ、二階に上がってちょうだい。彼氏をメロメロにするような素敵な美人にしてあげるわ!」 セレーネ「ちょま、そういうことじゃなくてアッー!」 思い込みにより強化されたオバチャンパワーに抗うことも許されず。 セレーネは一時間近く、マッケンジー邸で着せ替え人形となることを余儀なくされた。 それからしばらくして、カッシュ家にやってきたセレーネの姿を見て仰天した。 キョウジ「セレーネ…その名状しがたい恰好はなんだ?」 セレーネ「兄さんの仮装衣装を組み合わせて完成した、名付けてタキシード鎧道着軍人スタイル そして昭和的太眉に野球帽。これならバレないわ」 キョウジ「…そのファッション、おばさんが選んでくれたのか?」 セレーネ「おばさんの話はやめて。考えてみりゃ、バレなきゃいいんだもの。服借りる必要もなかったわ」 キョウジ「別の意味で目立つだろ」 セレーネ「じゃあどうすりゃいいのよ! おばさんったら勘違いしてやたらと着飾らせようとしてくるしさ! あれじゃあ余計に目立っちゃうじゃないの!」 キョウジ「もう無難にカツラとサングラスと化粧でどうにかしよう…」 結局、こういう無難な結果に落ち着くこととなった。 854 :アムロがデート!? 4/7:2015/10/19(月) 23 21 44.81 ID H5++AasG0 「づらじゃない、ざらだ!」 「急にどうしたんだ、この子は」 「意味の解らないことを叫びたくなる年頃なんですよ」 「レノアは賢いな」 「賢い女は嫌いですか?」 「私はどんなレノアでも愛せる自信があるよ」 「パトリックゥゥゥゥゥ!」 「レノアァァァァァァ!」 偶然そこを通りかかった親子が何やら騒いでいたが、セレーネ達にはどうでもよかった。 ジャマイカン「当日!」 キョウジ「なんだ、ドモンとキラくんも連れてきたのか」 ドモン「こんにちは、キョウジ兄さん!」 キラ「こんにちは…」 セレーネ「シローに、せめて二人は連れて行ってくれって頼まれたのよ」 キョウジ「…君が弟の頼みを聞くとは珍しい」 セレーネ「私をなんだと思ってんのよ、あんたは」 キョウジ「ストレス発散を兼ねて弟や近所のいじめっ子を虐げる光景を飽きるほど見てきているからな」 セレーネ「あのシローに泣いて頼まれりゃ受けるしかないでしょ」 キョウジ「その優しさをなぜ普段も発揮できないのか…」 セレーネ「学校じゃ良い子やってなきゃいけないからストレスたまるのよ」 キョウジ「夢のためか?」 セレーネ「当然よ。コネだって大事な狭き門、ちょっとでも点数稼ぎしないといけないもの」 キョウジ「あまり根を詰め過ぎるなよ」 セレーネ「お互い様でしょ。あんただって似たようなことしてるの知ってるんだからね」 キョウジ「俺は自分のことに集中しているだけだ」 キョウジ「それにしても、キラは静かだな」 セレーネ「元々大人しい子だもの。玩具も与えてるし」 キラ「………」カタカタ キョウジ「何をいじってるんだ?」 セレーネ「キラ用に作った、プログラミングとシミュレートに特化した小型端末よ プログラムの作成、確認、実行、保存に必要な最低限のデータだけ入れてあるわ」 855 :アムロがデート!? 5/7:2015/10/19(月) 23 24 23.46 ID H5++AasG0 キョウジ「この年でプログラミングか」 セレーネ「この子、呑み込みが早いのよね。遊びの代わりに教えたんだけど、すぐにマスターしちゃって」 キョウジ(性格までセレーネに似てくれるなよ、キラ…) セレーネ「…あんた、なんか今物凄く失礼なこと考えなかった?」 キョウジ「そんなことはないぞ、うん」 セレーネ「ドモン、キラのこと頼んだわよ。姉さんたちは大事なことをしなくちゃいけないから」 ドモン「え?」 セレーネ「いいわね」 ドモン「は、はい…」 ドモンとキラを連れて、キョウジとセレーネは行動を開始した。 セレーネ「いたわ。あそこよ…」 やってきたのは、最近できた大型ショッピングモール「ア・バオア・クー」だった。 キョウジ「いつも通りの格好だな、アムロさん」 セレーネ「デートならもっと洒落た格好すりゃいいのに。そんなんだからマ(るで)ダ(めな)オ(にいさん)なのよ」 キョウジ「さっきから、アムロさんに対して辛辣すぎやしないか…」 アムロ「――。―――」 マリア「――! ―――、―――」 セレーネ「…こっからじゃ、何言ってるかわかんないわね」 キョウジ「あの二人は勘が鋭い。これ以上近づいたら見つかる可能性があるぞ」 セレーネ「兄さんの勘が鋭いのは知ってるけど、先輩も鋭いわけ?」 キョウジ「ああ。ムウが後ろから抱きつこうとして近づいたら、前を向いたままいきなり話しかけられたって話だ」 セレーネ「マリア先輩も凄いけど、ムウもムウよね…マリューも苦労するわ」 ドモン「ねえ…」 セレーネ「なによ、ドモン」 ドモン「…なんでこんなことしてるの?」 セレーネ「知的好奇心からよ。ついてきたいって言ったのあんたでしょ?」 ドモン「そうだけど…悪いことなんじゃないかな、これ」 キョウジ「たぶん、悪いことではないさ。…良いことでもないけどな」 ドモン「うーん…」 858 :アムロがデート!? 6/7:2015/10/20(火) 05 45 23.62 ID u5eQSmho0 それでは投下再開。なんだか予定よりコマ数が増えそうです セレーネ「あ、動くみたいよ」 キョウジ「よし」 二人に見つからないように距離を取りながら移動すると、二人はある店の前で足を止めた。 キョウジ「ここは…宝石店か?」 セレーネ「兄さんてば、いきなり指輪でも贈るつもりかしら。 でも兄さんあんまりお金ないわよね…ひょっとして宝石強盗?」 キョウジ「君は自分の兄をなんだと思ってるんだ」 セレーネ「出来の悪い不良」 キョウジ「不良の範疇を超えているぞ、それは…」 マリア「――。――、――」 アムロ「――…――。――、――」 セレーネ「なんか難しい顔してるわね、兄さん」 キョウジ「そうだな…」 セレーネ「警備が予想より厳重だったのかしら」 キョウジ「宝石強盗から離れろ」 マリア「――」 アムロ「――」 マリア「――、――」 セレーネ「あ、移動するみたい」 キョウジ「行こう」 次にやってきたのは小物店だった。なかなか洒落た品が置いてあると校内でも評判の店だ。 キョウジ「それにしても…アムロさんはあまり楽しんでいる感じではないな」 マリアが取った品を見ては眉間にしわを寄せて何やら考え込んだ素振りなど見せている。 正直、デートを満喫しているような雰囲気ではなかった。 セレーネ「そうね…デート初日から破局かしら。兄さんのダメ伝説がまた一つ増えるわね」 キョウジ「だからどうしてそういう発想ばかりするのか…」 しかし、キョウジも疑問に感じてはいた。デートにしてはなんというか、雰囲気がおかしい。 何か別の目的で来ているような――そこまで考え、あることを思い出した。 859 :アムロがデート!? 7/7:2015/10/20(火) 05 54 40.15 ID u5eQSmho0 キョウジ「あ――」 セレーネ「どうしたの、キョウジ」 ドモン「ねえ、セレーネ姉さん」 セレーネ「今ちょっと手が離せないから後にして」 ドモン「で、でも…」 セレーネ「あーもううるさいわね! 後にしてって言ってるでしょ!」 あくまで食い下がるドモンに、セレーネがつい声を荒げてしまった。 弱気なドモンが泣かなかったのは奇跡と言っていいかもしれない。 キョウジ「…おい、気付かれたぞ」 セレーネ「げっ!? て、撤退するわよ!」 キョウジの言葉に、ドモンの手を引いて慌ててその場を離れるセレーネ。 本当は気付かれてなどいなかったのだが、それを知るのはキョウジ一人であった。 ドモン「あの、キョウジ兄ちゃ」 キョウジ「悪いがドモン、今はこの場を離れるのが先だ」 ドモン「うー…」 ・ ・ キョウジ「…それで、何か言いたそうだったが。どうしたんだ、ドモン」 ドモン「あの…さっきから、キラがいないんだ」 セレーネ、キョウジ「「え?」」 キョウジ「本当だ、いないぞ!」 セレーネ「ドモン! なんで早く言わないのよ!」 ドモン「言おうとしたけど黙ってろって言ったのは姉さんじゃないかー!」 セレーネ「急いで探さなきゃ…! キョウジ、そっちお願い!」 キョウジ「わかった!」 その後キラは同級生のフレイに追い回されて泣いているところを発見、保護された。 しかしアムロとマリアの姿は完全に見失ってしまったため、四人はそのまま帰途につくことになった。 860 :アムロがデート!? 8/7:2015/10/20(火) 05 56 40.31 ID u5eQSmho0 アムロ「ほら」 数日後。アムロから手渡されたのは、一冊の学術書だった。セレーネがかねてより欲しいと思っていたものだ。 だが値段は相当なもので、アルバイトを掛け持ちする余裕などないセレーネではどうしても手が出なかった。 セレーネ「え。どうしたの、これ?」 アムロ「どうしたのって、誕生日プレゼントだよ。前から欲しいって言ってたろ」 セレーネ「誕生日って…」 言われて、セレーネは今日が自分の誕生日だったことを思い出した。 いつも家を出て宇宙のあちこちを飛び回っている両親だが、家には最低限の生活費しか入れない。ゆえにガンダム家は貧乏だ。 どうにかやりくりしたお金で誕生日パーティくらいは開くものの、誕生日プレゼントが贈られることはまれだ。 それだって幼い弟たちが優先され、アムロに次ぐ年長者であるセレーネがもらえたことはほとんどなかった。 セレーネ「な、なんでいきなり?」 アムロ「小さい弟たちにかまけて、お前には昔から全然かまってやれてなかったからな。 今更かもしれないが、誕生日プレゼントの一つくらい贈らせてくれ」 セレーネ「………」 アムロ「フラウやマリアにも意見を聞いたんだが…やっぱりお前はアクセサリーみたいな洒落たものより こういう学術書のほうが好みだろ」 セレーネ「は、ははは…」 そういうことか。あんなきれいな人と、妹の誕生日プレゼントを買いに行ったわけだ。 ――こんなんで結婚できるのかしら、兄さんは。 アムロ「おい、何笑ってるんだよ」 セレーネ「何でもないわ。あ、いいこと考えた」 こんなへタレ兄さんより先に結婚するのもなんだか悪い。兄さんが結婚してから自分の相手を探すことにしよう。 アムロ「なんだよ」 セレーネ「何でもないってば。決めちゃったからね」 アムロ「おい、だからなんだって…」 セレーネ「いいんだってば! さっそく読んでくる!」 アムロ「…まったく」 苦笑しながら、ぽりぽりと頬をかく。喜んでくれたのなら、まあいいか。 バナージ「お兄ちゃん、ジュドーとフリットがまたケンカしてる!」 アムロ「またか。仕方ないな、今行くよ」 今はみんなに毎年あげるというわけにはいかないが、こいつらも立派になったら誕生日プレゼントを買ってやろうか。 そう思いながら、アムロは弟の喧嘩の仲裁に向かった。 861 :アムロがデート!? おまけ:2015/10/20(火) 06 04 25.51 ID u5eQSmho0 後日。 アムロ「キョウジくん、ちょっといいかな」 キョウジ「なんでしょうか、アムロさん」 アムロ「先日、君とセレーネが出かけたという話を聞いたんだが…本当かい?」 キョウジ「(バレた!?)…そ、そんな話、誰から聞いたんですか」 アムロ「ソランだ」 キョウジ「あの子か…」 アムロ「あいつが俺に対して嘘をつくことはありえないが、勘違いということもある。で、どうなんだ?」 キョウジ「出かけましたよ。ドモンとキラを連れて」 アムロ「そうか、そうか。…キョウジくん」 キョウジ「な、何か?」 アムロ「仮に、仮にだ。君が妹と交際しているとしよう。まあ、それくらいは許す。僕も経験したことだ。ただし」 キョウジ「ただし?」 アムロ「君が妹に対し、何らかの破廉恥な行為に及んだとしたら…わかってるね?」 キョウジ「は、はい…」 アムロ「理解が早い友人を持ててうれしいよ。じゃあ、僕はこれで」 キョウジ(背後に白い悪魔が見えた…アムロさん恐るべし、だな) ・ ・ アムロ「あの時あんなこと言わなければちょっとは違った展開になったんだろうか…」 ロラン「何考えてるか知りませんけど、セレーネ姉さん絡みのことだったら変化はないと思いますよ」 アムロ「………orz」
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コメント欄が長くなってきたのでリセットしました -- 名無しさん (2015-02-15 20 50 13) テニミュの空耳「マリモ・Z9ですか!?」がアムロっぽく聞こえて困る -- 名無しさん (2015-02-15 22 20 41) 色々表現しにくいが、ランバ・ラル流の戦い方だなと思う -- 名無しさん (2015-02-16 19 04 02) 童貞に見えて実は童貞じゃないのが面白い。 -- 名無しさん (2015-04-15 21 11 53) ↑×2ラルはアムロに「ライバル意識」を最初に植え付けた人物だ。アムロの戦闘スタイルがラルの影響下にあっても不思議ではない。 -- 名無しさん (2015-04-15 21 43 13) ↑アムロ「僕は、あの人(ラル)に勝ちたい!」シャア「……」 -- 名無しさん (2015-04-15 21 57 29) 正直アムロって戦い以外の選択肢は選ばないし選べないってタイプだったから。本質的には武人系の奴に似てるのかもしれない -- 名無しさん (2015-06-12 11 34 05) 自分自身は戦い以外の道を行きたくても周りが許してくれなさそう・・・連邦・ジオン双方から恐れられているし -- 名無しさん (2015-07-27 20 24 44) ユニコーンがアムロのシンボルって知らなかったってのはひでえな、マジでUCの略称を乗っ取りたかっただけか -- 名無しさん (2015-07-27 21 10 41) EXAVSでは殺されたために機動戦士ガンダム第一話「ガンダム大地に立つ」が機動戦死ガンダム第一話「ガンダム大地に散る」に・・・ -- 名無しさん (2015-08-19 09 18 28) 恋人の中だとなんだかんだでチェーンが一番アムロに合ってそうな気がしたんだがどうなんだろうか?シャアはなんか女性へのこだわりが強すぎるように見えるが -- 名無しさん (2015-10-25 20 42 07) アムロはアムロで淡白な気がするから微妙じゃね?チェーンが死んでも気にしてなかったし。 -- 名無しさん (2015-10-25 20 54 39) ↑状況が状況だったからな。まあ良くも悪くも大人になったんだと思う -- 名無しさん (2015-11-22 21 53 59) 騎士アムロは聖機兵物語編ではちょっとおかしい強さになってた記憶がある -- 名無しさん (2015-11-22 22 32 18) カラバ時代のアムロの外伝が見たい…プラモも出たしディジェの活躍を今こそ! -- 名無しさん (2015-11-25 21 18 30) そんな英雄の最期の言葉は「お母さん!?うわっ・・・」でした -- 名無しさん (2016-01-22 21 44 18) メカの知識も技量に貢献していることは想像に難くない。爆弾処理までこなしてしまうのだから… -- 名無しさん (2016-01-22 22 02 26) ↑2 シャアがあんな土壇場で性癖をカミングアウトしたてきたら、無理もねぇよ・・・!(違 -- 名無しさん (2016-01-22 22 16 13) ↑少なくとも土壇場でシャアに「アムロお前のことが好きだったんだよ!!!!!!」とか言われるよりはマシマシ -- 名無しさん (2016-02-02 21 56 59) ↑7,8 イデオンでも、メインキャラの一人が、「俺はまだ何もやっちゃいないんだぞ」って死ぬシーンで、コンテか何かに、「今はそんな小さなことにかまってる状況ではないのです!」みたいなことを書いてた御仁だしなw -- 名無しさん (2016-02-19 14 46 18) ↑12 まぁまぁ。逆シャアは見逃していたんだろうw -- 名無しさん (2016-02-19 14 47 42) νのプラモの説明書では「地球に降下したがコクピットハッチは開いておりアムロの姿は無かった」みたいに書いてある。大気圏突入装備は無いはずだが… -- 名無しさん (2016-03-16 11 41 52) 「3分でMS12機と戦艦数隻を撃墜する等の戦果を上げていた」ってあるけどアムロは9機だよ。セイラ、ハヤト、カイが各1機。 -- 名無しさん (2016-03-16 11 46 01) ↑×12 戦場での出来事である以上、チェーンの死は自己責任(半壊のMSで無断出撃)だし、シャアみたいに逆恨み拗らせるよりよっぽどマシだよ。 -- 名無しさん (2016-03-28 13 03 38) ※↑3 -- 名無しさん (2016-04-17 13 53 03) ↑4サイコフレームの力が守ってくれたんだよきっと -- 名無しさん (2016-04-17 13 53 47) 小説版アムロは死んだのに小説版ZZには出てたよな -- 名無しさん (2016-05-01 09 17 23) ↑小説版ファーストはその後の続編を否定するわけじゃないってお禿様も言ってたから… -- 名無しさん (2016-05-21 15 05 19) ガンダム世界にも幾つかの並行世界があるってことでなんとか・・・ -- 名無しさん (2016-07-30 16 00 59) まあガンダムシリーズも色々パラレル化してるからね・・・・∀に至る歴史もあれば繋がらない未来もありそうだし(Gレコとか) -- 名無しさん (2016-08-27 00 46 43) ゲームとかでアムロのニューガンダムがフィンファンネル使うからNT能力も高いと勘違いされがちな気がする -- 名無しさん (2016-10-08 10 11 10) 戦記アバンタイトルのアムロはマジでヤバかったと思う。あんなのを相手しなきゃいけないジオン兵は大変だな… -- 名無しさん (2016-11-08 19 23 26) 正直アムロがガンダムに乗って無双するシーンよりガンダム以外の機体で戦うのが好きだったりする。ガンキャノンやリックディアス(オリジンではジムも)とか。 -- 名無しさん (2016-12-03 19 42 30) 何故かバズーカ好きが浸透してるのが疑問。ファンネルバリアに代表されるようにバズーカだけじゃなくてなんでも上手に使いこなせるって印象。 -- 名無しさん (2017-01-02 20 29 33) ↑ファーストとνでのバズーカの使い方が印象的だったりしたからかね?なんだかんだアムロは使える信頼性のある武器ならなんでも使うと思う。でなきゃランバラルとの戦闘の時にあえてタンクに乗ったり、zの時にリックディアスを所望したりはしないと思う -- 名無しさん (2017-01-02 20 41 16) ↑アムロ自身の評価がビーム<バズーカみたいのが納得いかないんだよね、 -- 名無しさん (2017-01-10 20 59 35) (続き)ビームライフルだけでもジャブローでシャアズゴ追いかける時に片手間の様にザク撃破したり、背面撃ちやラストシューティングみたいな特殊なアクションも有名だから引っかかるんだよな。あくまで一説だけどνガンダムの長距離射撃もアムロの技量らしいし -- 名無しさん (2017-01-10 21 03 50) サイド7遭遇戦さえなければ、アムロはただのヒキニートで終わっていたし、ジムはもっと弱かった。「シャア少佐だって戦場で戦って出世したんだ!」などと言いだして暴走したジーンの罪は果てしなく重い。 -- 名無しさん (2017-01-13 22 46 14) しかしよくまあこんな化け物と -- 名無しさん (2017-01-28 11 10 05) ↑ミス。よくこんな化け物と戦えたもんだなシャアは -- 名無しさん (2017-01-28 11 11 12) サザビーがパワーダウンしなかったらアムロでもやばかったかも。 -- 名無しさん (2017-04-11 23 11 22) 宇宙世紀にも鳥取県はあったのか -- 名無しさん (2017-04-14 05 26 26) ↑日本海側のため、コロニー落としで生じた津波の被害を回避できたものと思われる。 -- 名無しさん (2017-04-15 22 37 57) 無双は無双でも、後発ガンダムのようにトンデモ機体で超拡散ビームやら極太ビームやらで敵を薙ぎ払うんじゃなくて、1機1機丁寧に撃墜していくのがたまらん -- 名無しさん (2017-04-19 11 03 43) ↑敵パイロットからしたら恐怖だろうな、多対一で囲んでいい気になってたらいつの間にか自分一人だけとか...アムロが「白い悪魔」と呼ばれるのも納得 -- 名無しさん (2017-04-20 09 09 48) まぁ、小説版1stは、ザビ家全滅&連邦はジオンに吸収されるEND(だったような)だったから、多分あのまま大団円だろうな。 -- 名無しさん (2017-04-20 09 18 20) ↑2 PS3版ガンダム戦記のアバンがまさにそんな感じだったな。アムロのガンダムに初めて恐怖を覚えた。 -- 名無しさん (2017-04-20 09 43 30) ↑ 宇宙で暗い&遠いのに狙いをつけたら撃つ前に避けてるんだもんな、恐ろしすぎる -- 名無しさん (2017-04-20 10 10 08) ジオングにはガンダム大破させられたけど、サザビーには武装全部破壊されたもののほぼ被弾なかったと考えると、更にシャアと実力差ついてたのかな -- 名無しさん (2017-04-20 10 25 43) ↑最後はコアファイターのみにする予定のファーストとアクシズ押し返せさにゃならん逆シャアという作品上の都合、つーか鬼神状態のアムロを丸腰になるまで追い詰めたのになんかシャアはやけに低く見られてるな -- 名無しさん (2017-04-20 21 02 30) ↑低くは見てないと思うぞアムロが強すぎるだけで…。ただ実際のところジオング戦は初乗りとは言えスペック差と初見殺し(胴体乗ってたら一方的にシャアがやられてた)上に最後は完全に先読みした自動パイロット(ラスシュー)だから…両者共に技量が向上して広がっては無い気がする -- 名無しさん (2017-04-20 21 09 28) ↑シャアは強い、強いんだが…なんせリ・ガズィでサザビーとヤクト相手にしながらほぼ無傷でサザビーのライフル破壊してヤクト撃墜したからなぁ。ナメプだったとか言われてるけど1発とはいえファンネルまで出してるし。 -- 名無しさん (2017-04-21 09 26 21) ↑2 1stのラストバトルではシャアが「ジオングには胴体にもメガ粒子砲があること」を忘れなければたぶん勝ってた -- 名無しさん (2017-04-21 09 48 55) ↑使おうと思ったら察知されてどうにかされる気がする… -- 名無しさん (2017-04-21 10 01 44) ジオングのビームを避けるついでにザクをシールドで押してそのビームを命中させる鬼畜 -- 名無しさん (2017-04-21 21 58 54) ↑なぜか出てきたザクパイロットが悪い。 -- 名無しさん (2017-04-21 22 09 21) ↑功名心あふるる学徒兵だったよな。しかし主役でもライバルでもなく、シチュエーションは第一話ではなく最終決戦。割って入ったタイミングが無理ゲーだった。 -- 名無しさん (2017-07-15 18 27 37) ついにそっくりさんネタを公式がやりやがったw -- 名無しさん (2017-08-04 23 37 15) ↑10 νとサザビーの期待特性の差を別としてシャアが劇中で言っていたようにパイロットをずっと続ける事が出来たアムロと出来なかったシャアとの違いもあるんだろうな。 -- 名無しさん (2017-08-05 00 13 51) 誤字った。機体特性の差だ -- 名無しさん (2017-08-05 00 14 40) 自分以外にアクシズに取り付いた機体に「自爆するだけ」「こんなことに付き合う必要は無い」「もうやめてくれ! -- 名無しさん (2017-09-07 22 33 14) 機械いじりの好きなニート気質の少年がこの数年間でナイスガイに成長するとはなぁ。 -- 名無しさん (2017-09-30 14 34 50) もしファーストが1クール短縮されなかったらその後も変わってたのかな? -- 名無しさん (2017-09-30 15 27 51) ↑ 初期案見るといい、と言っておく。ぐぐれば出る -- 名無しさん (2017-10-10 11 58 47) サイドストーリーズジオン編でジャブローでめっちゃ飛び跳ねるガンダムを見ればヤバイと思うはず -- 名無しさん (2017-10-10 13 06 36) UCラストのアレがもし生霊だとするならどうやって思念飛ばしたのかな? -- 名無しさん (2017-10-16 19 47 51) バズーカ好きと言われるけど、本編と押してあんまり使ってなかったりする。単に最終決戦のダブルバズーカやνガンダムのバズーカ使い方の印象が強すぎるだけな話 -- 名無しさん (2017-10-22 10 09 45) 逆シャアの後でもし離脱して生き延びてたとしてもそれ以降は自分を知る人間の誰も居ない所で争い事から離れてひっそりと農業でもしながら余生を過ごしてそうな気がする… -- 名無しさん (2017-11-02 23 42 37) 「3分でMS12機と戦艦数隻を撃墜」 アムロが落としたのは9機では…(3機はWB隊の面々) ゲーム作品やパチンコの演出だとアムロ単体で12機撃墜に改変されてるのもあるけど -- 名無しさん (2017-12-17 15 12 33) アムロがCCA劇中で単独行動なのって他についていける奴がいないからなんだろうな。シャアは敵でカミーユはパイロット引退、ジュドーは木星船団だし -- 名無しさん (2018-04-04 19 26 28) ガンダムやνに乗ってない時も強いのが好き。 -- 名無しさん (2018-04-08 21 05 11) 牽制用のバルカンで敵を無力化してくのやめてください…… -- 名無しさん (2018-07-19 13 31 50) ↑2 シャアにくっついてオラついてたギュネイをリ・ガズィで軽く返り討ちにするとこほんとすき -- 名無しさん (2018-07-19 14 16 57) 7年ブランクのあったアムロ MKⅡ搭乗時のカミーユ、どういうことなの… -- 名無しさん (2018-08-15 23 34 14) 1st最終決戦で「この戦いに勝てる」と予知した“ふり”をするの最高に好き。 -- 名無しさん (2018-09-24 01 34 25) ↑2 一応、アグレッサー役としてMSにも搭乗はしていたみたいなので初めて軍用機にのったカミーユよりは経験値が違う。 -- 名無しさん (2018-09-24 01 45 15) ↑ 少なくともガンダムエースで連載中のDefineではそう。原作ではわからんが -- 名無しさん (2018-09-24 19 27 17) 12機のドムを撃墜した時の実際の戦果は9機だが、残り3機を屠るのに1分以上かかるかと言えば…… -- 名無しさん (2018-10-01 13 33 15) メガゼータの出展が逆襲のギガンティックになってますがギガンティスが正解です -- 名無しさん (2018-11-01 09 46 24) ギガンティック→ギガンティスに直しておきました -- 名無しさん (2018-12-27 13 34 58) 指摘した者ですお疲れ様ですありがとうございました! -- 名無しさん (2018-12-27 13 44 47) 普通に考えればラスボスレベルのG-ドアーズを初見で倒しちゃったの好き -- 名無しさん (2019-02-06 11 28 02) ↑6 原作だと軟禁状態だし主な仕事は講演だと思う。 反乱起こされたらヤバいし。 -- 名無しさん (2019-02-06 12 57 55) 整備性がよく不具合が起きにくく、クセが少ないマシーンを好む辺り、主役NTの中では一番プロ兵士の感性が強い人物だと思う。 -- 名無しさん (2019-07-13 13 48 30) なんだかんだで数少ない総力戦を経験したキャラクターだからな -- 名無しさん (2019-07-13 13 53 30) 本放送当時は髪形のせいでファンから「アフロ・レイ」とも呼ばれてたらしい。「イデオン」のユウキ・コスモが登場するまでは。 -- 名無しさん (2019-08-02 13 59 58) カミーユ、バナージ、リタのように、NT能力に身を任せて人の枠を飛び出す事が出来ないのは、それはそれで難儀な性格である -- 名無しさん (2019-08-28 11 56 33) アムロは良くも悪くも常識的感性を持っててNT能力関係無しに人との繋がりを大事にできる人だから人智を超えた力には興味が無い、ってかむしろ否定すると思う。人間の事を誰よりも愛して信じているからね。 -- 名無しさん (2019-08-28 12 25 07) 連邦の最高級最新鋭機体がついてこれなくなるって何なんすかねえこの天パ、ナーフしろ -- 名無しさん (2019-09-30 15 38 32) 「ガンダムは勿論、アレックスですらアムロの能力についてこれない」 …本当だからおそろしい -- 名無しさん (2019-12-18 20 24 00) ↑9 ある程度の機体性能の差があっても超反応と技量で補えるぐらいだしな。CCAでもリ・ガズィでギュネイのヤクト・ドーガを撃墜寸前まで追い詰めたぐらいだしシャアレベルでないと勝負にすらならない。 -- 名無しさん (2020-02-15 20 48 22) ようつべでファーストガンダムが通しで観られるんだけど、モスク・ハン博士との会話がいいねぇ。「必ず、生き延びてくれよ」「はい。…データを持ち帰るためにですね」「そう、そうだ!」 -- 名無しさん (2020-05-27 17 48 07) ↑5生身の繋がりを大事にするアムロだからこそベルチルで父親になれたんだろうね -- 名無しさん (2020-06-09 11 13 07) ジョニ帰などでシャアの強さが盛られると自動的に化け物度が増す男 -- 名無しさん (2020-06-09 11 22 05) どの戦いも決して余裕があるわけじゃないのに気付いたら無双してたり輸送機でMSを撃退してたりするやべーやつ -- 名無しさん (2020-07-07 20 47 07) 戦うのが怖いから早く終わらせるために敵機のコックピットを潰して回るやべーやつ -- 名無しさん (2020-07-07 21 03 23) ↑7 -- 名無しさん (2020-08-14 13 11 39) ↑7 あの時点でガンダムは最新鋭ではなくなってるわけだし -- 名無しさん (2020-08-14 13 12 41) でもアレックスの行きついた先のトリスタンでもアレックスの時点でピーキーすぎる追従性(全盛期のアムロに合わせたという説もあるらしい)と言われてること考えたら… -- 名無しさん (2020-08-30 18 59 07) 1話のサイド7でアムロがホワイトベースに乗船しなくても、ギレンの野望や小説版のパイロット候補生みたいな、臨時徴兵などでアムロが連邦軍に入隊していたかもしれない。 -- 名無しさん (2020-10-10 06 49 26) ↑ ジオンは地球攻略の戦略や目途がまったく立ってない(ジャブローの位置さえ把握できてないし、地球の複雑な環境に悩んで兵站戦はズタボロ、希望の新星ゲルググが完成しても地上での機動力は並み程度、ビグ・ザムは多分あの足じゃ地上を歩けない)から、連邦がゲリラ戦・時間稼ぎに徹する限り、一年戦争はいつまでも続いただろうね。すると、アムロが現れなければ戦争は三年か七年かは伸びるだろうが、やっぱりジオンは連邦攻略ができないまま、アムロが徴募兵となって新型ガンダムに乗り込み、結局ジオンを滅ぼした気がする。下手するとアムロがカミーユやヤザンやテネスとチームを組んで大暴れしたかもしれんな。 -- 名無しさん (2020-10-21 09 17 52) ↑テムレイがコネなり使って技術士官としてパイロット勤務はなさそうな気もする。母に対しては嫌ってたけど、父に対しては同じ技術屋としてそれなりには仲よかったろうし、父と同じ技術屋として戦争に従事してるだけになりそう -- 名無しさん (2020-10-21 10 52 05) シャアを一方的に非難するけど、自分からはあんまり動かない人間 -- 名無しさん (2020-12-14 22 52 02) ↑ シャアに押し付けているってのは感じたな。お前も一緒に宇宙に上がっていればシロッコ相手に複数で戦えたし(いくらシロッコでもアムロとカミーユにクワトロ三人だと勝ち目ないだろうし)カミーユも精神崩壊にまで追い込まれなかった可能性もある。まあ本人もそう思っているからカミーユの事については逆シャアで批判はしなかったんだろうが… -- 名無しさん (2020-12-20 02 30 49) ↑2 そりゃアムロは夢想家ではないしすぐに世界をどうこうしたいなんて考えてないからな -- 名無しさん (2020-12-26 21 46 35) ケンシロウ同様、アムロも「優れた戦士だが、戦士『でしかない』」からなー。 -- 名無しさん (2020-12-26 22 09 11) ↑2シャアの方はアムロに対してそう思っていないから余計に拗れていくという… -- 名無しさん (2021-01-09 11 35 13) アムロは「世界を変えること自体が必要ない」''「今のままでも世界の流れは悪くない」''と考えているのでは。アムロは少年期からサイド7の移民で、つまりは「宇宙世紀0070年代でもまだ伸びしろのあるスペースノイド」の姿を肌で感じていた(後で実感した)のではないか。ならば、わざわざ地球連邦へのテロだとか、あるいは虐殺なんてしなくても、放っておいてもスペースノイドは自然と強くなる、今はまさにその過程で、むしろ「スペースノイドのためのアースノイド虐殺」は何の意味もない、と考えていたのでは。アムロの生活環境や行動、そして「インテリ革命家不要論」からするとそう考えられる。あと、むしろシャアとかマフティー(ハサウェイ)とかガトーみたいな「連邦へのテロ」にこだわるジオン残党こそが、本当の「地球の引力に魂を引かれた人たち」な気がする。宇宙に生活基盤を作っているのに、いつまでも地球や地球連邦にこだわるんだもん。 -- 名無しさん (2021-01-09 13 18 04) ↑ 小説版FGのシャリア・ブルも「連邦は放っておいてもいいです。歴史的役割は終わってるし、何も出来ません」とかいってたな。 -- 名無しさん (2021-01-09 13 31 47) 厄介原作厨しか評価してないw -- 名無しさん (2021-01-11 02 59 23) 幻聴のシャア「ニュータイプにクリスマスなど要らん!何なら私と一緒にやらんかハハハハハハ‼」アムロ「ちくしょおおおおおおおおおおお -- 名無しさん (2021-01-12 10 51 15) アムロを単純な保守扱いする風潮も首肯出来ない。シャアがあまりに過激過ぎるから否定してるだけで、連邦が極右ティターンズと一体化した時にはリアルタイムじゃ逆賊扱いでも打倒に立ち上がった訳で(打倒後に正邪逆転扱いで調子良く追認されただけ)。逆シャア小説ではブライトと「保守と言ってる奴らは実は守旧なんだ」と手酷く上層部の悪口言い合ってたりなあ。 -- 名無しさん (2021-01-12 11 22 00) シンジ君よりも色んな意味で家族関係死んでる。ガンダム主人公の負のジンクスもまた彼から -- 名無しさん (2021-05-25 12 01 39) UCでの描写を考えると、ひょっこり帰ってきたアムロが同僚の墓参りに行ったら自分のお墓を発見という笑っていいんだかよくないんだか困る状況におちいるんじゃないかとか。 -- 名無しさん (2021-08-16 14 39 09) まず、アムロとシャアでは立場違うからな、両方とも思想的に拗れるのは仕方ない。しかも、ラプラス問題のおかげでアムロはガンダムとジムを含めて連邦政府内におけるニュータイプ論争に火を付けてしまったし、軟禁されていた意味合いも大きく変わってきた。逆シャア時代に生きていられたのは恐らくシャアが潜伏していてくれたから、ってことになってると思う。 -- 名無しさん (2021-09-02 16 26 30) ↑ 当時の連邦だとシャアにガチンコ勝負できるパイロットがアムロしかいないしね。コウやユウ等ベテラン勢でもニュータイプ専用機に乗ったシャア相手じゃな… -- 名無しさん (2021-10-04 21 38 15) ↑3 正規の軍人なら正式に退役が認められるまでは永遠に自分の所在を軍に報告するのが義務だから年単位で行方不明になってたら墓作られるくらいは当然と思ってるだろうさ -- 名無しさん (2021-10-12 22 39 30) ↑3 NTでバナージがミネバの元にいるのは彼女の事もそうだがリディの事も守るためってのもあるな。バナージとユニコーンに対抗できるのが当時の連邦側だとリディとバンシィしかいない。レーンとペーネロペーじゃファンネルミサイルや機体そのものをジャックされて返り討ちにされてしまうから連邦側としてもリディを悪く扱うわけにはいかない。 -- 名無しさん (2021-10-29 01 12 49) よく1話の最初の部分のアムロがヒキニート扱いされてるが、1話で初めて見た兵器に乗って戦ったりその後も死ぬかもしれないのに戦い続けることができる勇気は凄まじいと思う。すくなくとも俺にゃ無理だ。1話の最初の部分では機会いじが好きな様子しか見せてなかっただけで、元からやるときはやる男だったんだろうと思う。 -- 名無しさん (2021-11-06 01 40 03) 安室奈美恵が売れ出したとき、何時かコラボするんじゃないかと思ってたが・・・ -- 名無しさん (2021-11-28 13 00 16) 最初観てた時はガンダムが強いんだなあ、だったのに後半から終盤にかけて「違う、コイツがヤバいんだ。」と思わせられた。 -- 名無しさん (2021-11-28 13 28 17) 突っ込むのはやめておこうかって、突っ込んだから子供が出来たんだろう -- 名無しさん (2022-03-22 12 11 49) ↑やめんかw -- 名無しさん (2022-03-23 17 06 19) 最期がはっきり明言されてないからあまり認識されてないけど享年29なんだよな。あまりに若すぎる死だ -- 名無しさん (2022-03-23 19 24 16) 福岡νガンダムのPVで「遠隔でビームサーベルをマウント部から外す→回転しながらキャッチすると同時に発振、すれ違いざまにギラドーガの胴体ぶった斬る」ってしれっとスゲー事してんな…でも解釈一致の動きなのが本当アムロやべぇ -- 名無しさん (2022-04-09 14 14 07) ガンダムタイプ以外だとジ・Oとか好きそう。というかファーストとν以外のガンダムに難色示しそう -- 名無しさん (2022-04-10 09 23 30) アムロはどんなMSに乗っても文句言いながら使いこなすイメージしかない。なんならその後不満点の改良案まで出してくる -- 名無しさん (2022-07-01 14 32 23) ククルスドアンの島観たんだけど、パイロットとしては思ってたよりずっとクールな奴だったんだな。 -- 名無しさん (2022-07-05 00 01 05) ハイストリーマーで「ゼータないのか、百式だって良いモビルスーツなのに」って発言が、アムロが凄まじく警戒されて苦境にあったのを物語ってるな。別にゼータに乗りたいんではなく、当時のトップクラス機でも6年も経過してるのを「せめて」とラインを下げて評価せざるを得なかった発言だからな。 -- 名無しさん (2022-07-22 15 51 22) ハイストリーマーのロンドベルの戦力設定が、現行版よりもよろしくなかったのもあるね -- 名無しさん (2022-07-22 20 16 56) ログ化を提案します -- 名無しさん (2022-07-22 21 08 07) 想像してみてほしい。V~G-SAVIOURの時期のどこかで美少女化されたアムロの姿を。(ストパン見たガノタならみんな一度は考えたはず) -- 名無しさん (2022-07-23 08 45 28) 話題になると劇中のアムロ・レイというより僕の考えてる最強パイロットアムロ・レイになりやすい感じがある -- 名無しさん (2022-07-24 22 30 19) ↑ クロボンのアマクサに搭載されたバイオ脳とかまさしく最強のMSパイロットとしてしかアムロを見ていない奴らがやらかした事だしな。 -- 名無しさん (2022-08-21 20 33 58) コメント欄をログ化仕様にしました -- (名無しさん) 2022-08-21 21 05 10 偏見だけど人物より能力が語られることが多そう。スーパーコーディネーターの准将とかより力だけが彼のすべてと思われてそう -- (名無しさん) 2022-08-23 18 52 31 小説版アムロのトラウマが牙神幻十郎と同じで草。一歩間違えればアムロもああなったのかな… -- (名無しさん) 2022-10-14 19 06 41 ベルチルのアムロの方が強さ的にしっくりきて好き -- (名無しさん) 2023-02-27 17 52 46 ↑×3実際問題、一人の人間としてアムロを見るのは、木馬時代に一緒に戦った仲間でないと難しいんじゃないかな -- (名無しさん) 2023-02-28 22 14 41 操縦技術は宇宙世紀最強クラス。しかし人物的には繊細な心を持ち、仲間の死に慟哭するなど優しい場面がしっかり描写されている温かみのある人物だと思う。少年時代は爪を噛む癖や機械に固執するなど精神障害を思わせるところがあったけど、逆シャア時代のアムロはそう言う面が全くなくなっていた。クェスには見限られたけど、1人の大人の男性としてしっかり成長している。あと天然ジゴロ -- (名無しさん) 2023-05-20 14 22 25 シャアは「カリスマ・指導者」を求めてクローンや代替が複数人作られたけどアムロは「MS操縦する頭脳のコピー」しか作られないのが2人のどちらにとっても悲しい -- (名無しさん) 2023-06-23 06 03 36 最近妙にシャアとセットで神格化されてない?気のせいかな? -- (名無しさん) 2023-07-19 16 30 53 星飛雄馬じゃないが後世の扱われ方見てると「俺は人間だぞ、MS操縦マシーンちゃうぞ」と言いたくなるわな。 ゲームの掛け合いでも敵勢力はともかく連邦サイドのキャラからもそんな扱いだし。 悪気はないけど... -- (名無しさん) 2023-07-19 17 37 57 アムロが士官学校に行かなかったのは、政府側や軍部がエゥーゴ派が増えたとしても全体的には危険視をしている人は結構いたし(ガンダムを与えたくなかったのもこれ)、何よりも行方不明のシャアの調査で忙しかったんじゃないかな。 -- (名無しさん) 2023-08-04 18 43 19 スパロボやなんかでも逆シャアあたりがほとんどだから、本来の繊細な部分は見えにくいのよな。だからって出ているシリーズ履修は多いから結構キツいし。 -- (名無しさん) 2023-08-05 11 16 37 「後ろにも目を付けるんだ!」の下りが散々人間には無理と言う意味でネタにされているが、 -- (名無しさん) 2023-10-17 03 50 48 ↑ミス&追記 うちの母親は何度も「子育てなんて背中にもを付けてないとやってやれへんのやぞ !」と言ってる。つまり母親べからずニュータイプだって思ってるんじゃねーの。 -- (名無しさん) 2023-10-17 04 09 03 ブライトも敵の出現を見落としまくってるクルーに「いい加減に目を開けて戦え!」って怒鳴ってたな -- (名無しさん) 2023-10-19 21 37 26 テネス・A・ユングというアムロよりも撃墜数のあるパイロットだが、実は彼は非公式設定書籍で好き勝手書いたキャラの1人であり、それをゲームで拾われちゃってしまった始まりだったり -- (名無しさん) 2023-11-22 08 22 28 ブライトに正論ぶつけてぶん殴られたけど、ブライトだっていっぱいいっぱいなところに戦闘中にあんな正論いってボイコットするほうも正しいかと言われると… -- (名無しさん) 2023-12-03 16 32 10 ガンダムの世界は未来なのになぜか軍隊は太平洋戦争の日本軍の気風だから「民間人の子供が軍や軍人に反抗した」って時点で主張が正しいとか関係なくボコボコにされるよねって感じはする -- (名無しさん) 2023-12-03 19 02 25 最近ガンダムになった男 -- (名無しさん) 2023-12-10 17 43 58 アムロがブライトから受けた最初の命令は本編描写があるのは「残ったガンダムを燃やせ」だったりする。(この前に搬入の命令があったようだが) だから「もえあがれガンダム」が主題歌の筆頭なのねw -- (名無しさん) 2023-12-10 18 46 41 後世の伝記だと初陣からマニュアル読んだだけで瞬時に全てを理解して冷静に敵を討ったみたく盛られてるのが、現実の偉人伝を皮肉ってる感もあるのが面白い -- (名無しさん) 2024-01-17 11 56 53 スパロボとかでは良き上司やってるけど、原作だと割と気難しいところが多くて上司にしたいかは微妙… -- (名無しさん) 2024-02-21 21 53 16 >もえあがれガンダム ビルドバーニング。 -- (名無しさん) 2024-05-11 03 47 55 駄目だよ中の人、リアルで○○がチャーミングだからさをやっちゃあ。 -- (名無しさん) 2024-05-22 12 50 22 ↑一応アムロについては作中で色々問題行動やってるし、軟禁中女性関係乱れまくりをテレビ版でもベルトーチカへ慣れた仕草、生活は地獄と言うも戦うのが怖いんだ発言で匂わせたりしてたので、イメージ損なうから降板とは一概に言えなかったりもする。 -- (名無しさん) 2024-05-22 13 31 03 クワトロ大尉「君を笑いに来た」中の人が今リアルタイムで笑われている。 -- (名無しさん) 2024-05-22 22 53 27 >一応アムロについては作中で色々問題行動やってるし つまりアムロは中の人の分身。 -- (名無しさん) 2024-05-22 22 55 13 名前が似ているデッカードの中の人、風評被害に遭わないかと心配してたら、改名してた。 -- (名無しさん) 2024-05-25 16 40 35 赤ちゃんの声が聞こえる(意味深) -- (名無しさん) 2024-05-31 14 36 25 ↑もうこのネタは封印したら?ヘタすると米欄閉鎖になるよ。 -- (名無しさん) 2024-06-01 15 00 42 「親父にもぶたれた事無いのに!」中の人は監督に殴られたそうです。 -- (名無しさん) 2024-06-15 15 15 14 妙に最近神格化されて気持ち悪い -- (名無しさん) 2024-06-20 04 17 20 ↑シャアとどっちが神格化されてるのだろう。 -- (名無しさん) 2024-06-21 10 34 35
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刹那「真のガンダムは白いノーマルスーツを着用してた……」 青<刹那のノーマルスーツ 刹那「俺は……ガンダムになれない…… シロー兄さんも、コウ兄さんも、カミーユ兄さんも、ロラン兄さんも、 ガロードも、ジュドーも、ウッソもみんなガンダムなのに……」 ガロード「いやいや、シーブック兄さんとかキラ兄とかシン兄とかヒイロとか、 ガンダムパイロットでも白いノーマルスーツじゃない奴沢山いるだろ」 ジュドー「そうだよ、気にすることねーって」 刹那「いいよな、お前達は真のガンダムで……」 ガロード(い、いじけ始めた……) ジュドー「そ、そうだ刹那兄!白いノーマルスーツならさ、アムロ兄さんは二着持ってるじゃないか」 ガロード「そうだって!1年戦争時代のノーマルスーツはもうアムロ兄さんは着れないと思うし 刹那兄に譲ってくれるんじゃないかな?一年戦争時代のだぜ?」 刹那「そ、それは真のガンダムのノーマルスーツということか!」 ジュドー「そうそう、真のガンダム、真のガンダム」 ガロード「アムロ兄さんのに比べたら俺達のなんてガンダムとジムだぜ?」 刹那「そうか……俺が真のガンダムに……」 ジュドー「よ、よし、じゃあアムロ兄さんに貰ってこようぜ」 ガロード「そうだな」 ガロード「部屋に居ないみたいだ。出かけたのかな?」 刹那「やはり俺は真のガンダムにはなれない……」 ジュドー「あーもう!勝手に入っても大丈夫だろ!兄弟なんだし」 ガロード「そうだな!」 <アムロ兄さんのタンス> ガロード「これか?……って黄色だ。カラバ時代の奴だな」 ジュドー「コッチは一年戦争時代のだけど青だぜ」 ガロード「なんでタキシードが入ってるんだ?」 ジュドー「この金ぴかの鎧なにさ?」 ガロード「巨人のユニホーム……橙色に亀って描かれた道着……」 ジュドー「アムロ兄さん……何者なんだ……」 ガロード「おい、ジュドー!」 ジュドー「見つかったのか!?」 ガロード「これじゃないか?白いし!」 ジュドー「ああ、こんな感じだったぜ!」 ガロード「刹那兄、刹那兄!」 ジュドー「ホラ、白いノーマルスーツだぜ!!着てみなよ!!」 刹那「ガンダァァム!!」 アムロ「お前達!」 ガロード「げ、アムロ兄!」 ジュドー「違うんだ、刹那兄にアムロ兄の一年戦争の時のノーマルスーツを……」 アムロ「それはノーマルスーツじゃない!新造人間の……」 刹那「俺がキャシャーンだ!!」
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9 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 16 59 44 ID DcvHquOk0 「遅くなりました」 ニッキ・ロベルト少尉を伴い「青い木馬」のブリーフィングルームに現れたニムバス・シュターゼン中尉は、部屋の中央で彼の到着を待ち構えていたシャア・アズナブル大佐 にそう言いながら近づいた。 「ご苦労。ニッキ少尉、もういいのか」 「は、ご心配をお掛けしましたがもう大丈夫であります」 ニッキは痛めた方の手で敬礼を向けた。一見した所、そのしぐさにぎこちなさは見られない。 生気を取り戻したその様子に、シャアの後ろでランバ・ラル中佐と共に控える彼の上官ゲラート・シュマイザー少佐も、厳しい眼差しの中に安堵した光を宿している。 「大佐、オデッサ本営内部に送り込む為の方便として都合よく利用しただけで、もともと少尉の怪我は大したものではないのです。お気遣いは無用に願います」 「ふふふゲラート、その割にはやけにホッとした顔をしているではないか」 「・・・ラル中佐、余計な発言は控えて頂きたい」 憮然としたゲラートを豪快に笑い飛ばしたラルは恐縮するニッキに向けて軽く頷き、ニッキも嬉しそうに頭を下げてこれに答えた。 「報告を聞こうニムバス。例の核ミサイルの在り処は判明したか」 「はい、しかし残念ながら、ミサイルサイロからは既に運び去られた後でした」 シャアにニムバスがそう報告すると、場にじわりと重い空気が流れる。 「むう、それでは」 「恐らく、マ・クベ麾下のダブデに運び込まれたものと思われます」 「中尉には確信がありそうだな?」 ゲラートが発した問いに、ニムバスは頷いた。 「ミサイル発射施設が周辺地域にありません。マ・クベがあれを切り札と考えている以上、ダブデから直接発射する以外選択肢は無いのです。それに」 ニムバスが目で促すとニッキが口を開いた。 「表立ってはないですが、既に核ミサイルのダブデ搬入に関してはオデッサ中の噂になっています。 噂の大元を辿って行くと当日臨時でそちらに回されていたという現場作業員に行き当たりました。つまりミサイル搬入の当事者と言う訳です」 ほうとシャアとラルがニッキに注目する一方、ゲラートは鷹揚に頷いたのみである。 彼の意外と抜け目のない性格とコミュニケーション能力の高さを知り抜いているゲラートにとって、この程度の捜査報告は驚くには値しない。 「これは自分が直接本人に確認したので間違いありません。例の図面通りのミサイル一機、間違いなくダブデに搬入したそうです。 どうやら俺達が流した情報の信憑性の高さに、マ・クベお膝元・・・鉱山基地の連中は皆ブルッて、いえ、相当ナーバスになっていたみたいですね。 中には噂の真偽を直接マ・クベに詰問したバカもいたそうで、マ・クベに対する不満と不安は日増しに高まり続けているようです」 ゲラートが厳しい顔を少しだけ綻ばせた。 「極秘情報をリークして一般兵にマ・クベの思惑をスッパ抜き、彼への疑念を抱かせると同時にその動静を互いに監視させる・・・ 我々の目論見通りに事態は進んでいると言っていいでしょう。 欲を言えば下からの突き上げでマ・クベがミサイルの使用を断念してくれれば良かったのですが、流石にそれほど甘い相手では無いという事でしょうな」 10 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17 00 32 ID DcvHquOk0 ふうむと顎に手をやったシャアにニッキは更に言を継いだ。 「オデッサの傷病施設に送られた自分は、内部で状況収集に勤め、ニムバス中尉と合流した後、厳重な警備を突破して 密かにミサイルサイロ近づいたんです。が・・・」 「少尉、いらん言い訳はするな。我々がモタついたせいで事態はより困難なものになったのだぞ」 身振り手振りを交えて熱弁を始めたニッキを鬱陶しそうにニムバスが遮った。 しかし、ニッキはけろりとしたもので一向に口を噤もうとはしない。 「まあ、でも自分はこれで良かったかもと思っていたりしますがね」 「なんだと、それはどういう意味だ」 すっと剣呑に細まったニムバスの眼光には委細も動じず、ニッキは体の向きを変え彼の顔を正面から見つめ返した。 この若者、これでなかなか度胸が据わっており言うときには言う。 「もしあそこにミサイルがあったなら」 「・・・」 何を言うつもりだとニムバスはニッキを睨み付けた。 「中尉は・・・・・・自分自身を犠牲にしてでも施設の破壊を」 ラルとゲラートはぎょっと目を剥いた。シャアは微動だにしないが仮面のせいでそうと判別できなかっただけであろう。 数瞬の沈黙の後、ニムバスは極めてゆっくりと口を開いた。 「・・・迂闊だぞ少尉。憶測で物を言うな」 その声は低く心なしか掠れている。 「とぼけても無駄ですよ。俺の集めた情報を聞き出すなり中尉は俺にすぐ原隊復帰しろと命令した。 一人より二人、それに一応は傷病兵のレッテルが貼られている俺が一緒にいた方が、基地内の行動は何かと有利な筈なのに」 「・・・」 遂にニムバスが黙り込んだ。この沈黙は反論の余地がない事を意味している。 詭弁の類がすぐに出てこない所は騎士を自認する彼の潔癖さに依るものだろう。 「潜入は自分一人でやると言って譲らなかった。だから俺はピンときたんですよ。 ああこの人を単独にしちゃいけないなとね。だから何だかんだと中尉に引っ付いて行動したんです」 「貴様」 表情には出さないものの、正直ニッキという男を見縊っていたとニムバスは心中で苦笑いしている。 良くいるタイプの軽い熱血バカかと思っていたが、流石に切れ者ゲラート率いるフェンリル隊に所属しているだけの事はある。 ニムバスはニッキから視線を外しちらりとゲラートを窺うと 「・・・」 ゲラートも無言でニムバスを凝視していた。 実はゲラートも常々、ニムバスはごく一部の例外を除き他者を見下す癖が抜けきっていないと感じていたのでる。 侮りは油断に直結する。 この悪癖は早々に根絶しておかねば、いつか取り返しのつかない事態を引き起こすだろうという懸念もあった。 だがプライドの高い人間にそれを面と向かって言う事は決して得策ではないという事もまた、ゲラートは経験で知っている。 こういうタイプは良くも悪くも自身の経験でしか物事を身に染み込ませる事が出来ないのである。 しかし今回の事を受けて明敏なニムバスは他者を顧慮するデータの更新を行うだろう。時を待った甲斐があったというものだ。 それを引き出したニッキの行動はフェンリル隊隊長として誇らしくもある。が、調子に乗り易い彼を敢えて褒めるつもりもない。 ゲラートは静かに床に視線を落としそのまま瞑目すると、隣のラルにだけ微かに聞こえるなんとも複雑な含み笑いを漏らした。 11 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17 01 14 ID DcvHquOk0 「状況は把握した」 心の底では互いを認め合っている二人にわだかまりは無い。 シャアの言葉で視線を外し、ニムバスとニッキは再び正面に向き直った。 「では当初の予定通りに事を進めよう」 「はい。これが最終的な作戦要綱です。細部の変更は可能ですので叩き台にして頂ければ」 ニムバスからパネルに挟み込まれた紙媒体のファイルを受け取ったシャアは、ざっと目を通しながらぱらりとページを捲った。 他の媒体も無いではないが、オンリーワンの重要書類はやはりこれに限る。 「エルラン中将、ユーリ・ケラーネ少将両名への最終確認は済ませてあります。・・・こちらの指示で全ては手筈通りに」 「流石だな」 シャアは満足そうに笑いながらファイルを後方のラルに手渡した。 急いで内容を確認したラルとゲラートは目を合わせ頷く。ニムバスは叩き台と言ったがこれは殆ど決定稿に近いプランであろう。 様々な場所に張り巡らせていた策謀の支流が次第に寄り集まり遂に今、一つの大きな奔流になろうとしているのである。 ほう、とファイルを見ていたラルがうなった。 軍団長を筆頭に構成員の名前がずらりと並び、各員の搭乗MSや装備、携帯武器までが詳細に網羅されているリストである。 ニムバス一人でこれを作成したのだとすれば相当の時間と労力を費やした筈であった。 「この攻撃軍団の編成表は?」 「ここキエフに集められた大小30程の機動部隊を再編し、各軍団長の性格や搭乗MSの特性を考慮して割り振りました。 現時点では恐らくこれがベストの布陣だと思われます」 「そいつを聞かせて貰おうじゃねえか」 「ガイア大尉」 ブリーフィングルームの扉からどやどやと入って来たのはガイアをはじめとする【黒い三連星】の3人と、シーマ・ガラハウ、ジョニー・ライデン両人であった。 各々【青い木馬】隊の誇る一騎当千のエースパイロット達である。 「ニムバスが戻ると言うので私が召集を掛けた。我々は一蓮托生なのだからな」 シャアの視線の先には彼の影武者を勤めたジョニー・ライデン中尉がいる。 彼も腕組みしながらシャアに視線を返した。 「俺も聞きてえな、ニムバス教授様の作戦って奴をよ」 「逸るんじゃないよジョニー、アタシ等は大佐の命令通りにやりゃ良いだけさ」 いつもの如くライデンを嗜めながらばさりと長い髪を払ったシーマ・ガラハウ中佐も、口とは裏腹に楽しそうである。 シャアやラルと共に、ずらりと並んだ彼等の姿はやはり圧巻であった。 12 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17 02 32 ID DcvHquOk0 「諸君、いよいよだ」 一同を見回したシャアは暫し言葉を切った。 「核ミサイルを随意に使用できるマ・クベにこの戦の主導権を握らせてはならない。 奴の全軍に向けた作戦発動命令を待ってはならないのだ。我々は、奴に先んじて動かねばならない。したがって」 誰かがごくりと喉を鳴らした。互いの胸の高鳴りが聞こえて来る様だとラルは場の雰囲気に手ごたえを感じている。 彼の経験からして、こういう時の戦に負けはない。 「我々はかねてからの手筈通り、ここキエフの戦力だけで敵本隊に払暁強襲を仕掛け、一気に決着をつける」 シャアの宣言に一同の目がギラリと光った。 「天候予測によると数日後この地を巨大な嵐が見舞う。諸君、実に我々に相応しい晴れ舞台だと思わないか」 「雨舞台だろう、嵐なんだから」 すかさず入ったライデンの茶々入れに、全員がそれぞれの仕草でどっと笑う。 いい感じに肩の力が抜ける、これが他の部隊には見られない【青い木馬】隊独特の強さだろう。 ゲラートが手元のスイッチを押すと床のスクリーンが点灯した。映し出されたのはデジタル処理された戦場の俯瞰図である。 連邦軍の布陣が地形に合わせて青で表示され、対するジオン軍は赤色で表されている。見るからに青色の表示領域が分厚いのが判る。 今回の戦いにおいて連邦軍は全軍総司令官レビルの座乗するビッグトレー型陸上戦艦と同型の艦をいくつも戦場に投入し、ジオン軍の攪乱を目論んでいた。 しかしエルランの背信行為により軍の布陣が筒抜けになってしまった今、彼等の偽装は丸裸同然だったのである。 敵本陣を現す光点が布陣の中央奥に点滅し、やがてその光点目掛けて中央やや右寄りから黄色い矢印が表示された。 「先鋒はガイア、オルテガ、マッシュがそれぞれ率いる部隊に任せる」 「へへへ」「任せておけ」「腕が鳴るぜ」 マッシュ、オルテガと共に嬉しそうに手指を鳴らしたガイアは一同を振り返るや「悪いな、一番槍は頂きだ!」と獰猛に笑った。 【黒い三連星】たる彼らの操る重モビルスーツMS-09【ドム】は機動力と突破力に優れ、部隊の先陣を切るにはうってつけである。 ジオン軍の中でも特に名の知られた彼らが先頭に立てば全部隊の士気が高まるだろう。もちろん彼らに付き従う一般兵のMSには高機動タイプを中心に厳選してある。 「敵の前面に楔を打ち込むのだ。包囲網を蹴散らして敵陣正面を何としてでもこじ開けろ」 「俺達を誰だと思ってる?機を見て離脱しても構わんのだよな」 「判断は任せる。戦場を掻き回せ」 「今回ばかりは敵に同情したくなるな」 髭だらけの口元を愉快そうに歪めたガイアの言葉は強がりではないだろう。 が、ジオンでも異例な3人一組の独立部隊として活動してきた彼らに、果たして単独の指揮官が務まるだろうかという慎重な声が当初ゲラートから上がったのは事実だ。 その為シャアは敢えて【黒い三連星】を分割してそれぞれ部隊の指揮を任せ、一人ひとり指揮官としての資質をこの一か月の間試し続けてきたのである。 そしてそれは誰もが認める成果となって表れた。 常に前線に身を置いてきたシャアは現場の状況を知り尽くしている。 刻々と変化する戦況に柔軟に対応するには後方から余計な口出しをせず、作戦目的だけ伝えた後は信頼のおける指揮官にゲタを預けてしまった方が 総じて良い結果をもたらす事を弁えているのである。 これは後方勤務の官僚、例えばマ・クベ等にはまず出てこない発想であろう。 彼らにとってのボスであるシャアがこういう料簡でいてくれる事はプライドと実力を兼ね備えた【黒い三連星】にとってなによりもやりやすく また、思う存分に能力を発揮できる絶好の環境でもあった。 13 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17 03 05 ID DcvHquOk0 敵正面にぶち当たった黄色い矢印が離脱すると混乱をきたした青色の布陣に乱れが生じ、すかさずそれを突く様に新たな矢印が表示された。 「右翼はジョニー・ライデンの部隊をあてる」 「おう」 腕組みをしたライデンがニヤリと白い歯を見せた。感情を露わにしがちな彼が静かに闘志を燃やしている。 【深紅の稲妻】と呼ばれる彼の乗機はMS-08TX【イフリート】 もともと高い機動力をチューンナップで更に引き上げ、恐るべき強襲型へと変貌を遂げた地上専用MSスペシャルバージョンである。 そのスピードは地上戦においてノーマルセッティングのガンダムを遥かに凌ぐ。手持ち武器の他に二振りの専用ヒート・ソードを携え迫撃と乱戦に無類の強さを発揮する。 つい先日バイコヌール経由で大量に送り届けられて来たメイ・カーゥイン発案の楕円形超鋼スチール合金製シールドを携えて出撃すれば このMSの泣き所であるやや薄めの装甲を補う事もできるだろう。 余談だがジオニック社の造兵廠の片隅でこっそり試作されたそのシールドはやけに評判が良く、遂には熾烈なプレゼン合戦の末に決定した次期主力MS【ゲルググ】にも正式 採用される運びとなったらしい。 話を聞いたメイはそれならついでに盾だけじゃなくその新型MSも送ってくればいいのにとぼやいたものである。 ちなみに彼女がこのMSにチューンを施した際、パイロットの希望通り機体色をダークレッドに塗り替えている。 ライデンの高い技量はこの凶悪でクセのあるMSの持つポテンシャルを十二分に引き出すだろう。 また彼はいかなる分隊機動も難なくこなす指揮官としての能力も併せ持ち、その上面倒見がよく部下からも慕われ・・・というまことに稀有な人材でもあった。 ライデンの部隊を現す矢印の隣に並行してもう一本、更に新たな矢印が表示された。 「右翼は最も敵の布陣が厚い。従ってシーマ・ガラハウの部隊もここに配置する。深追いはするな、しばらくの間敵を抑え込めればいい」 「了解致しました」 階級がはるかに低いライデンの後の指名だったがシーマに異存のあろう筈がない。 シャアは彼等二人のコンビネーションについて様々な方面から報告を受けている。 ひとたび戦闘となれば手柄を争って反目する指揮官が多い中、阿吽の呼吸で互いを補え合えるこの二人が率いる部隊ならば まず戦線が崩壊する事はないだろうとの読みがある。 実質的な海兵隊の首魁、シーマ・ガラハウ中佐の愛機もライデンと同じくMS-08TX【イフリート】であるが、カスタムセッティングは幾分趣を異にする。 端的に表すとすればスピードや攻撃力よりも通信機能の強化により重点を置いた指揮官機仕様だと言えるだろう。 素早い情報伝達が生死を分ける近代戦において、増設された複合通信装置はここ一番で彷徨する兵達の拠り所となる。 先陣を切って敵に切り込むライデンとは対照的に、フィールド全体を見渡し的確な指示で兵を叱咤激励するシーマの【イフリート】は戦場の灯台と呼ぶべき機体なのである。 画面はその後いくつかのエフェクトが掛かり、いくつかの矢印が表示された後、崩れた敵陣を貫き敵の本陣目掛けて一直線に伸びる矢印が現れた。 「本隊は私とランバ・ラルの部隊が担う。【青い木馬】の守りにはフェンリル隊が、遊撃にはダグラス・ローデン大佐の部隊に勤めて貰う」 ダイクンの息子と轡を並べる万感の思いがあるのだろう、ラルの顔が密かに上気している。 【青い巨星】ことラルの愛機YMS-07B【グフ】は強力な地上専用MS。操縦者と共に幾多の修羅場を潜り抜けてきた円熟の機体である。 配下のラル隊も総じて練度が高く、MS抜きでの荒仕事も先頭に立って行える強者揃いだ。今回の作戦、彼ら無しでは考えられない。 14 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17 03 47 ID DcvHquOk0 「大将、ちょっと質問いいかな」 「?、なんだライデン」 突然手を上げたライデンにシャアの気が削がれた。 が、ライデンがわざわざ場の空気を止めた事には何か意味があるのだろうと彼の言葉を待つ。 いつの間にかシャアを『大将』呼ばわりし始めたライデンを、本来は自身もそう呼びたいであろうラルはご満悦で眺め、うるさ型のゲラートが何となく咎められずにいるのが 興味深い。 ちなみにライデンはラルの事を敬愛を込めて『親父殿』、ゲラートを『(鬼)教官』と呼んでいる。シーマを『姉御』と呼べるのも、宇宙広しと言えど彼だけであろう。 「マ・クベの野郎、俺達がレビルの艦を制圧したら、悔し紛れに俺達に向けて核ミサイルを発射すんじゃねえのか?」 確かに、それはそれで有りそうな話だとガイア達は顔を見合わせた。しかしシャアは首を振る。 「いや、奴は物事の損得を天秤(はかり)にかける。奴がミサイルを発射するとしたら・・・条件は2つだろう」 「2つだって?」 「2つだ」 「・・・」 天井を見上げて暫し思いを巡らせたライデンは、やがて一歩前に出るとニムバスの脇腹を肘で小突いた。 「2つだとよ、お前判るかニムバス教授」 どうやら彼にとっての新たなニックネーマーが一人増えたらしい。 コメカミに青筋を浮かべかけたニムバスだったが、何かを諦めた様に溜息をついて心を静めた。 「・・・一つ目はジオン側の戦力が枯渇してオデッサ陥落が確定的となった場合」 「ま、そいつは判る。もう一つは?」 「シャア大佐がジオン・ダイクンの遺児だという事が奴に露見した時」 「――――なるほどな」 ザビ家の意向で意図的にダイクン派が多く集められたこの最前線キエフに君臨する指揮官が当のダイクンの遺児となれば、マ・クベならずとも国家転覆の危機を感じるだろう 。 その場合キシリア・ザビに心酔するマ・クベが何を置いても、どんな甚大な犠牲を払ってでも後顧の憂いを絶とうと思い切った行動に出る事は容易に想像できる。 2度目の訪問時にユーリ・ケラーネからジュダック拘束の顛末を聞かされていたニムバスは微かに眉をひそめた。 シャアの秘密は未だマ・クベの知る処ではない。しかし事が公になるのは時間の問題だろう、ぐずぐずしてはいられないのである。 「大佐、部隊配置がまだ全て発表されていませんが」 「そうだな、左翼の配置だが」 シャアがラルから戻された手元の資料に目を落としたのを見てニムバスは姿勢を正した。 正面突破作戦なのにも関わらず、左翼の部隊には殿軍と同様の働きが求められる過酷なセクションだ。そこにはニムバス自身の名前が記してある。 15 :1 ◆FjeYwjbNh6:2012/11/24(土) 17 04 13 ID DcvHquOk0 「左翼にはクランプ、コズンを隊長とした部隊を編成する」 「!?」 驚くニムバスを尻目にシャアは後方のラルを振り返った。 「問題は無いな」 「は、いずれもワシが手塩にかけた優秀なMS乗り。必ずやご期待に副う働きを見せるでしょう」 軽く頷いたシャアはニムバスを見る。 「ニムバス・シュターゼン。君には別にやって貰いたい事がある」 「は、いや、しかし・・・!」 「聞け。君の進言通り、アルテイシアはこの地から遠ざけた」 「は・・・」 今回の作戦でキャスバルに万が一の事があったとしてもアルテイシアが無事ならダイクン派は旗頭を失う事は無い。 補給を名目にアルテイシアをこの地から遠ざけ、護衛としてアムロを随伴させるよう提案したニムバスの案にラルやゲラートは大いに賛成しシャアも許可を出した。 彼の計画では更に、今後ダイクン派の強力な手駒になるであろうマハラジャ・カーン、の愛娘ハマーン・カーンも決戦前にこの艦から脱出させ アムロ等と補給地で合流させる手筈となっていた。 彼女の護衛にはバーナード・ワイズマンを推してある。 バーニィにはその際『オデッサ防衛戦には参加せず、このままバイコヌール基地に移動すべし』という旨の命令書を持たせる予定であった。 「どうやら手違いで、ハマーン嬢は一足早くアルテイシアと合流を果たしているらしいのだ」 「な、なんと・・・」 怪訝な顔をしたニムバスだったが、何をどう聞けばいいのか戸惑っている間にシャアは言葉を継いだ。 「君には直ちにアルテイシアのいる補給基地に向かって貰いたい。ワイズマン伍長と共にな」 「し、しかし、それでは・・・!」 セイラにかこつける形で、乱戦が前提の極めて危険な戦場から年若いアムロとバーニィを回避させたニムバスの意図は誰が見ても明らかであった。 だからこそ、彼は最も危険だと思われる左翼の備えを自らが受け持つつもりだったのである。 「行けよ、お前は十分に下ごしらえをやってのけたんだ。それはここにいる皆が知ってる。仕上げは俺等に任せとけ」 「ライデン・・・」 「どうせここのケリがついたら俺達も宇宙に上がる。・・・んだろ姉御?」 ライデンがシーマを振り向くと、彼女はそっぽを向きエホンとわざとらしい咳ばらいをした。 「どうせなら月かコロニーで再会しようぜ?お、宇宙要塞ってのもいいな」 ライデンは戸惑うニムバス越しに視線を【黒い三連星】にやった。 「なあ?お前らもそう思うだろ?」 言われたガイアはじろりとニムバスを一瞥する。 「当たり前だ。この戦に女子供と貴様の出る幕は無いわ」 「ガイア大尉・・・」 「姫さん達をよろしくな」 「・・・」 マッシュの隻眼も笑っている。 「くそう、メイの奴・・・この艦を離れる様に言ったのに、テコでも動かねえ・・・まったく・・・・・・!!」 小声で発したつもりが周囲には大きく聞こえたオルテガのぼやきにシーマとニッキは噴き出した。 武骨そうに見える彼にも、思うところはあったらしい。ラルは歩を進め俯くニムバスの前に立った。 「これからのジオンは若者が作る。そして君にはこれからも若い彼等の懐刀となって貰わなければ困るのだ。頼めるな?」 「・・・・・・!」 絶句したニムバスに、ラルは自らの大きな手を力強く差し出した。 113 :1 ◆FjeYwjbNh6:2013/04/11(木) 18 27 57 ID lKXfDKJM0 セイラ・マスとハマーン・カーンの搭乗したザメルが小高い場所に設営された物資集積所から様子を伺うと、ヒルドルブと対峙していた敵MS2機のうちの1機がすぐさまこちらに向けて砲口を立ち上げた。 「!!」 轟音と共に発射された連弾がザメルの脇を掠めて後方へ飛び去ってゆく。 衝撃でびりびりと痺れる機体に、2人の口から悲鳴が漏れる。ロクに狙いをつけていない攻撃とはいえ、戦いに慣れぬ少女達の度肝を抜くには十分であった。 双方の陣地が近いこの地ではミノフスキー粒子の濃度が濃く、レーダーは気休め程度にしか機能していない。 場馴れしている敵なのだとセイラ・マスは直感した。 「ぜ、前下方10時に敵・・・!!一機が向かって来るわ、対応してハマーン!!」 急激なスライド移動の衝撃に晒されたハマーンだったが、横Gに耐えながら懸命に照準モニターを操作する。 この不安定な状況下においても彼女の動作は驚くほど速く、正確であった。 「このっ!」 モニターの端にちらりと映った敵影を確認するやハマーンは20ミリバルカン砲のトリガーを絞った。 「ハマーン!?」 「牽制だっ!!」 年端もいかない少女に人間を傷つけたり殺めたりして欲しくない。できれば敵パイロットに危害を加えさせずにこの戦闘を切り抜けたい―――― 甘い考えだと判ってはいるものの心の奥底では漠然とそう願っていたセイラは、ハマーンが躊躇なく相手に向けて引き金を引いた事に衝撃を受けた。 「・・・」 が、セイラはすぐに首を振る。 そのハマーンを全て承知で戦場に引きずり出したのは自分ではなかったか。 もとより誰しもが生を求めてあがく戦場で余計な事を考えているヒマなど、あろう筈がなかったのである。 ザメルの放った弾丸は当たりこそしなかったが敵MSの動きが一瞬鈍る。 ぞくぞくと肌を粟立てたハマーンは我知らず笑みを浮かべた。 慣れ親しんだ「あの感覚」が蘇りつつある。 クレタ島での戦闘シミュレーションは多岐に渡り、地上戦を想定したものも多く含まれていた。 幾多のシミュレートをこなすうち、サブ兵装で敵の足を止め、フェイントで敵を翻弄し強力なメイン武器で仕留める戦法がハマーンの得意戦術として確立していった。 やれる。実機でも同じようにやれる。そう確信したハマーンはトリガーを握り直した。 このMS最強の兵装である680ミリカノン砲はこの至近距離では使えない、ならば――― 「あっ!?」 ロックオンしかけた敵影が急激に遠ざかり、身体がガクンと前のめりにシートベルトに食い込む。 セイラがザメルを急速後退させた事を悟ったハマーンは歯噛みして怒りの声を上げた。 「何やってるんだっ!?チャンスだったのに!!」 「ここは一旦下がりましょう」 「下がってどうする!敵は・・・!!」 「来たわよ」 パイロット2人の呼吸が全く合わないザメルの動きはぎこちない。 対照的に、小高い丘を駆け上ってきた敵影は集積地のコンテナを跳ね飛ばし、あるいは轢き潰しながら猛然とこちらに向けて突撃を開始した。 こちらには全くの迷いというものが無い。勢いの差は歴然だった。 114 :1 ◆FjeYwjbNh6:2013/04/11(木) 18 29 12 ID lKXfDKJM0 モニター越しとはいえ、キャタピラ履きのそれが砂塵を巻き上げて迫り来る様はシミュレーションとは全く違う物理的な迫力があり、加えて敵から放射される殺気はハマーンを戸惑わせる。 「右に回り込むわ!」 言うなりセイラは敵を正面に捉えたまま機体をドリフトさせ背後を取ろうと試みた。 これはホバー駆動ならではの挙動であり、突撃中の敵MSには追尾不能の筈だった。 「はっ!?」 セイラが怯む。 突如、敵機の側面から黒い塊が切り離され、スライドするザメルの前にドスンと放り出されたのである。 「ダメッ!」 鋭い声を発したハマーンに呼応するようにセイラはザメルの「左手」を懸命に伸ばし、集積所の地面に突き立っていた金属製の標識を掴む事に辛うじて成功した。 「ぐぅっ・・・・・・っ!!」 急激な遠心力による激しい衝撃で機体が軋む。 運動ベクトルが唐突に変わったザメルは掴んだ標識を軸に半回転、ポールに打ち付けられていた金属プレートを弾き飛ばし「左手」のマニュピレーターをもぎ取られたものの、なんとか敵の置き土産に突っ込む事だけは回避したのである。 負け惜しむ様に黒い塊は片手を失ったザメルの背後で傲然と爆発を起こした。恐らく起爆タイマーを内臓した対MS用重地雷の類であろう。 「なんてこと・・・あのMSは武器の塊だわ・・・!」 「うっ・・・げほっげほっ・・・・・・!!」 表情をこわばらせたセイラの背後でハマーンが苦しそうに咳込んだ。 「ハマーン!?」 「のどに・・・げほっ・・・へ、へいきだっ・・・!」 強がるハマーンだが、シミュレーションでは味わった事の無い不規則で強烈な遠心力に面食らっているのは明らかだ。 急がなければとセイラは焦る。 戦いが長引くほど、体力の無い自分やハマーンとって不利な状況に追い込まれてしまう。 まずは何としてでも距離を取って――― 「!」「!?」 横合いの砂煙を抜け、またもこちらに向けて全速で正面突撃を敢行してきた敵に、2人の少女は凍りついた。 戦いのセオリーを全く無視した、あのアムロの心胆すら寒からしめたガンタンク部隊の捨て身の戦法は少女達に対しても、着実に心理的なアドバンテージを取りつつあったのである。 「この・・・!」 慌ててバルカン砲を向けるハマーンだが、敵の斉射するボップガンの衝撃で照準を定める事が出来ない。 遂には激しく機体をぶつけられた瞬間、スッと下半身の力が抜けた彼女は恐怖の悲鳴を上げていた。 「ハマーン!敵を引き剥がして!!」 ガンタンクに後ろから圧し掛かられた状態で絡み合った2体のMSは、山積みになっていた廃棄コンテナに突っ込んだ状態で動きを止めている。 「うう・・・」 「しっかりしてハマーン!はっ!?」 後部座席で朦朧となっているハマーンを振り返ったセイラは、けたたましく鳴り始めたアラートに視線を移し、正面モニターの映像に息を呑んだ。 視界が真っ赤に染まり、波打っているのである。 「これは・・・火!?」 明らかにザメルの装甲が炎に覆われている。 まさか武器庫に引火したのかと絶望的になりかけたセイラだったが、幾つかの外部モニターの切り替えでその導引を見出した。 115 :1 ◆FjeYwjbNh6:2013/04/11(木) 18 30 34 ID lKXfDKJM0 「火炎放射器!!」 信じがたい事だが、敵MSがザメルに圧し掛かり、こちらをホールドしたまま火炎放射を敢行しているのだ。 砲弾を満載したMS同士である、片方が爆発すれば当然もう一方も無事には済むまい。 しかし火炎を浴びせかけ続ける敵には一切の躊躇が無いように見える。まさに理解不能の攻撃だが、これは紛れもなく現実なのだ。 「こちらを道連れに自爆するつもり!?ハマーン!!ハマーン!!起きなさい!!」 混濁していた意識の奥底に何か大切な呼びかけを聞いた気がした瞬間、ハマーンの意識は急速に覚醒していった。 「あ・・・ここは・・・」 「良かった、まだ戦闘中よハマーン。やれて?」 すぐに状況を理解したハマーンは、心の中で不甲斐ない自分を叱咤しつつも敢然と前を見据えて瞳を上げた。 「もちろんだ!」 「頼りにしているわ」 モニターを凝視したハマーンは一転、現在ザメルが陥っている異常な状態に気付く。 「火!?なんだこれは、一体・・・うっ・・・!」 「あ・・・!?」 電流の如き軽い頭痛を覚えたセイラは顔を顰めた。まるで時が止まった一瞬にハマーンと会話を交わした気がしたのである。 「よし、判った!!」 そう言うなりハマーンはザメルの上半身を軋ませながら、残った右手で敵MSを引き剥がしにかかった。 自らの置かれた状況を完璧に把握し、打開策を探っているのだ。 一方のセイラは外部モニターを駆使して機体チェックを再開した。こうなれば二人乗りを生かした分担作業が可能となる。 彼女はその時「なぜ急にハマーンが状況を把握できたのか」とは考えもしていなかった。 「敵の機体がリアスカートに引っ掛かっているわ、これじゃ・・・!」 思いきりホバーを吹かすも、コンテナに埋まり敵MSを引きずる格好になっているザメルは身じろぎすら出来ない。 「バカな・・・何を考えてるんだ・・・!?」 火炎放射は続いている。ハマーンは信じられないと震えた声を出した。 明らかな誘爆狙い・・・としか思えない。しかしここで相打ちに持ち込もうとする意図が理解できないのだ。 「なぜ・・・!?」 敵パイロットは命が惜しくないのだろうか? まるで、敵味方関係なく、死ぬまで戦い続けるという狂戦士に対した時の如き得体の知れない冷たい恐怖がハマーンの身体を這い上る。 「理由を考えるなって、アムロが言っていたわ」 「え・・・」 冷静な口調に意表を突かれ、ハマーンは前席に座るセイラを見おろした。 116 :1 ◆FjeYwjbNh6:2013/04/11(木) 18 31 42 ID lKXfDKJM0 「理由を考えようとすると動きが止まる、だから緊急の時は目の前の危機にいち早く対処するだけの方がいいって。 相手の都合を考えるのは後回しでいいって」 「アムロが・・・」 確かにここで敵の心情を理解したとしても状況は変わらず意味はない。 アムロの顔を思い浮かべたハマーンは、萎みかけた勇気が再び湧き出る気がした。 「奥の手を使いましょう。よくて?」 という、セイラの提案に 「ん!なら、操縦をこっちに回して!!」 と、ハマーンは嬉しそうに口角を上げて答え、12歳の少女にそぐわぬ不敵な表情を浮かべた。 ガコッ!! くぐもった鈍い金属音と共に、砲台部分ともいえる後部スカートが切り離され、ザメルが「立ち上がった」。 膝を伸ばし、文字通り「2本の足で」立ち上がったのである。 アムロが搭乗したカーキカラーのザメルと彼女達モスグリーンのザメルは厳密に言えば同型機ではない。 セイラ達のザメルは強大な680ミリカノン砲台ユニットを分離可能とし、二足歩行型MSとしても運用できる様にとコスト無視で試作された前期型である。 つまりこれは知る人ぞ知る、前期型YMS-06Mザメル(メルザウン・カノーネ)のみに盛り込まれた隠しギミックであった。 「こんのぉあっ!!」 呆気に取られ、思わず火炎放射を止めた敵MSを思い切りザメルは「蹴りつけ」た。 パージされたザメルの後部スカート部を抱きかかえる格好で勢いよく横転したガンタンクはぴくりとも動かない。 全高13.7Mのガンタンクが横倒しになったのであるから内部に掛かる衝撃は相当のものであった筈である。 パイロットは良くて失神、運が悪ければ命を失っている事だろう。 しかし逆三角形に両目を釣り上げたハマーンは相手の様子を伺いながら、ホバーを使わぬ二足歩行でじりじりとザメルを後ずさりさせ始めたではないか。 「な、何をするつもりなの!?待って!待ってハマー・・・キャ――――――――――――――――――――――!!」 セイラの甲高い悲鳴がドップラー効果で戦場に尾を引いた。 ただならぬハマーンの様子に不穏なものを感じ取った彼女が声を上げた時にはもう、ザメルの巨体は猛烈な加速と共に宙を舞っていたのである。 「おりゃー!!!」 とどめとばかりに助走をつけたジャンプキックをガンタンクの底部に見舞ったザメルは地響きを立てて着地した。 シャフトがへし折れ、明後日(あさって)の方向に体をよじりながら地面にめり込んだガンタンクは再起不能である。 「・・・見たか、XAMEL キック!!」 余韻に浸るハマーン。実は彼女もサイド3で例のTV番組を男の子達に交じって隠れ見ていたクチであった。 「いたた・・・やりすぎよハマーン」 ヘルメットを脱ぎながらセイラはぐったりとシートに頭を預けた。髪の毛がいく筋か顔に掛かるが払い除ける気力も出ない。 彼女の知る限り、MSの白兵戦とは断じてこういうものでは無いはずだ。 117 :1 ◆FjeYwjbNh6:2013/04/11(木) 18 32 41 ID lKXfDKJM0 『よう、どうやらやっつけたみたいだな。こっちもケリがついたぜ』 セイラが気怠く瞼を開くとモニターにはソンネンのニヤニヤ笑いが映し出されている。 気を取り直したセイラが眼下へモノアイを向けると、白煙を燻らせて沈黙する敵機のそばに無傷のヒルドルブが見えた。こちらは危なげなく完勝したらしい。 恐らく敵の捨て身の攻撃も、一対一では百戦錬磨のソンネンに通用しなかったのであろう。 『お前達が敵を減らしてくれたおかげで楽させて貰ったぜ。ま、なんだ、良くやったと褒めといてやる』 「有難うございますソンネン少佐、みんなハマーンの「あ―――――――――――――――――――――――っ!?」 会話中、いきなり大声を張り上げたハマーンにセイラとソンネンは閉口した。 『・・・なんだ、おい』 「わ、判りません、ハマーン、何があったの?」 「・・・ぇ?・・・いや、なんでも・・・・・・なぃ・・・」 信じられないものを見る様に視線を落としていたハマーンは、顔を上げた。 しかし視線が一向に定まらず、さっきまでの威勢の良さがウソのようにオドオドしている。 明らかに彼女はショックを受け、かつ、激しく動揺していた。 『?、何だか判らねえが、取り敢えず敵パイロットを引きずり出したらそっちへ合流する。遠くへ行くんじゃねえぞ』 「了解」 通信を切るとセイラは改めてシートから身を乗り出しハマーンを振り返った。 うつろに目を見開いたままモニターを見つめるハマーンの顔は血の気を失い真っ青である。 心なしか小さく震えている彼女の瞳には現在、何も映し出されていないに違いない。 いつもの自信満々な姿とは正反対の、途方に暮れるか弱い少女がそこにいた。 「ぐっ・・・・・・うっ・・・ふぐっ・・・・・・」 やがて微かに聞こえ始めた嗚咽は次第に大きくなり、ぽろぽろとハマーンの両目から涙が零れ落ちた。 異変を感じたセイラは急いでシートベルトを外し、立ち上がろうとする。 「く、来るなぁっ・・・!!」 「!」 「うっ・・・うっ・・・お願い、来ないで・・・・・・」 今にも消え入りそうな怯え声を上げたハマーンを見て、セイラは彼女がしでかしてしまった、ある生理的な失態に思い当たった。 『セイラさん、ハマーン、無事ですか!?』 「ひっ・・・アムロ・・・!?」 折も折、外部モニターにはザメルの近くで手を振るアムロの姿が映し出されている。 ついにハマーンは背中を丸め、両手で顔を覆ったまま動かなくなってしまった。こんな姿、彼にだけは見られたくないに違いない。 セイラは外部スピーカーに通じるマイクに口を寄せた。 「アムロ、2人とも無事だから心配しないで。少し機体のチェックをしてから降りることにします」 『判りました、それじゃ僕は使える物資を探してきます』 しっかりしたセイラの言葉に、アムロは安心して踵を返し、荷台の曲がったエレカに乗り込んだ。どうやら資材置き場のどこかで見つけて来たらしい。 アムロが離れていくのをモニターで確認し、セイラは後ろを振り返らずに口を開いた。 「ハマーン」 「・・・・・・」 シートの上で膝を抱え込んですすり泣くハマーンは固まったまま動かない。 「確か、あなたの後ろの荷物には兵士用の衣類が入っていたはずなの。確認して貰えて?」 「え」 ハマーンは涙で濡れた顔を上げた。 「初めての実戦で汗をかいたでしょう?風邪をひかないうちに急いで着替えてしまいなさい」 「う・・・うん」 弾かれた様に立ち上がったハマーンはシートの後方に手を伸ばし、小型コンテナを引き寄せた。 現金なもので当初は自分を押さえつけていた忌々しい箱が、今は宝箱のように思える。 「ほ、ほんとだ!・・・よかった・・・!」 セイラの言った通り、中には透明フィルムでパックされた真新しいジオン兵士用の制服がぎっしりと収められていた。 上下繋ぎのジャンプスーツである。一般兵用のそれは流石に彼女の体には大きすぎるがこの際贅沢は言っていられないだろう。 透明フィルムにプリントされたサイズを確かめたハマーンは、中でも最も小さいと思われる一着を引っ張り出し、安堵のため息をついた。 ジオンでは最もポピュラーな深い緑色の軍服。 耐ショック、耐熱に優れた厚手の生地で縫製されたそれは、通常はパーソナル・ジェットとセットで用いられる突撃装備用の武骨なものであったが、今のハマーンにとっては、どんなきらびやかなドレスよりも有難いものだ。 もう一つのコンテナからジオン謹製のミリタリータオルも幾枚か取り出したハマーンは、着ていた整備作業用のツナギを下着ごと脱ぎすてた。 118 :1 ◆FjeYwjbNh6:2013/04/11(木) 18 33 47 ID lKXfDKJM0 「どんなアンバイだ」 「ソンネン少佐」 アムロの足元の地面にはロープで両手足を拘束された連邦軍兵士が転がっている。 「小便臭いガキのお前が、良く一人でやれたもんだな」 ソンネンはアムロの後ろに横たわる敵MSの残骸を見上げながら笑った。 言葉は悪いが、これは最大級の褒め言葉であろう。常に物事を斜っぱに見る癖のある彼が、素直にアムロの手際に感服している。 ギョロリとした目で憮然とこちらを見上げている敵兵士は、これのパイロットであったのだろう。 「運が良かっただけですよ」 『小便臭い』云々の、ソンネンの揶揄を込めた軽口をファットアンクルの中でさんざん浴びせられ、彼の軽口は一種の枕詞なのだと諦観しているアムロはそう答えた。 あながちそれは謙遜でもなかったのだが、敵兵士が下から抗議の声を上げた。 「おい、ちょっと聞きたいんだがな、ジオンにはコイツみたいなガキのパイロットがウジャウジャいやがるのか?」 「さあな」 すげなく答えるソンネン。少なくとも尋問する権利は向こうには無い。 見たところ敵の兵士に大きな怪我はなく、すこぶる付きで元気もいい。運のいい奴だとソンネンは心中で笑った。 「胸糞の悪い話だ、地獄に落ちやがれ」 横になったままの敵兵士は顔の横の地面に唾を吐き捨てた。 「この人の名前はミロス・カルッピ、技術少尉だそうです」 「あん?技術少尉がなんで最前線でMSなんぞに乗ってんだ」 ソンネンの視線がカルッピを値踏みするように動く。カルッピは再び顔を上げた。 「それは尋問か」 「おお、ま、それだ」 「・・・俺達は囚人部隊なのさ。後は判るだろう」 囚人という穏やかではない響きにアムロは目を見張った。 しかしソンネンは平然としたものである。 「囚人ねえ。一体何をやらかした」 「予算横領、物資の横流し、着服、何でもやったぞ」 「へへへ、なかなか清々しいじゃねえか」 何故だか嬉しそうにソンネンはカルッピを引き起こして座らせ、両手が使えない彼にポケットから出した煙草を一本咥えさせてやると、ライターで火を付けた。 「俺ともう一人のクズワヨって奴は、いつもツルんでそんな感じの悪さを繰り返してた。 だからどんな罰を受けようが仕方がねえ、自業自得だ」 美味そうに煙を吐き出しながらカルッピは遠い眼をした。 「だが俺達の隊長は違う。軍にハメられた」 「なんだと」 「スパイ幇助の濡れ衣を着せられたのさ。特赦して欲しければ戦えってよ」 「・・・」 カルッピの横顔を見つめるソンネンは眉間にしわを寄せ、厳しくも複雑な表情を浮かべている。 アムロはこの朴訥な敵兵の言葉に嘘は無いのではないかと漠然と感じていた。 119 :1 ◆FjeYwjbNh6:2013/04/11(木) 18 34 34 ID lKXfDKJM0 「・・・やさぐれた俺達んとこに放り込まれた隊長は、身体を張って俺達に良い思いをさせてくれた」 ざっとあたりを砂混じりの風が通り過ぎ、アムロは思わず顔をそむける。 「だから俺達は隊長の為に命を懸ける。隊長が行けと言えば、活火山の火口にだって飛び込むぜ」 納得した様にアムロは頷いた。端から心服する人物に自らの命を捧げていなければ、あんな捨て身の攻撃が出来る筈はなかったのだ。 「だがもう、隊長が死んじまったんじゃあそれも終わりだ。どうにでもしやがれ」 ふと、生気を失った表情に変化したカルッピの咥え煙草の先端からぽろりと灰が落ちた。 「誰が死んだって言った?」 ニヤリと笑ったソンネンを、カルッピが驚いた顔で凝視する。 「い、生きてる・・・のか!?」 「向こうに拘束してある。お仲間も無事だ。 流石に無傷とは行かなかったみたいだがな、2人とも命に別状はない」 「ブラボー!!ウゥウワァオオォォォ!!」 「うおアチッ・・・テメッ!?」 カルッピが叫んだ瞬間、彼の口から火のついた煙草が飛び、むき出しの二の腕に当たって跳ね返ったが、ソンネンは苦笑して流した。 「先にお前の女隊長さんに尋問したのさ、だがあのヤロウ名前と階級以外何も喋りやがらねえ。 どうしたモンかと思ってたんだが、お前さんが思いの外素直な奴で助かったぜ」 「あちゃあ・・・しくじったぜ・・・俺りゃあ、てっきり・・・」 嘆くカルッピを見下ろしたままソンネンが片手を上げて合図を送ると、遠く離れたコンテナの陰からトラックタイプの車両が現れた。 運転しているのはセイラ、助手席にはハマーンが見える。アムロは想いきり、2人に向けて手を振った。 グリーンの軍服を着たハマーンも、少しだけはにかみながらこちらに向けて手を振りそれに答えた。 120 :1 ◆FjeYwjbNh6:2013/04/11(木) 18 35 37 ID lKXfDKJM0 「セイラさん!」 「アムロ、無事で良かった」 「ええ、お互いに・・・」 トラックから降りたセイラとアムロは暫し無言で見つめ合った。 やや疲労した様子ではあるが、風に流れる金髪を押さえ笑顔を浮かべる彼女を、アムロは改めて美しいと思う。 「どうしたのハマーン、早くいらっしゃい」 「う、うん・・・」 セイラは何故かトラックの助手席でもじもじしているハマーンに声を掛けた。 助手席側のドアから降車したハマーンは、おずおずとアムロの前に立つ。 「ハマーン、君も無事で本当に良かった、心配していたんだ」 「うん・・・その・・・セイラ姉様に助けられた」 「セイラさんに?」 アムロの視線にセイラはほんの少しだけ肩をすくめた。 ハマーンがセイラをちらりと仰ぎ見た視線には、今までの様な棘がない。 そして彼女が初めて口にした『セイラ姉様』というフレーズも、何だか新鮮な響きがある。 「服、着替えたんだね。なかなか似合うよ」 「えへへ」 両袖を肘までまくり上げたハマーンのジャンプスーツ姿は意外にもサマになっていた。 安全性を考慮するという意味合いでも、戦場では格段にこちらの方が適しているのは言うまでもない。 更に2人と会話を続けようとしたアムロだったが 「おいガキ、捕虜を下ろすぞ。ぼさっとしてねぇで手伝え!」 「は、はい了解です!」 トラックの荷台を開けたソンネンにどやしつけられ、慌てて彼の元に馳せ参じるしかなかった。 「隊長さんて、女の方だったんですね」 エレカの荷台から降ろされた敵兵の2人を見てアムロは目を丸くした。 「・・・フン、カルッピ、どうやらアンタ余計な事をペラペラと」 「あ、いや、済まねえ、この通りだ」 「まあ良いじゃねえすか隊長、また三人こうやって無事に再会できたんだし」 「やかましい!お前は黙ってなクズワヨ!!」 セイラとさほど体格の変わらぬ小柄な女性に、大の大人2人が恐縮しまくる図と言うのは何とも珍妙であった。 「あ、それじゃあ、身体を張ってというのは・・・痛っ!?」 「小便臭いガキのお前はそこまでにしときな」 呟く様な言葉を漏らしたアムロの頭を強く抑え込んだソンネン。 彼はアムロの頭に置いた手をそのままに、セイラとハマーンを振り返った。 「んで、そっちの小便臭い小娘2人は」 ギンッ ソンネンは、半笑いで「イ」の発音をしかけた表情のまま顔を引き攣らせた。 いつもの如くの軽口を叩きかけた瞬間、風圧が感じられる程の強烈な殺気を2人から浴びせ掛けられたのである。 共に切れ長の瞳を持つ端正な顔立ちの少女2人が氷の刃の如き凄絶な眼光を向け、怒りの表情で睨み付けて来るのだ。 ソンネンにしてみれば因果応報とはいえ、何故今回に限って、という疑問を禁じ得ない。 運悪くソンネンの後ろにいた為にワリを食う形で2人の眼光に晒されたアムロは、彼女達の背後に揺らめく恐ろしげな影までハッキリと見てしまった。 「・・・ソンネン少佐。この際はっきり申し上げておきますが・・・以後、下品な物言いは謹んで下さい・・・」 ゴゴゴというSEをバックに、まるで氷のナイフで切りつけて来るが如くの、セイラの良く通る声が響く。 硬直するソンネンの陰でアムロは改めて震えあがっていた。 一体何が彼女の逆鱗に触れたかは知る由もないが、ある特定のシチュエーション下において、セイラが極めて恐ろしく変貌する事を彼は経験で知っている。 「・・・」 無言でツインテールを逆立て、真っ赤な顔、逆三角形の双眸で突き刺す視線を向けて来るハマーンの形相も、これまた凄まじい勢いだ。 まるであたりの温度が一気に数度、低下した気さえする。 121 :1 ◆FjeYwjbNh6:2013/04/11(木) 18 36 19 ID lKXfDKJM0 「ひっひっひ・・・このオヤジをびびらすなんざ、アンタ等もなかなかやるじゃないか」 凍りついた時間を解放したのは、何と拘束されたままの敵の女隊長であった。 小娘にやり込められる上官の姿に、立場を越えて溜飲が下がったのであろう。 「ちっ・・・」 ばつが悪そうに頭をかくソンネン。アムロも呪縛が解けたように肩の力が抜けた。 「そっちの少年!」 アムロはびくりと身を竦ませる。件の女性兵士が馴れ馴れしく声を掛けて来たのである。 粗野な感じがセイラとは対照的な女性だが、その風貌は意外に整っている。鼻っ柱は相当に強そうだ。 「アタシはアリーヌ・ネイズン技術中尉だ。こっちはドロバ・クズワヨ曹長」 「いいんですかい隊長?」 「構わないさ、状況は変わりゃしないよ」 「まあ、確かに」 突然オープンになった女隊長と敵兵士のやりとりにソンネンは顔をしかめた。 こちらに女子供が多くいるのを見て敵は明らかに緊張感を緩め、あろうことか場の主導権を握りにかかっている。 敵味方の馴れ合いは怖い。下手をすると何かのはずみで形勢が逆転しないとも限らないからだ。 正直な所、捕虜達の処遇は現在のソンネンの手に余る。 この3人をどこかの部隊に引き渡すにしても、作戦前のこのタイミングではすんなり事の運ばない可能性が大だ。 辛うじて、ここは最前線のはずれに位置する名もなき物資集積所であった為、機密めいたものは何もないのが唯一の救いだと言えるだろうか。 自分一人だけだったなら最悪、後腐れの無い手段も取れたのだが・・・と、ソンネンは幼な顔のハマーンを見やった。 「お前ら、これからどうするつもりだ」 「はあ?アタシ等は捕虜だよ?どうするか決めんのはそっちだろうが」 「ククク違いねえな。ガキ共、ちっとばかし離れてろ」 何かを決意したらしきソンネンはアムロ達を下がらせるなり右手で銃を構え、ポケットから取り出したナイフを左手に持つとアリーヌ達3人が拘束されていたロープを次々と切り裂いてゆく。 呆気にとられている一同を無視して結局ソンネンは三人を解放してしまった。 「ソンネン少佐!?」 「黙ってろガキ、責任は俺がとる。 それにこう見えてこっちの2人はアバラと足をやってる。武器もねえから何も出来ねえ」 慌てて声を上げたアムロをソンネンは制した。 「・・・何のつもりだい」 手首をさすりながら発したアリーヌの訝しげな問いに、ソンネンは顎で荷台の曲がったエレカを指し示す。 「あいつをくれてやる。何処へなりと行っちまいな」 「何だって!?アタシ等を見逃すってのかい!?」 ソンネンの言葉に驚いたのは彼を除くその場の全員だったが、ソンネンには悪びれた様子もありはしない。 122 :1 ◆FjeYwjbNh6:2013/04/11(木) 18 37 05 ID lKXfDKJM0 「あいにく俺は厄介事が嫌いな性分でな、さっさと行かねえと撃ち殺すぜ」 「ふ、怪我人を・・・南極条約を知らないのかい」 「ヘッ、囚人共に言われたかァねぇな」 「隊長、こりゃチャンスですぜ!このまま軍に戻らず、ずらかっちまいましょう」 喜色を浮かべたカルッピを驚いた顔でアリーヌは睨み付けた。 「・・・貴様、もう一度言ってみろ」 「何度でも!どうせノコノコ戻ったって、豚箱に戻されるか死ぬまで使い潰されるだけだ」 「俺もそう思います」 「クズワヨ」 足を痛めているクズワヨは少しだけ顔をゆがめた。 「隊長の気持ちは判りますがね、この広い戦場で『奴』と出くわす確率は極めて僅かだ。 だったら他の方法を考えた方が良い」 「他の方法・・・」 「そうです。俺らが自由に動けるようになりゃあ幾らでも方法は見つかるはずだ。 このままじゃ奴を探し出す前にこっちがくたばっちまいかねない」 「まあしかし、隊長がどうしてもってんなら俺等は地獄の果てまでお供しますがね」 片目をつぶったカルッピを見て黙り込んだアリーヌに、ソンネンは拳銃を構え直した。 「会議は終わったか?なら早くしな、それとも」 「判ったよ。アンタのご厚意に甘えさせてもらう事にしよう。カルッピ、手を貸しな」 唯一大きな怪我の無いカルッピが2人をエレカに押し上げる。 ここでの上官であるソンネンが彼らの処遇を決定した以上、アムロ達はその作業を見守っているしかない。 「・・・取り敢えず礼は言っておくよ。生きていられたら、いつか借りは返す」 「いいから早いとこ行っちまいな」 助手席に座ったアリーヌの言葉を、追い払う様な手つきでソンネンは煩そうに聞き流した。 「そうだ。一つ良い事を教えてやろう」 「あ?」 「クライド・ベタニーという男に気を付けな」 「なにっ!?それはどういう意味だ!?」 聞き捨てならない情報に流石のソンネンも真顔になった。アムロ達も驚いてアリーヌを見つめる。 「アタシは奴に復讐する為に戦っていたのさ、本当はこの手で息の根をと思ってたんだけど・・・ この際、アンタ等がどうにかしてくれりゃあ、それで良しとしよう」 「・・・」 「アンタ等が首尾良くやってくれりゃあそれで良いし、そうならなけりゃ奴が何処にいようとアタシが地獄の果てまで追い詰めて・・・必ず」 「隊長」 あまり喋りすぎるとせっかく解放してくれた敵の気が変わりかねない。 クズワヨのそういう懸念を感じ取ったアリーヌは口を噤み、ソンネン等に一瞥をくれると連邦軍の部隊が展開しているであろう方向とは逆方向にエレカの進路を取り、そのまま走り去っていってしまった。 「あの人の言ってたクライドって、何者なんでしょう」 「・・・やれやれ、最後の最後で面倒臭え事を聞いちまったな。 だが、どうやら放っておく訳にもいかねえようだ」 アムロとソンネンが話していると、セイラがアムロのそばに近づき、ソンネンに目を合わせた。 「もしかしたら、スパイなのではないでしょうか」 「ス、スパイ!?」 アムロが驚くが、ソンネンは真顔のままだ。 「いきなりだな」 「ただの勘ですけれど」 「女の勘って奴か。そいつぁ・・・」 唇をゆがめて言葉を煙らせたソンネン。果たしてその後には「信じられる」「信じられない」と、どちらが続いたのであろうか。 123 :1 ◆FjeYwjbNh6:2013/04/11(木) 18 37 39 ID lKXfDKJM0 「私は、あの人達に引き金を引いていたのか・・・」 じっと3人の連邦兵が消えた荒野を見つめ、ぽつりと呟いたハマーンの肩をセイラはそっと抱いた。 砂混じりの風が強くなり始めた荒野、風に髪を弄られて寄り添い立つ2人。 アムロは、戦いの中で彼女達に育まれたのであろう絆を感じずにはおれない。 「アムロ、あれを!」 突然何かに気付いたハマーンが空の彼方を指差した。 逆光に目を細め、良く目を凝らすと確かに地平線に近い空にポツンと浮かぶ黒いシミのような飛行物体が、ローター音を響かせながらこちらへ向かって来るのがはっきり識別できた。 「・・・おい、警戒態勢だ!お前らは岩陰に隠れてろ!!」 ジオンの飛行機にしては見慣れないそのシルエットにソンネンはヒルドルブへ走る。 しかしアムロは笑顔で彼を呼び止めた。 「待って下さい、あれは味方です!!」 少しずつ大きくなる機体は色こそ緑に塗り替えられているものの間違いなく【青い木馬】の艦載輸送機【ガンペリー】であった。 『アムロ准尉!よくぞ御無事で!!』 そう外部スピーカーを通じて上空から喜びの声を掛けたニムバスは、副操縦席のバーニィに目くばせすると彼等の眼前でガンペリーを90度横に向け、コンテナに大きくペイントされたジオンのエンブレムを露わにしつつ着陸態勢に入った。 185 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2013/08/25(日) 20 41 12 ID dXrWvj9g0 [2/9] 青い木馬隊の駐屯するキエフ鉱山第123高地。 灼熱の太陽が中天を望むこの時刻になっても、ハンガーの中では前夜からの突貫整備が引き続き行われており、作業員の顔に疲労の色は濃い。 しかし、決戦近しの雰囲気が場の空気を張りつめさせ、疲れを感じぬ異様なテンションで作業は進行していた。 「予備のシャフトを回してくれ、確か7番ケージに幾つかストックがあったはずだ」 「解りました」 「ああそれからリコライザー計数は400から800の間でいい」 【真紅の稲妻】たるジョニー・ライデン中尉の指示に、ベテランの整備兵は苦笑した。 「やけに狭いですね、まあ中尉なら大丈夫なのでしょうが」 「ふっふっふ、そういう事だ」 愛機イフリートの足元で胸を張り、自信満々に笑うライデンにつられて周囲の整備兵も笑う。 名の知られたエースパイロットであるにもかかわらず気さくな彼は、整備兵からの人気も高い。 いや、むしろ彼を遠ざけ蛇蝎の如く忌み嫌うのは「無能な上官」のみに限定される、と言っても過言ではないだろう。 「まともな上官」であるならば、どんな不遜な態度を取ろうが常に圧倒的な戦果を上げ続ける彼を、やがて認めざるを得なくなるからである。 「おっと・・・」 眼の端に赤い軍服を確認すると、ライデンが動いた。 「すぐ戻る。整備を続けてくれ」 「了解です」 整備兵達の輪から外れ、急ぎ足で近づいてくるライデンにシャアは軽く手を上げた。 「ご苦労だな、ライデン」 「どうした大将、何か問題でも?」 「いや、こちらは目途がついたのでな、ハンガーを巡検中だ。そちらこそ問題は無いか」 「決戦は明日なんだ、間に合わせるさ」 少し疲れた顔で笑うライデン。が、そこにはエネルギーが満ち溢れており、決して戦意が衰えている訳では無い事が誰の眼にも明らかだ。 「これも姐御がウラから手を回してあれこれと物資を調達してくれたおかげだな」 「うむ。シーマ中佐の手腕にはいつも感心させられる。彼女がいなければ、今度の作戦も不可能だっただろう」 「そんな事より、だな」 エホンとライデンは咳払いしたのち声をひそめた。 「彼女はいいのか」 ハンガーの喧噪にかき消されそうな声音だったが、シャアには確かにそう聞こえた。 「・・・?、何のことだ」 「彼女だ、彼女」 「・・・ミハルの事か」 このやろうという目つきでライデンは睨む。 「じれってえな、テメエの彼女ったら他にいねえだろうが」 「・・・すまない」 ライデンが何をいらついているのか全く判っていないシャアは仮面の向こうで怪訝な目をしている。 「あー・・・彼女をどうするつもりだ」 抑揚のない声でライデンが問う。 「どうする、とは?」 「お前、なんで彼女をニムバス達に同行させなかった」 「?」 質問の意味がさっぱり解らない。 「例の作戦が始まったら敵も必死で反撃してくるだろう。 俺達は速攻を望んじゃいるが、戦局ってのはいつ何時どう転ぶか判らねえ。【青い木馬】も無傷じゃ済まねえ可能性がある。 このまま作戦に突入して彼女を、直接の戦火に巻き込んでいいのか」 「な、なんだと!?」 電光に打たれたかの如く硬直するシャア。 「お前なら、何とでも理由を付けて彼女を安全な場所へ避難させる事ができただろう。 俺はてっきりそうするもんだと思ってたんだ。 だが今日になってもミハルはまだ【青い木馬】にいるじゃねえか。いいのか、このままで」 「わ・・・私は、そんな事を・・・・・・!」 呆然と佇むシャア。その間、数秒。 「考えたことも無かった、ミハルが私のそばを離れる事など考えも・・・いやしかし・・・・・・!」 「おいおいおい」 ぐらりと上体を崩したシャアの腕を慌ててライデンは引っ掴んだ。 「そうか、お前の言う通りだ・・・私はミハルの事など何も・・・何という事だ」 「お、おいしっかりしろ大将、よろけてる場合じゃねえぞ」 ふらつくシャアを抱える様にライデンは急いでその場を離れた。 こんなシャアの姿を兵達に見せたくはない。総大将には泰然と構えていて貰わねば困るのである。 「いいかい?」 いつもの如くミハルが【青い木馬】のキッチンで洗い物をしていると、何時かの様にシーマが顔を出した。 ミハルの両手には泡の付いた金属製の大きなボウルが握られている。洗浄機に入りきれないこれはどうしても人の手で掃除をせねばならない。 186 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2013/08/25(日) 20 44 40 ID dXrWvj9g0 [3/9] 「シーマ中佐、どうしたんだい」 「重要事項の伝達さ。明日のランチは無しだよ」 「え?あはは、そんな事をわざわざ?」 ミハルは笑顔で顔にかかった一筋のほつれ毛を、泡の付いた手の甲で顔の脇に流した。 「うーん、本当はもう一つ・・・」 「なんだい、あらたまって」 「実はねえ、見ちまったのさあ」 「見た?何を」 「おまえが夜、シャア大佐の部屋に入ってくとこ」 ミハルの取り落とした金属製のボウルが派手な音を立て、泡を飛び散らせながら調理室の床を転がった。 「あ~、責めるなんて野暮なことはしないよ、勘違いしないでおくれ」 「・・・」 「悪いと思ったんだけど、何日か見張らせてもらったよ。おまえ、毎晩・・・」 普段は健康的なミハルの顔面が一瞬で蒼白となった、だが、そんな彼女を見つめるシーマの眼は優しい。 「ちゃんと、避妊はしているかい?なんなら」 「そっそんな!!」 一転、真っ赤な顔で両腕を突き出したミハルはその体勢のまま小刻みに両の掌を振った。 「恥ずかしがらなくてもいいよ。大丈夫、誰にも漏らしたりしてない」 「そ、そうじゃなくって、大佐とは、その、何も・・・!」 「ははは、男と女が毎晩一緒にいるんだ。何もなかったら逆に不自然ってもんさね」 「・・・」 「ゴメンよ、アタシゃ疑り深い性格でねえ。 この前ああは言ったけど、何か弱みでも握られてるのかもと余計な心配も少しだけ、しちまってたのさ」 「・・・」 「けど、安心したよ。おまえと大佐がそういう仲なら・・・」 「・・・」 悲しそうに何度も首を振るミハルを見てシーマは眉をひそめる。 「ちょっとお待ち。・・・まさか、おまえ達、本当に何も?」 「・・・・・」 始めはからかいの笑顔を向けていたシーマだったが、ミハルの様子に嘘がない事を確信した途端に笑顔が消えた。 「あはは、た、大佐が、あたしなんかに興味を持つ筈ないよ。そんなの、当たり前じゃないか」 「・・・何を言っているんだい。あのガキはおまえにゾッコンさ、アタシには判る」 「そんな事、あるわけないよ!」 シーマは呆れてミハルを見つめ、片手を自らの腰にやった。 このもどかしい少女をどうしたものか。 「だって、あ、あたしは難民だし、この通りちっともキレイじゃないし、その、胸だって小さいし・・・」 無理に明るく振舞おうとしても、表情の端々にはどうしても悲しみが滲み出てしまう。 殺伐とした戦場においても輝く様な美貌を失わないセイラの笑顔がちらりとミハルの脳裏をかすめる。 「おやめ。アタシは卑屈な子は嫌いだよ」 シーマはぴしゃりとミハルの言葉を遮った。 しかし、普段あれほど明るく闊達だったミハルの胸中に巣食っていた意外なコンプレックスに驚きを隠せない。 女傑シーマの一喝にびくりと首をすくめたミハルが恐る恐る視線を上げると、なにやら顔を横に向けたシーマの眉間には深い縦線が刻まれている。 ただ、この静かな怒りはミハルに向けたものではない事だけは判る。 「あのガキふざけやがって・・・女の気持ちを、一体何だと思っていやがるんだ」 「ど、何処へ」 「決まってるじゃないか、あのヒョウロク玉をぶっちめに行くのさ」 「や、やめておくれよ!!」 「ミハル」 「・・・大佐は素敵な人で、あたしの命の恩人なんだよ。だから、あたしは少しでもお役に立とうって決めたんだ。本当に、それだけでいいんだよ」 必死で両手を広げこちらの行く手を阻もうとするミハルの姿に、シーマは我慢がならなかった。 たとえ振り向かれることが無かろうが好きな男に尽くし抜こうという心掛けは、いじらしいかも知れない。だが、まるで自分に言い聞かせるような言葉は、痛々しい。 「それじゃあ聞くが」 わざと厳しい顔を作ったシーマが問う。 「もし大佐が他の女にたらし込まれたとしても、おまえはそれでいいってのかい」 きつい問いにミハルはびくりと縮み込んだが、やがて悲しい笑顔を浮かべた。 「・・・いいよ。大佐が選んだひとだもの、きっと、素敵な女性に違いないもの・・・」 「ば、バカを言うんじゃないよ、全く!」 そう返されるとは思ってもいなかったシーマは堪らずミハルに一歩近づいた。 「アイツが好きなんだろ?そうやって、やせ我慢をするんじゃない」 真剣な顔で瞳を覗き込んできたシーマにミハルは静かに首を振る。 「昨日『青い木馬』に来た145小隊の人数が・・・前と比べてすごく減っていたんだ」 シーマの表情が固まった。 187 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2013/08/25(日) 20 45 42 ID dXrWvj9g0 [4/9] 第145小隊。腕利きの12名で構成された偵察部隊である。 彼らは運悪く任務遂行中に敵部隊と鉢合わせしてしまい壊滅の危機に陥った。 結果的にはマッシュ率いるMS隊による救援が間に合い、辛くも死地からの脱出に成功したものの、ベテランの戦闘員3名を失い、負傷した4名がオデッサへ後送されていったのである。 ジオン軍キエフ駐留部隊にとって、オデッサ外周に陣取り、つるべ打ちの如く突撃を敢行していた一時の連邦軍の勢いが弱まる中で被った久々の損耗。 現時点で人的被害を何よりも回避せねばならないこちらとしては、何とも痛すぎる事態といえた。 「・・・もし・・・大佐が大ケガしたり・・・し、死んじゃったら・・・どうしよう・・・」 何かをずっと堪えて来たミハルはとうとう、震える声で忍び泣きを漏らした。 何の事はない、戦場でいつ、愛しい男に舞い降りるか知れない死神を恐れる少女にとって、自分の恋など二の次だったのである。 「・・・」 嗚咽するミハルをしっかりと抱き止めたシーマは眼を閉じた。少女の髪からは太陽の香りがする。 考えてみれば――― しっかり者といえど、戦争の最前線に身を置く少女にとって、思うところは多かろう。 「恋に焦がれて鳴くセミよりも、鳴かぬホタルが身を焦がす・・・か」 「・・・?」 「今のおまえみたいなのを言い表した大昔の言葉だよ。 まァ、おまえみたいないい子に好かれてアイツは果報者だって話さ」 不思議そうに見上げるミハルに、セミやホタルの実物を知らないシーマは苦笑する。 「・・・まったく、おまえ達は一体全体どういう関係なんだい。包み隠さずにイチからちゃんと説明をおし」 この女傑には如何なごまかしも通用しないだろう。 腕組みをしたシーマを前にして、ミハルは観念するしかなかった。 「私は、自己中心的にしか物事を考えられん欠陥人間だ」 呆然自失の体で備え付けのベンチに座り込み、右手で頭を抱え込んだシャア。 その横の壁に腕組みして立ち、彼を見下ろすライデンは無言である。 ハンガーの隅に設えられた簡易の休憩室。安っぽい飲料のサーバーには『故障中』と殴り書きされた紙が無造作に貼り付けられている。 いつもは誰かしらいるこの空間だが、今は珍しく彼等2人だけだ。 188 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2013/08/25(日) 20 46 22 ID dXrWvj9g0 [5/9] 「その事を教えてくれたのは他ならぬミハルだったというのに、私は・・・!」 「あの娘がそう言ったのか」 シャアを見ずにライデンが問う。 「・・・直接口に出した訳では無い。だが、彼女の・・・私に、いや、他人に対する接し方を近くで見ていればイヤでも気付かされる」 「すげえな、彼女は最強だ」 ライデン手放しのミハル賛辞である。 こう言っては何だが、このシャアという捻くれまくった男をここまで悔い改めさせるなど、彼女以外の誰ができるというのだろう。 「なあ大将、お前は知らんかもしれんが、兵たちの間ではミハルの人気、絶大なんだぜ。 何せ性格がいい。そして彼女の作るメシはとびきり美味い」 「知っている。そんな事は当然だ」 憮然としてシャアは顔を上げた。以前の食堂の一件で、それは肌で感じている。 「ほう、それじゃ熱烈な想いを綴ったラァヴ・レェタァーを何通も、彼女が兵達から差し出されているのも知ってるな?」 「なに」 思わずシャアは腰を浮かせた。 「初耳だ、ミハルはそんな事何も・・・」 「偶然俺がその場面に出くわしてな。悪いがこの娘は売約済みだとその場で全員のラブレターを没収して破り捨てた。いやあ恨まれたぜえ」 「・・・」 「その後、念の為、各部隊にミハルへの個人的アプローチ禁止を非公式に通達しておいた。 ふっふ、やっぱこういう場合、海兵隊隊長シーマ・ガラハウ中佐の名前は効くぜ」 どうやら無断でシーマの名前をちらつかせたらしい。 彼女にバレたらどうなるか想像するだに恐ろしいが、この男はどこ吹く風である。 「私の知らない所で大事になっていたのだな・・・ここは、礼を言うべきなのだろうな?」 「おう全くだぜ面倒掛けやがって。 だが、あの娘にはそんだけの価値があるってこったぜ大将。お前には彼女を守りきる義務がある」 「・・・そうだな」 力なく再びベンチに座り込むシャア。自己嫌悪系のダメージは思ったよりも深そうだ。 「ミハルはいい。彼女といると、毎日がその、何というか、とてもいいのだ」 「ふん。もっと素直に幸せだと言えこの野郎」 「ライデン、お前は何の下心もなく・・・他人に優しくできるか」 「・・・うーん」 天井を見上げるライデン。即答するのはなかなか難しい質問だ。 「優しくと言っても簡単ではない。相手の気持ちを考えてやらねばそれは単なる自己満足で終わるからだ。 しかし彼女はそれをやる。私にだけではない、ミハルはそれを誰に対しても自然にできる。 信じられんが、彼女はそうやって生きてきた。 そんな人間などフィクションの中でしか存在しないのだと決めつけていた私は、彼女に打ち負かされたのだ。完膚なきまでに」 シャアは静かに握り拳を作り、それを額に押し当てる。 「そして私はミハルを手放せなくなったと言う訳だ。彼女の安全など考えもせずにな。 このままでは彼女に危険が及んでしまう事を、お前の言葉で気付かされたのだ。自分勝手で自己中心的な、情けない男だ、私は」 自己批判をしながら本気で落ち込んでいる人間に追撃はできない。 そこでライデンはシャアが少しだけ落ち着くのを見計らい、思いつくままの言葉を口にした。 「ははは、まるで彼女、ニュータイプみてえだな」 「ニュータイプ・・・だと?」 ふと顔を上げるシャア。 悪評高いフラナガン機関のイメージが強いそれは、ミハルとは対極の存在に思える。 ミハルがニュータイプ。そんな事は今の今まで考えた事も無かった。 189 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2013/08/25(日) 20 47 18 ID dXrWvj9g0 [6/9] 「お前の親父さんが言ってたんだろ? アカの他人同士で互いを判り合うとかなんとか。それってよ、お互いを心の底から思いやるって事でも、あんじゃねえのかな」 「・・・!」 これは目からウロコの新説かもしれない。現にシャアはマスクの向こうの眼を瞠目させている。 「ミハルみたいな優しい人間が増えていきゃあ、そりゃあ世の中幸せになるだろうぜ。 実際にお前が、そうやって幸せになったみたいによ、皆が幸せになれる」 虚を突かれた様に黙り込んだシャアの心に、ライデンの言葉が少しづつ沁みわたって行く。 「そうか・・・人類の革新たるニュータイプの概念は、元々軍事利用などを想定したものでは無かった筈だ」 ゆっくりと、自らの言葉を噛みしめる。 「実を言えばなライデン、私は父の唱えたニュータイプ論を常々胡散臭く思っていたのだ。そんなに都合良く人間が超能力者に変われる筈は無いとな」 「おーお、実の息子にそうまで言われちゃ、親父さんも立つ瀬がないな」 「だが・・・『互いを心の底から思いやる』か。 父の言うニュータイプ・・・高い洞察力と状況認識力を持った人間というのが、そういう意味だとするならば話は別だ。 それならば、いつの日にか人類全体がニュータイプに革新するというのも夢ではないかもしれん。 何せ、特殊な能力も、飛び抜けた才能も必要としないのだからな」 「お、ちょいと甘っちょろいが悪くねえぜそれ。 アカの他人に勝手に心の中を覗き見られるのは御免だが、気持ちを酌んで貰えるなら感謝だってできるってもんさ」 「以前の私ならば、そんな夢物語と鼻で笑い飛ばしていただろう。しかし今は違う」 そばかすの頬を赤らめ、はにかんで笑うミハルの姿を思い浮かべたシャアは確信を込めて頷いた。 「現在ジオンや連邦で言われているニュータイプとは『戦争に利用できる何某かの能力者』を便宜的にそう呼んでいるだけだ。 だが私は、ニュータイプの本質とは、こちらの方が近しい様に思えてならない」 「なるほどなあ、ニュータイプってなあ、つまりは『優しい奴』てえ訳か。判り易いぜ。 ま、それになるにはまず、個人個人の覚悟と努力は必要だろうけどな?」 「ああ、ある意味理想的な人間像だ。半端な努力ではきかんだろう。特に私の様な人間には」 果たして自分にできるのだろうかとシャアは自問する。 そしてもし、人類全体が本気でこの理想を追い求めるとするならば、少なくとも拙速強引な手段を避け、じっくりと時間を掛けて社会や教育などを整え直してやる必要があるだろう。 簡単な事ではない。今の自分には全貌もハッキリと見えてはいない。 だが、道は険しいがやるだけの価値があるのではないかとも思える。 何より、もしこれが実現すれば、他ならぬミハルの望みを叶えてやれる、と、今更ながらにシャアは思い当たった。 「そいじゃあ、まずは身近な人物を思いやる事から始めねえとな?」 「うっ・・・」 ガックリと項垂れるシャア。 ニュータイプへの旗振り役はライデン言うところの『他人を思いやれる優しい奴』でなければ話にならないのである。 まことにもって、ニュータイプへの道は険しいと言わざるを得ない。 「あ、悪りい、足元を掬う気はなかったんだがな・・・ え~あ~・・・・・・何だ、ところでよ、お前、まだ彼女に手、出してねえのか?」 「・・・ああ」 強引すぎるライデン渾身の話題変えがこれである。 彼なりに一応フォローのつもりなのだろうが、話のギャップに口をきくのも億劫だ。一気に体が重くなった気もする。 「そりゃどうなんだ、余計なお世話かも知んねえが・・・」 「・・・正直、葛藤で頭がおかしくなりそうになっている」 もはや取り繕う気にもならないシャアに対し、ライデンは意外にも真面目な心配顔を浮かべている。 「お前なあ」 「ミハルは私に恩義を感じている。私に迫られたら断れん程のな。 男としてその弱みに付け込む事などできん」 「いや、そりゃそうかもだけどよ・・・」 「それに前にも白状したが、私の手は血まみれだ。この手で彼女を抱く事など」 「アンタ、ミハルの気持ちをちっとも判っちゃいない様だね。これだからガキは困るのさ」 突然、彼等の背にした壁の後ろからシーマが現れた。 どうやら彼等の会話はすっかりと聞かれてしまっていたらしい。 190 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2013/08/25(日) 20 47 47 ID dXrWvj9g0 [7/9] 「・・・シーマ・ガラハウ!?」 「うお、姐御、いつからそこに!?」 「はて、いつからだったかねえ」 とぼけるシーマ。この女傑の前では大抵の男共は形無しになってしまう。 「ライデン、貴様」 「いやいやいや待て待て大将、知らねえって!!」 「話はすっかりミハルから聞いた」 言いたいことは山ほどあるがと前置きしたシーマはシャアを見据えた。 気圧されまいと立ち上がるシャア。 「・・・彼女の気持ちと言ったな、それはどういう意味だ」 「直接聞けばいいじゃないか。あの娘はアンタの部屋にいる。 巡検はアタシに任せて、アンタはすぐに行ってやりな」 「いやしかし、大事な作戦を前に」 「ああその作戦中に指揮官がモヤモヤしてたら全軍の士気に関わるんだよ」 いつの間にか2人の立場は対等、いや逆転しているが、その場の全員にとってそんな事はもはや問題では無かった。 「・・・判った。後を頼む」 「ああ、任せな」 「感謝する」 風の様に立ち消えたシャアを見送ると、シーマは笑いながらため息を吐いた。 「感謝、か、随分と素直になったもんだねえ」 「いやあ驚いたぜ姐御、しかしあいつら、大丈夫かね」 「ふふ、さあて?今の2人は磁石みたいになっちまってるからねえ、目と目が合えば、あとはもう、言葉なんざいらないかも知れないねえ、んふふふふふ」 楽しそうに含み笑いを漏らす。 ライデンは知っている。これは何らかの企みが目論見通りに運んだとき特有の笑い方だ。 「ははあ・・・何となく判ったぜ姐御。あの娘を焚き付けたな?」 「人聞きの悪い。秘めた思いを吐き出させてやったと言っとくれな」 悪びれもせずに笑うシーマにライデンも苦笑するしかない。 まあ、こういった事(奥手カップルの面倒を見る)は彼女に任せておいた方が手っ取り早いかもしれないとライデンは思い直した。 例えその方法が多少強引であったとしても、である。 「それとライデン、アンタもまだまだ女の気持ちを判っちゃいないねえ」 「な、何だよ急に」 矛先がこちらに向いた事に戸惑うライデン。こういう場合は要注意だ。 「女ってなあねえ、好きな男から一時も離れたくはないもんなのさ。それがどんな危険な場所であろうがね。 訳知り顔で、そんな二人を引き離そうなんざ、ヤボの極みさね」 「そ、そんな事を言ってもよ、もし万が一の事があったらどうすんだよ」 「馬鹿だねえ」 すいと手を伸ばすシーマ。軍服姿の彼女だが、その仕草は艶めかしい。 「好いた男の腕の中で死ねるなんざ、それこそが女にとっての本望って奴じゃないかさあ」 ライデンの顎を撫でながら妖艶に笑う。 情念の深さでは誰にも引けを取らない女傑なのであった。 234 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/01/04(土) 12 43 30 ID 05oW2UKs0 デメジエール・ソンネン少佐からこれまでの状況を聞き終えたニムバス・シュターゼン中尉は、苦い表情で溜息をついた。 『准尉の安全を最大限に配慮した筈が、こうも裏目に出てしまっていたとは・・・』 味方に偽装した敵の不意打ちと、新型機動兵器群による強襲。 結果的にとはいえ彼等を最前線でもかくや、というレベルの危機的状況に、ニムバスの采配が追い込んでしまったことになる。 敵と直接対峙するキエフよりも遥か後方のこの地まで敵が侵入して来ている事態は憂慮すべきであろう。 しかしその窮地を自力で切り抜けたアムロ達は賞賛に値する。 安堵と共にニムバスは、誇らしげな視線をバーナード・ワイズマンと何やら話し込んでいるアムロ・レイの後ろ姿に向けた。 「ハマーン!まったく君って子は・・・!」 「きゃ・・・」 「待って下さい!もうハマーンは充分反省してます!」 ハマーン・カーンに詰め寄るバーニィをアムロが押し止めている格好である。 当のハマーンはというと、困り顔のセイラ・マスの後ろにさっと隠れた後に、おずおずと小さく顔をのぞかせた。 「結果的には僕もハマーンに助けられた。ここにこうしていられるのも、ハマーンの・・・」 「そういう事じゃない!甘やかしちゃ駄目だ!!」 バーニィの剣幕にアムロは驚いた。彼のこんなに激昂した姿は今まで見た事がなかった。 「・・・いいかいハマーン。俺達はチームで動いてる。 たった一人の勝手な行動がチーム全員を危機に陥らせる。それを君はもっと知るべきだ」 「・・・」 抑えた声で真剣に憤りをぶつけてくるバーニィから、勝気な瞳をぷいと背け、ハマーンは唇をへの字に曲げた。 彼女の気性からして、こういうシチュエーションではまず素直には謝るまい。それが判っているセイラとアムロは途方に暮れるしかない。 「ミハルが泣きそうな顔で君を探していたぞ」 「!」 びくりと大きく跳ね上がったハマーンは視線をバーニィに戻した。 「彼女だけじゃない、大佐だって、他の皆だって、休息を取っていた人も、手のすいている人は貴重な睡眠時間を削って君を捜索したんだ」 「あ・・・」 ぽろりとセイラの背後からまろび出たハマーンはそのまま呆然と立ち尽くす。 「複数の目撃者の存在で君の行方に目星がついたからようやく落ち着いたけど・・・一時は本当に大騒ぎにって、お、おい、ハマーン!!」 突然踵を返すと後方のガンペリーの陰に走り込んでしまったハマーンにバーニィは荒い声を上げた。 235 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/01/04(土) 12 44 11 ID NJAelHWE0 [2/6] 「ありがとうバーニィ、後は私に任せてちょうだい」 「は、はい、すみません出すぎた真似を・・・よろしくお願いします」 急いでハマーンを追い掛けてゆくセイラに頭を下げるとバーニィは恐縮した。 他人に説教など断じて自分の柄ではない。 しかし 訓練生時代から集団行動を誰よりも重視してきた。 だからこそここまで生き延びて来れたと自負もしている身としてはハマーンの身勝手な行動を到底見過ごす事はできなかったのである。 「やっぱりバーニィさんは大人ですね、僕ではあんな風に彼女を叱ることなんて出来ませんでした」 「やめてくれ・・・」 尊敬の眼差しを向けてくるアムロに背を向け、今度はバーニィが逃げ出す番だった。 「ハマーン?」 コンテナの陰で身をかがめ、何かを覗き込んでいるハマーンの思いつめた様子にセイラは眉をひそめた。 「はッ!?」 息を呑むセイラ。 少女の手にした大ぶりの軍用ナイフが、小さな背中越しに鈍い光を放つのが見えたのだ。 「あなた、いったい何をしているの!?」 「セイラ姉様」 こちらを振り返ったハマーンの瞳に狂気は感じられず、むしろ、明確な意思と決意が込められている。 「・・・お願いがあるの」 自らの小さな手には不釣合いな軍刀に目を落とし、ハマーンはしっかりとした口調でそう言いきった。 荷揚げ用リフトのサイドハッチを開き、ぐずるエンジンと格闘していたアムロは、誰かが近づいて来る気配を背中越しに察した。 「アムロ、何か手伝うことはないか」 「ハマーンか、助かるよ。それじゃその箱から・・・」 先ほどの一件以来しばらく姿を見せなかったハマーン。 だが、背後から掛けられたいつも通りの声に、作業に熱中していたアムロは手を止めず、横にある工具箱を指差した。 「これ?」 「そう、その中から」 横に並んでしゃがんだハマーンを見た途端、アムロの手からスパナが滑り落ちた。 236 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/01/04(土) 12 45 02 ID NJAelHWE0 [3/6] 「ハ・・・ハマーン!?ど、どうしたんだその髪!?」 ハマーンの髪が、砂混じりの風に短くふわりとなびいた。 彼女の桃色掛かった美麗な髪は、肩できれいに切り揃えられていたのである。 「セイラ姉様に切ってもらった。どうだ、似合うだろう」 「ハマーン・・・どうして・・・」 「じゃまだったから切った」 アムロは言葉を無くした。 「前から切りたいと思ってたんだ。その、わずらわしいと思って」 短くなった髪を一房つまみ上げて、少しだけおどけるハマーン。 アムロは悲しい顔で、ツインテールに整えられた自らの髪を、小さな鏡で角度を変えながら幸せそうに何度も眺めていたハマーンの姿を思い出していた。 この娘が自分の髪を邪魔だなどと思っていた筈はないのである。 「そんな顔をするなアムロ。アムロがそんな顔をすると・・・」 ふいに一粒、少女の目から涙が零れ落ちた。 「あ、あれ・・・?」 止め処なく流れ落ち始めた涙をどうすることもできず、少女はうつむいて何度も顔を両手の甲でぬぐった。 「あれ・・・あれ・・・おかしいな・・・」 「ハマーン」 一歩近付いたアムロに少女は慌てて背を向けた。 「・・・ちょっと顔を洗ってくる・・・」 「ぐはっ・・・!」 堪え切れず走り出そうとしたハマーンは 二人の背後から近付いて来ていたバーニィに前かがみの姿勢で思い切りぶつかってしまった。 「ぐほおぉ・・・」 膝からくず折れ、悶絶するバーニィ。 運悪くハマーンが右手の甲で涙を拭う体勢だったため、彼女の鋭角な右エルボーが突き刺すようにミゾオチにめり込んだのである。 237 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/01/04(土) 12 45 45 ID NJAelHWE0 [4/6] 「だ、大丈夫ですか」 アムロの声にしゃがみ込んだまま顔を上げたバーニィは、走り去る少女の後姿に違和感を覚えた。 「彼女、髪が」 「・・・ええ」 「二人とも、ハマーンの気持ちを察してあげてちょうだい」 やって来たのはセイラであった。 「それじゃやっぱり」 「そう。あれは彼女なりのけじめよ」 「え、え、げほっ!俺のせいですか!?」 むせ込みながら慌てるバーニィにセイラは首を振った。 「それだけではないわ。彼女は同じ失敗を繰り返さないよう、掛け替えのない髪を切って自分を戒めたの」 「まさか・・・あんな女の子が、そこまで自分に厳しくなれるなんて・・・」 慄くバーニィに、彼女はそういう子なのと頷くセイラ。 自分の髪を手入れしている道具でハマーンの髪を切った際、セイラは彼女の中に燃え滾る炎の様な魂を改めて感じていた。 向かいどころを誤ればあの紅蓮の炎は間違いなく彼女自身を焼き尽くしてしまうだろう。 そんな危うさをあの少女は孕んでいる。 が、カンと頭の良さを感じさせる物言い、勝気でいて繊細な感性、生まれ持った気品、素直で直線的な行動力、どれもいまだ発展途上ではあったが、だからこそ、それ等全てが彼女の大きな魅力だとも言える。 見るもの全てを魅了する炎のカリスマ性を彼女が発揮しだすのは、もうすぐだろう。 セイラは微かな不安が身内をよぎるのを感じた。それがどういった類のものかは判らない。 ちらりとアムロを見やり、セイラはざわめく胸中を無理やりに押さえ込んで平静を装った。 「ここにいたのか」 「アムロ」 転がっていた古タイヤに腰掛け、ぼんやりと黄昏を眺めていたハマーンはこちらを振り向いた。 逆光のため、表情は良く判らない。 238 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/01/04(土) 12 46 13 ID NJAelHWE0 [5/6] 「さっきはごめん。その髪型、すごく似合ってるって皆言ってた。僕もそう思う」 「リクエストしたんだ、セイラ姉様みたいにしてって」 裾広がりにふくらんだ髪は、そういえばセイラのそれに似ている。 ハマーンの横に腰掛けたアムロは、雲の出てきた地平線に目をやった。 天候は、これから未明にかけて荒れに荒れるらしい。 「そうだったのか。並んだらきっと、姉妹みたいに見えるよ」 「ミハルやセイラ姉様みたいに、やさしくて綺麗で、強い人になれるかな・・・」 消え入るようにポツリと漏らした少女の弱音を、アムロは聞こえなかったフリをした。 「戻ろうハマーン、ここからが正念場だ」 「うん。アムロのいるところが私のいるところだ」 悪戯っぽく笑って立ち上がったハマーンは不意に湿った風になぶられた。 乾いた土に染み込んだ埃っぽい水の香りがする。 「・・・雨の匂いだ」 そう言って短くなった髪をかきあげたハマーンはなんだか妙に大人びていて、アムロは思わず目を見張った。わず目を見張った。 291 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/07/23(水) 19 41 09 ID u8M96SRo0 [2/9] 「どうだ?」 ミガキの問い掛けにメンテナンスハッチの中に頭を突っ込み入れていた男は、上体を起こし上気した顔を向けた。 「噂には聞いていたが、いやあ実物はやはり凄い」 長身の男は眼前のMSをしげしげと見上げた。 ランバ・ラルからの要請でメイがその全身を白銀色に塗り替えたばかりのRX-78-2ガンダムである。 ガンダムが懸架されているハンガーベッドの周囲には、このMS専用のものと思われるパーツや備品の類が山積みになっている。 ここ【青い木馬】の第2デッキは、今やジオン製のMSをも格納整備する様になった第1デッキとは違い、このガンダムの為だけに存在している(メイ・カーウィンに言わせると「スペシャル」な)空間であった。 「何とかなりそうか」 「僕はこれの開発に直接関わった訳じゃない。が、技術は全て連邦製だ、問題は無い」 ブロンドの髪をオールバックに固めた優男は好青年風の笑みを浮かべる。 その自信満々な態度は職人肌のミガキにも安堵感を与えた。 「そうか良かった。これで更に俺達の・・・」 「!?ちょっと!」 そこへメイ・カーウィンが血相を変えて駆け込んできた。彼女の背後には例によってオルテガが巨体を揺らしながらドスドスと続く。 「あなた誰!?ミガキさん、これは私がアムロから預かった大切なガンダムなのよ!? 他のメカマンには勝手に弄らせないでってあれほど!!」 「い、いやスマン、そんなに怒るなメイ」 髭だらけで強面のミガキが年端もいかない少女に叱られているのを面白そうに眺めながら、当事者の青年はにこにこと笑っている。 「噂通り、元気なお嬢さんだね」 「なんですって」 メイは怒りの眼をオールバック男に向けた。やけに甘いオー・デ・コロンの匂いが鼻に付く。 良かった、と、メイは内心ほくそ笑んだ。 どうやら自分はこの男を嫌いになる事ができそうだ。 292 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/07/23(水) 19 42 26 ID u8M96SRo0 [3/9] 「あ~、メイこいつはな」 メイの背後で殺気を燻らすオルテガを制する様にミガキが割って入った。 「1031連隊から急遽回されてきたんだ、アムロと同じ、その、連邦軍からの『ころび組』だよ」 「!・・・亡命者ってこと?」 メイはもう一度ミガキ越しに男の顔を見た。男は相変わらず微笑みを絶やさない。 「しかもこいつは連邦軍の技術士官だった男だ。このガンダムを始めとするRXシリーズにも造詣が深いそうだ。 こいつにどうしてもRX-78が見たいとせがまれて、ついな」 「だからって!!」 「メイには悪いと思ったが、俺達には時間が無いのも事実だ。そうだろう?」 ぐっと言葉に詰まるメイ。 連邦軍の技術を解析し吸収してゆく作業は時たま壁にぶち当たる。 その壁を乗り越える為に掛かる時間と労力は確かに馬鹿にできないものがあった。 ここに連邦軍の技術に関するアドバイザーがいれば・・・そう望んだことが何度もある。 「僕が来たからにはもう安心だ。何でも聞いてくれて構わない。 いやいっそ、この艦にある連邦製のメカは僕がチーフとなって」 「お断りするわ」 「・・・!」 話の腰を小娘に折られてオールバックは口を醜く歪めた。 優男が台無しだがメイはこの人物の内面の一端を、垣間見た気がした。 「まあまあ、2人とも冷静になれ。 訳ありが集まってるこの艦に争い事は珍しくもないが、忘れるな、今はもう味方同士なんだぞ」 「ミガキさん・・・」 ミガキにそうまで言われてしまっては、メイもこれ以上態度を硬化させる訳にはいかない。 「・・・技術主任のメイ・カーウィンよ」 「クライド・ベタニーだ。宜しく頼むよお嬢さん」 メイがしぶしぶ出した手をクライドは優しく握り、笑顔と共に甘い匂いを振り撒いた。 「捕虜が口走ったという、クライド・ベタニーという名前、見覚えがあります」 厳しい顔のニムバスがそう告げると、なんとも言えない怖気がアムロの背中を奔り抜けた。 293 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/07/23(水) 19 43 09 ID u8M96SRo0 [4/9] 「我々は既に作戦行動中です。本来は・・・この場は敢えて何も言わずに准尉をバイコヌール基地にお連れするべきだったのかも知れませんが」 ガンペリーを背にしてソンネンと並び立ったニムバスは ちらりとセイラを見やり、首を巡らせてハマーンとバーニィを見てから正面のアムロに視線を戻した。 「これは我々の立場を根こそぎ覆される可能性のある非常事態です。 座視する訳にはいかない、僭越ながらそう判断させて頂きました」 ニムバスの表情は渋い。 骨を折って実現させた・・・アムロ達年少組を最前線から遠ざけ安全な場所に移す、と言う当初の予定が台無しだ。 彼にとっても、これは考えに考え抜いた末の、いわばギリギリの決断であり、進言だった。 「話の流れから推測するに、そのクライドという人物は、恐らく連邦軍のスパイでしょう」 「あー、やっぱ中尉もそう見るかい」 「間違いは、無いと思われます」 厄介そうに口を挟んだデメジエール・ソンネン中佐に、ニムバスは首肯した。 「私の記憶が確かならば、我々と入れ違いのタイミングで【青い木馬】に配属された補充兵リストの中に、奴の名が」 「な、なんですって!?」 アムロ達は息を呑んだ。 数多のデータ、リストと格闘し、たった一人で123高地のMS部隊を再編してのけたニムバスがそう言うのだ、信憑性は疑うべくもないだろう。 「経歴が特殊だったのでクライド・ベタニーの名は印象に残っていたのです」 「・・・こいつぁつまり、ゲリラ屋どもの動きが敵に筒抜けになるって事か」 ラルを綽名で呼んだソンネンは顔を顰め、帽子の鍔を引き下げた。 これが事実なら、彼らが今まさに、満を持して発動しようとしている一大奇襲作戦には致命的な事態である。 「あるいは情報攪乱を含めた破壊工作」 ニムバスの一本だけ立てた人差し指に、ぞくりとセイラの身体が震えた。 294 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/07/23(水) 19 43 56 ID u8M96SRo0 [5/9] 「むしろ単独潜入ならばこちらの方が可能性は高い。特に主戦力が出払った後が狙い目だ。 もしも私が敵陣営にスパイを送り込めたなら、最低この2つのミッションを並行して行わせます」 バーニィは冷や汗を拭った。 つくづく思い知らされる。このニムバスという男が味方にいる自分達は何とラッキーなのだろう。 「鹵獲され、今やジオンの【青い木馬】となった新型艦は連邦軍にとっていまいましい存在のはず。 本当なら奪還したいところでしょうが制圧するには人数が足りない。ならば、いっその事、破壊を狙う。 要人の暗殺という線もなくはないが、状況から見て今回はその可能性は薄いと見るべきでしょう」 「なぜだ」 「青い木馬はオデッサ本陣ではないからです」 「なるほど、確かにあそこにマ・クベはいねえやな。ザコの頭をいくら叩いても大勢に影響はねえか」 「・・・」 ニヤリと笑ったソンネンにニムバスは無言で頷いた。 実はあの艦には、今やジオンにとってマ・クベの様な小物などとは比べものにならないVIPが座乗しているのだが、それはまだ同胞に対しても秘匿されておかねばならない真実だった。 そしてシャアの正体が明かにされていない現在、ジオンのトップエースとはいえ、一兵士に過ぎない彼が個人的に狙われるとは考え難い。 ともあれ、事態は急を要した。 「ア、アムロ、どうしよう!?」 ハマーンがアムロの腕に取りすがる。 彼女の微かに震える指先から、爆発に巻き込まれるミハルやメイのイメージを察したアムロは大丈夫だと頷いた。 「落ち着くんだハマーン。これに気付いた僕たちがいる」 「准尉の仰る通りです。我々の動き次第で状況は打開できる。ただ・・・」 言いかけたニムバスの頬に大粒の水滴がぼたりと落ちた。 夕焼けの残光が消え、夜が始まる。ついに、雨が降り始めたのである。 深夜未明、雷鳴とどろく豪雨の中、軍用ヤッケを羽織った連邦軍兵士は、ずぶ濡れの体を震わせ悪態を吐き続けていた。 「冗談じゃねえぞカーターの○○野郎、今度は絶対に吠え面かかせてやるからな」 双眼鏡を覗きながらも悪態は止まらない。 金はもとよりポケットの中のタバコも酒も、支給品のチョコレートすらも 根こそぎ賭けポーカーのカタに巻き上げられてしまった彼は、もはやそうする事しかできない。 295 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/07/23(水) 19 44 37 ID u8M96SRo0 [6/9] 「待てよ、最初から奴の手札はおかしかった。あそこでAが重なるなんざ有り得ねえ」 ふと冷静さを取り戻した彼は、覗いているゴーグルの端に、ちらりと光が瞬いた気がして目をしばたたかせた。 暗視装置付きの双眼鏡ではあるが、今日は激しい雨と暴風に加え、上空を頻繁に閃く雷光のせいで性能が数段落ちている。 やはりと言うべきか、あわてて目を凝らしてみたものの光は見えない。 音紋装置も強風と不規則に大地を叩くスコールのせいで、殆ど役には立っていない。 「くそう、ついてねえぜ」 ここは高台に陣取る敵部隊を監視する為に設えられた定点観測ポイントである。 彼は恐らく現在、連邦軍兵士の中で敵に最も近い位置にいる。 不幸な男はオデッサの最前線で肩を落とした。 「よりにもよってこんな日に・・・」 突如 地の底から響く様な轟音が空気を切り裂いて飛来し、男はあたりの地面ごと吹き飛ばされた。 泥濘の中をごろごろと転がった男は口の中に入ったドロを吐き出しながら、ぼんやりと自身が何らかの襲撃にあった事を悟る。 浅い水たまりの中でうつぶせに倒れた男は、数秒の後、呻きながらも何とか上体を起こす事に成功した。 奇跡的に致命傷は受けていない様だと安堵する男の視線の先には後方、味方である連邦軍の陣営がある。 「な・・・何だありゃあ!?」 不幸な男の両目が見開かれた。 天空閃く稲光に照らし出されたシルエットは 轟音を上げて味方の陣営に向かう『地を滑る巨人の群れ』だったのである。 296 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/07/23(水) 19 45 31 ID u8M96SRo0 [7/9] 「おいガイア!どうやら敵の斥候がいたみたいだぜ?」 「放っておけ、どうせ俺達のスピードにゃ追い付けん。ここまで来ればな!」 後方モニターを気にするマッシュの言葉をガイアが笑い飛ばす。 例え今から警報を発令したとしても、もう、遅い。 「・・・メイの奴、しっかり隠れていやがるかな」 「オルテガ!戦いに集中しろ!敵は目の前なんだぞ!!」 「わ、判ってる!」 珍しく零したオルテガの独り言にガイアの叱責が飛んだ。 出撃前にも、何かと不機嫌だったオルテガをガイアは不審に感じていたのである。 しかし、これから飛び込む鉄火場では雑念は命取りになる。何があったのかは知らないが、ここは踏ん張って貰うしかない。 「見えたぜえ!いただきだ!!」 マッシュの声が荒ぶる。連邦軍の駐留地点が露わとなったのだ。 彼等のドムの後方にぴたりと従う7機の黒いMS軍団は、先頭をゆくガイアの合図でそれぞれの得物を構え直し、フォーメーションを鮮やかに組み替えた。 一大強襲作戦の先鋒を担うこの部隊に課せられた最大の難関は敵に見つからずに接近する事であった。 そこで部隊編成の際、ニムバスは全機に闇にまぎれる漆黒の塗装を命じたのである。 高機動型陸戦MS部隊―――― 【黒い三連星】を中心として選抜されたこの10機は その脚部に熱核ジェット・エンジンを搭載し、大地を高速で移動できるホバー機動が可能なMSで構成されている。 が、機体の統一はされていないというのが正直なところだ。 黒い三連星が搭乗しているMS-09【ドム】こそ純正の完成形をしているものの、その他は試作品や実験機を現地改修したものばかりで多種多様な外観をしている。 機体の中には旧ザクの頭部を使用しているものもある程だ。 だがしかし、これを操るパイロット達の技量と練度は、おしなべて高い。 そして今回の作戦における彼等の戦意も非常に高く、強襲部隊編入の打診を断る者は、ただの一人もいなかった。 かつてアムロも搭乗経験のあるMS-07HはMSを飛行させる事を目的に開発されたがその道は苦難の連続であった。 小さなものを含めると事故やトラブルも枚挙にいとまがなく、必然的に冷静沈着で腕が立ち、そして、強運で命知らずなパイロットのみが文字通り生き残ったのである。 各方面からオデッサの地に集ったこれらのパイロットを再編する際、ニムバスにはある確信があった。 日頃から彼らは軍内でも『役立たず』『無駄飯食らい』の誹りを受けており、何よりも実戦での手柄に飢えていると。 297 名前:1 ◆FjeYwjbNh6[sage] 投稿日:2014/07/23(水) 19 46 25 ID u8M96SRo0 [8/9] 「雄叫びを上げろ!!」 ガイアの指示で、連邦兵の目前に迫った巨大な一つ目巨人達が同時に吠えた! 金属同士が擦れ合うような130デシベルの不協和音がMS達の外部スピーカーから一斉に発射されたのである。 その凄まじい叫音の奔流は並み居る連邦兵達を魂の奥底から震撼させ、硬直させた。 この咆哮の中では逃走も反撃も、命令伝達すらままならない。 何より、大の大人が身体を震わせるほどに、怖い。 巨大なMSはそれだけでも恐ろしいのに、至近距離のこれが大音量で吠えるのだ。 その物理的な恐怖は筆舌に尽くしがたいものがあるだろう。 彼等にとって聴力機能に障害の出るレベルの騒音と恐怖から身を守る術は、両手で耳を塞ぎ、体を丸めて耐える・・・ぐらいしか無いのだった。 雷鳴とどろく嵐の夜、狂った様な叫び声を上げながら迫り来る一つ目巨人の群れ この場にいた哀れな連邦兵の脳裏に恐らく一生涯消える事の無いであろうトラウマを刻み込みつつ、ガイアは苦笑する。 この『雄叫び戦法』を提案したのは今や【青い木馬】の軍師となったニムバス・シュターゼンであった。 「ここまで覿面に効くとはな・・・」 実は「敵歩兵にMSの恐ろしさを再認識して頂こう」と薄く笑ったニムバスをガイアは内心でバカにしていたのである。 『いくさ場はビビったもんが負けだ、要は相手をいかにビビらすかだ』 そう言えば自分も普段からそう豪語し、喧嘩の時には怒号で威嚇し敵の心を折りに行っているではないか。 戦争でも相手は機械ではなく人間。心理的なアプローチが有効なのは間違いない。 あいにくMSや戦闘車両に乗り込んでいる相手には通じないが、これは未だ配備されたMSがジオンと比べて格段に少ない連邦軍には極めて効果的な戦法だった。 「全く、恐ろしい野郎だぜ」 獰猛な笑みを携えながら、ガイアは目前に迫った敵戦車にジャイアント・バズを発射した。 512: 1 ◆FjeYwjbNh6 :2017/11/17(金) 13 15 56 ID luxlIuUQ0 「シャア貴様、一体何を考えている!」 夜明け前、薄暗がりのこの時間。何時にも増して不機嫌そうに青ざめたマ・クベの顔が映し出されたモニターの画像は相当に荒れ、頻繁にその輪郭を把握するのも困難となる。 通常通信と比べて感度が抜群に良い筈のレーザー通信でもこの状態というのはすなわち、ミノフスキー粒子が適切に戦闘濃度で散布されている証でもあった。 「時間が無いので手短に説明させて貰うが」 そうは言いつつ、シャアの口調は焦りを感じさせない鷹揚さがある。 「この嵐に紛れて敵駐屯地に強襲偵察させた部隊が当たりを引いた。レビル本隊の可能性が高い」 「なんだと!・・・確証は有るのだろうな!?」 歪んだ画像の向こうでマ・クベが息を飲んだ気配が伺える。 「陸上戦艦を護衛する部隊の数と質が尋常では無い。何より連邦では稀少な新型MSの部隊が多数配備されている」 「・・・!」 ジュダックが行方不明になってしまった為、エルランとの内通が途切れてしまったマ・クベにとって、頻繁に戦場を移動するレビルの座乗するビッグ・トレー型陸上戦艦『バターン』の位置は最終的には特定できずにいた。 しかし、先程シャアからもたらされた座標はマ・クベのそれまでに持っていた情報と悉く合致し信憑性は極めて高いと思える。 それは水面下で様々な策を巡らせていた彼だからこそ解る手応えであり、確信めいたものがあった。 「私はこれから部隊を率いて更なる強襲をかけ、あわよくば制圧してしまうつもりだ」 気負った様子もなく実にさらりと、事もなげに言い放つシャアにマ・クベは戦慄する。 他の誰かが同じ事を言ったなら鼻で笑い飛ばす事も出来ただろう。だが、相手はV作戦を察知した赤い彗星シャア・アズナブルなのだ。 良くも悪くも、この男の運と何かを嗅ぎ付ける能力は普通ではないと不本意ながら認めざるを得ない。そしてそれをモノにする実力をも兼ね備えている恐るべき存在だった。 513: 1 ◆FjeYwjbNh6 :2017/11/17(金) 13 16 25 ID luxlIuUQ0 「そこでだ」 呆気に取られる暇をも与えず、シャアのマスクが抜け目なく揺れる。 「そちらからも増援を出してくれると有難い」 「貴様、この私に指図するつもりか!」 「数は少なくて構わない。君の正式な命令となればこちらも動き易い」 「・・・」 マ・クベは暫し押し黙ると、思考を様々な方向から巡らせ始めた。 つまりシャアはこれを正式な作戦として許諾し、マ・クベ指令の名で発動しろと言っているのだ。 ちらりと手元の資料に目をやる。前の晩に届いた報告書だ。 ザンジバルの打ち上げ準備は既に完了している。 そもそも本日の正午を持って彼は子飼いの一派と共に宇宙に脱出する算段だった。 去り際に核ミサイルを敵陣めがけて発射し、溜まりに溜まった連邦軍をレビルもろとも葬り去る。オデッサにおけるマ・クベの動きが鈍かったのは、時間を相手に与える事で限界まで敵の布陣を厚くさせるのが目的だった。 地球連邦政府がまともに機能していない今、この地に集結した大軍と超タカ派である将軍レビルさえ葬り去ってしまえばジャブローに篭る連邦高官など、どうとでもなる。 地上と連携が取れなければルナツーを始めとした連邦宇宙軍は殆ど無力化される為、もはやコロニー落としを阻む事は不可能であり、これをチラつかせるのが効果的だ。 ついでに前線に固めてあるザビ家の禍根となるであろうダイクン派の一掃も同時に行う。 それ以外のジオン将兵の被害も相当に出るだろうが、それはザビ家の力をもってすれば後程色々な意味でどうにか処理できる案件だろう。 オデッサという要衝を失うものの、それと引き換えに、ジオンを勝利に導く二重三重の目論見が成就するのだ。 そしてダイクン派に混じってこの目障りなシャア・アズナブルをも消してしまえる完璧な計略だった。だが。 ・・・状況が少々変わったと見るべきかも知れない。 514: 1 ◆FjeYwjbNh6 :2017/11/17(金) 13 16 55 ID luxlIuUQ0 「・・・」 眼前の荒れたモニターを見ながらマ・クベは塾考する。 シャアの掴んだ情報は恐らく正確な物だろう。ならばやるだけやらせてみるのが上策か。 自分とてこの要衝をむざむざ失いたくは無いのだ。ジオンにとって生命線たるこの地を放棄する事は断腸の決断だった。 手持ちの部隊を損耗させる事無く此処を死守し、更にレビルの首も取れるならば言うことは無い。これを欲目が出た、とは言えまい。 加えて自分の命令でこの作戦が実行された事にすればシャアを差し置き手柄も独り占めできる。 それに。 「良かろう。作戦を正式に認め全軍に発令しよう。増援も送るが、ただし」 「判っている。迅速に結果を出せと言うのだろう?」 「猶予は3時間だ。それを過ぎたら私は決断を下す」 それに。旗色が悪いと感じたら余裕をもってミサイルを発射し、宇宙に脱出すれば良いだけの話だ。それは当初の計画通りで何も支障は無い。 「3時間は短いが最善を尽くし、良き成果を挙げる事を約束しよう。そして君が賢明である事に期待する」 厳しい声音の仮面の男は、その決断が何を指すのか敢えて問わない。 「・・・・・・・」 荒い画像の更に奥、マスクの向こうのシャアの目に射竦められたマ・クベは無造作に通信を切った。 何処からか漏れ出した最高機密である筈の核ミサイル情報。今やオデッサの地で敵味方に開示されてしまったこのマ・クベの切り札を、あの男が知らぬ訳はない。 全て知った上でのこの作戦提案、普通に考えれば自殺行為に等しいものだった。 「シャアめ、やれるものなら」 そう言いかけてマ・クベはやめた。仇敵の様な存在に肥大した彼の活躍を想像しそうになった自分への抵抗であろう事は疑うべくもなかったが、彼はそういった自身の感情を巧くやり過ごす術に常日頃から長けていたのである。
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310 名前:前ふりの長い声優ネタです投稿日:2008/03/15(土) 18 18 50 ID ??? 兄弟家の一大事? アムロ「シロー、ロランは今日どうしたんだ?起きてこないが…」 シロー「さあ?たまには疲れがでたんですかね?」 カミーユ「大変だ!ロランが…ロランが…」 アムロ「ロランどうしたんだカミーユ?」 カミーユ「ロランが熱を出したんだ!」 一同「なに!?」 直ちに医者を呼び、アムロ以外は仕事などに向かった… 医者「ふむ…ただの風邪ですね。2、3日休めば治るでしょう」 アムロ「ありがとうございました」 医者「ではお大事に」 ドモン「で?明日からどうするんだ?」 アムロ「ああ…困ったことに明日から料理ができるやつは仕事だ…」 現在家にいるのは、会社を休んだアムロ、 たまたま試合のないドモン、そしてロランだけである。 アムロ「最悪なことにキャプテンは修理中だ…」 ドモン「なら俺が料理をすれば!」 アムロ「却下だ!死人がでる」 ドモン「誰かに頼むのは?サイサイシーとかに」 アムロ「それだ!」 ドモン「…そうか…無理か…すまなかった…」 アムロ「どうだ?」 ドモン「ダメだ…全滅だ…」 アムロ「仕方がない、とりあえず夕方にみんなで考えよう」 311 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:2008/03/15(土) 18 19 39 ID ??? アムロ「というわけだ…誰か知人に頼んでくれないか?」 シーブック「鉄仮面さんは明日から旅行だそうです」 アムロ(珍しいな…旅行なんて…) カミーユ「ヘンケンさんは傷心旅行です」 アムロ(また誰かに振られたのか…) キラ「ディアッカは繋がりません」 アムロ(炒飯はどうでもいい…サイサイシーとかぶる) アムロ「そうか…明日から俺たちは仕事だからな…」 ロラン「…1人だけいることはいます」 アムロ「ロラン!?寝てなきゃダメじゃないか…」 コウ「…まさか…シーマさん?」 ロラン「はい…喜んで来てくれるでしょう…」 アムロ「コウ…よかったな…」 コウ「この家は…地獄だ…」 シーマ「すまないねぇ…明日から仕事があるんだよ」 コウ「そうですか…すいませんでした」 シーマ「なあに、また今度一緒に…」 コウ「失礼します」 アムロ「コウ…シーマさんもダメなのか…」 コウ「はい…仕事で月に行くそうです」 アムロ「マズいな…こうなったら俺が休むしか…」 ???「心配無用!」 コウ「その声は…ガトー!」 312 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:2008/03/15(土) 18 22 22 ID ??? ガトー「その通り!私がかわりに料理をしようではないか」 アムロ「どこにいるんだ?」 ガトー「ふっ、流石ダンボール箱だ」 ダンボール箱の中から出てくるガトー… コウ「…いつからそこにいたんだ?」 ガトー「朝からずっとだ」 アムロ「とにかく頼むしかないか…お願いします」 ガトー「うむ、承知した」 コウ「不安だ…」 翌朝… コウ「こんな…バカな…」 兄弟家のテーブルには、見事な料理が並んでいた… カミーユ「ロランのとも負けずとも劣らずだ」 アル「ガトーおじさんすごいや」 ギンガナム「小生感動である」 キラ「なんでいつもあんたはいるんだ!」 コウ「ガトー…お前こんなに料理が上手だったのか?」 ガトー「うむ、常に包丁も肌身離さず持っている」 カミーユ「そういえば変態たちは?今日は静かだけど」 ガトー「私が倒しておいた」 アル「ガトーおじさん脚だけで倒しちゃったんだよ」 コウ「ガトー…お前は…いったい?」 こうしてロランが寝込んだ3日間、ガトーが仕事をしたのであった… ちなみにMGSのスネークとTOSのリーガルです。 前フリの長さは気にしないでください。 link_anchor plugin error 画像もしくは文字列を必ずどちらかを入力してください。このページにつけられたタグ アナベル・ガトー ガンダム一家 中の人ネタ